第五話「君と僕。」

 イオンモール。

 それは、多くの専門店と数々の高品質の食材を揃えた夢のような場所だ。

 毎日の暮らしを彩ってくれる。イオンモール最高……。

 イオンモールと言ったらやはりあれだよ、フードコー……

「……マコトくん?どうしたの、いきなり考えこんじゃって……?」

「はっ!」 

 ボクのお嫁さん、美月みつきちゃんに呼ばれ、僕の思考はイオンモールから遠ざかる。

 ヤバい、イオンモールが好きすぎて脳内にまで侵入してきた。

 こんなに好きなのに、僕はなぜイオンモールの会社じゃなくてamezonに入社したのだろうか……?


「ああ……大丈夫。何でもないよ」

「そう?なら良かった」

 そう言って、美月ちゃんは安心したようにニコッと笑った。

 些細なことも心配してくれる美月ちゃん、ホントに可愛い。


 話は変わるが、今、僕たちは、イオンモールに向かうバスに乗っている。

 なぜイオンモールへ向かうのか。それは、美月ちゃんと僕が一緒に暮らすことになったからだ。

 落ち着いているように感じるかもしれないが、僕は今、相当動揺している。小学生の時別れてからずっと会うことが出来なかった大好きな人に、今日いきなり再会して、さらに結婚し、さらに一緒に暮していくことになるなんて……。


 本当のことを言えば、心の奥底で、ありえないことだと思っている。

 一度離れてしまったら、もう二度と会うことはできない。

 天の川を舞台にした、七夕の物語にあるように。

 織姫と彦星。二人は愛し合った。

 しかし、二人の愛は突然に断ち切られる。


 その後、二人は年に一度、七月七日にだけ会うことを許された。

 一年に、一度だけ。


 この出会いを……この再会を……絶対に無駄にしてはいけない。

 あの日のように、彼女が突然消えてしまうのは……もう、嫌だ。

 一年に一度だけではない。

 僕は、彼女と一年中を、共に過ごしたい。

 だって、夫婦なのだから。


                     ━


 家を出て約20分。イオンモールに着くまでの間、都営バスに揺られながら僕たちはいろんな話をした。

「お店まであとどれくらいかかるの?」

「うーん。あと五分くらいかな」

「意外と近いのねー」

 こんな会話をしていると、いつの間にかイオンモールに着いてた。


「お~、おっき~い!」

「都内最大級だからね

 じゃあ、早速必要なものを買いそろえよっか」

「ええ」


                     ―


 僕たちはまず生活雑貨・日用品のフロアへやって来た。このエリアは他のフロアと違って内装が木のぬくもりにつつまれている。所々に観葉植物が植えこまれていたり、壁が木目調になってたり。

 いいね。こういうの好きだ。

「必要なものはなんでも買っていいよ?」

「うん!」

 そうして美月ちゃんがカゴに入れたのはタオルと歯ブラシなど日常生活に必要な最低限のものだった。


 ふと横を向くと、家具売り場があった。

「ダ…ダブルベット……」

 さっき家を出る前にネットで見たサイトを思い出す。そこにはこんなことが書かれていたのだ。

【新婚で何をすればいいのかちょっと分からないそこの君!】

 はい。ちょっとどころではないけれど、はい。

【そんな君にこの知識を送ろう!】

 おおっ!おねがいします!!

【結婚したならまずダブルベットを買え!】

 は!?

【は!?とか思ったそこの君!これはあたりまえのことなんだぜ!?】

 そっ……そうなの……か?

【そう。あたりまえのことさ!その目的の物を用意できたら、早速二人で同じ布団の中、一緒に寝るんだ!】

 はぇ!?

【分かったかい?これが新婚の基本さ!君の健闘を祈るよ!】


 ……と、あまり信憑性のない感じもあったが、ネットに書かあれていることは案外本当なのかもしれない。

 僕がダブルベットを横目に見ている間にもいかにも新婚のような若い男女が手をつなぎながらだぶるべっとを購入し、またもや手をつなぎながら帰っていった。


 ……手をつなぐ。まずはこういうことから始めるべきではないか?

 小さなふれあいから大きなふれあいへと広がっていくこと、相手の新しい面を見つけること。それが結婚することの大意義ではないか?

「ね、ねえ美月ちゃん」

「!!……なあに?」

 まだ‘ちゃん’付けで名前を呼ばれるのに慣れていないからか顔をほのかに赤らめる。かわいいなぁ…。

「手……手をつないでも……良い……?」

「はえっ!?手!?」

「あー、あー!ごめん!嫌ならいいんだ!

 久々に再会したばかりなのにいきなり手をつなごうはおかしいよ……ね……?

 って、あれ?」 

 いつの間にか僕の右手にとても柔らかい感触が……。そう思って右手に目を向ける。

 そこには、美月ちゃんの手と僕の手が重なり合っている。

 ……美月ちゃんと……手をつないでいる。

 すごい……柔らかい……これが女の子の手なんだ……

 ずっと握ってたい……


 驚きと幸せと心地良さ、三つの境目でさまよっていると、美月ちゃんが少し俯うつむきながら口を開いた。


「……嫌なんて言ってない。好きなんだから……むしろずっと握ってたい」


 かわいすぎて失神しそうだった。失神しかけた原因はこれだけではない。

 すっごくいい香りが鼻を突き抜けていくのだ。

 女の子ってこんなにいい香りがして、しかもこんなに手が柔らかいんですね。

 べんきょうになりました……。はふぅ……。

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