ミューズの肖像~勇気軌道~
ステージの最前列、八人のサウスクイーンアイドルが一列になって並んでいる。
右から――
高杉・マリア=マルギッド
悠木悠里。
アンリエッタ・トリミューン。
冴月晶。
妙高院静佳。
レオノール・ミリエマ。
アレクサンドラ・ロフスカヤ
矢神カナタ――の順だ。
ここまでの三七曲、アイドルたちは自分自身のイメージカラーを基調にした衣装で歌い、踊り続けてきた。
しかし、ライブのフィナーレで五万人の観客が目撃したのは、息を呑むほど可憐な純白のドレスだ。一人一人デザインは異なるものの、八人とも白一色で統一されている。
あまりにも神々しく、現実離れした光景。
それはどこか……大いなる最高神の祝福を受けた花嫁が並んでいるかのようにも見えた。美しい彼女らは至高なる神に愛され、女神となって人類を見守り続けるのである。
勢揃いしたサウスクイーンアイドルの存在感に静まり返った客席。
五万人が生み出す静寂の中――ふと、マイクを口元に近づけたのは冴月晶だ。
「あの――ボク、凄いなって思うんです。こんなにも沢山の人がボクたちのステージを見に来てくれて、一緒になって盛り上がって…………今夜のステージに立てたことをボクは誇りに思います。皆さんに歌を聞いてもらえて、本当によかった」
少しはにかんだような笑顔で言葉を紡ぐ。
広いアリーナ席、遠いスタンド席、会場全体に視線を送りながら思いを告げた。
「今この会場にいる人……映画館でライブビューイングを見ている人……そして、色んな事情でライブを見ることはできなかったけれど、いつも応援してくださっているファンの皆さん……みんなのおかげで、ボクらがあります」
その瞳に宿るのは強い意志だ。
アイドルというにはあまりにも崇高で、戦士というにはあまりにも澄み切った瞳。
「みんなが応援してくれるから……ボクたちは戦える」
世界中の人間――いや、人類という種族そのものを魅了して止まないサウスクイーンアイドルの姿がそこにあった。
ステージに並ぶ八人全員が、同じ光を瞳に灯していた。
「だからボクたちも応援したいのです。すべての人が何かに立ち向かわなければならないこの世界、そこに生きるあなたを」
そして――音楽が始まる。
「学校、職場、家庭――戦う場所も、戦う相手も、戦う理由も人それぞれ。多分きっと、今この瞬間にだって、どこかで必死になっている人がいます」
幾重にも音が重なった、美しくも力強いイントロ。
「誰も見ていなくたって、何の賞賛もなくたって……何かを守ろうとしている人」
観客の誰もが『冴月晶のあの曲』だと思って胸を高鳴らせる。
「どうか、戦い続けるあなたにこの歌が届きますように」
冴月晶がそう言い終えると、一拍の間があって――
八人のサウスクイーンアイドルが、一斉に人差し指を天に伸ばした。
声を揃えて放つ。
「――ブレイブライン――」
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