第7話「結末」

 事情聴取。


 本来デッドボールで警察が介入することはない。しかし、今回は死亡事故になってしまった。デッドボールによって人が死んだ例というのは日本においてはなく、唯一日米野球で、それも守備処理の中であっただけである。

 実質今回の例が初めてだともいえた。


 人が死んでしまった以上、警察も宮司に対して事情聴取をせざるを得ない、もちろん場合によっては殺人罪であるし、過失致死になるからだ。


 しかし果たして宮司に対して、過失致死を請求できるのかは非常に、難しい話である。たまたま当たってしまったボールによって、過失致死認定されるのであれば、野球というスポーツは成り立たない。


 ピッチャーはみな、人を殺すかもしれないという前提においてマウンドに立たなければいけないからである。未必の故意という言葉がある、明確な殺人の意思がなくとも、殺してしまうかもしれないという可能性を感じているならば、それは殺人の意思を認められるというものだ。


 もちろん、今回の件に未必の故意は認められない。

 確かに万が一の場合にピッチャーには、相手を殺してしまう可能性はある。だが、さすがにそこに未必の故意を認めることはさすがに、未必の故意の乱用と言わざるを得ない。そんなことを言い始めたら、ボクシングなんていう競技は成り立たない、野球以上に相手を殺す可能性が高いし、実際死んだ人間もいる。


 では、なぜ今回宮司に対して事情聴取が行われたのか。


 それはやはりあまりにも不自然であったからだ。あまりにも周囲の声(主にネット)に今回の死亡事故は、日明側がわざとやったっという声が多かった。

 

 なぜ、今まで登板したことのない投手が突然、甲子園の大舞台で登板することになったのか?その答えはは相手のエースに、ボールをぶつける以外にないからだというように思えた。


 さらに日明のエースの矢部がどの媒体でかはわからないが『何らかの意図があって俺は先発を外された』という発言をしたことにも起因してる。今ではその発言をしたことが真実かどうかはわからなくなってるが、世論は圧倒的に日明はわざと、井狩をつぶしたのだという風に傾いていた。



 それゆえに、警察は宮司に対して事情聴取をせざるを得なくなっていた、場合によっては殺人罪で、宮司を起訴しなければいけない、そんな状況だったのだ。


 そして、宮司は今、警察に事情聴取を受けていた。


 しかし宮司は事前に監督たちに指示を受けていた。


『万が一、お前がわざとボールをぶつけたとか、そういう指示を受けたとか言った場合、お前は殺人罪で訴えられてしまうかもしれない。お前にそんなつもりはなかったよな?そんなつもりはなくても、ぶつける意志があったならば、お前は殺人犯だ。いいな分かるな、お前にぶつける意思はなかった。お前は悪くない、ただ、手が滑っただけだし、結果、最悪の事態になってしまった、それだけだ』


 何度も何度もそういわれた。

 そういわれるうちに、宮司もそんな気がしていた。確かに自分に殺すつもりはなかったし、ぶつけるつもりもなかった。ただ、コーチの命令に従っただけだ。でも従っただけとはいえぶつけたことに違いはない。

 どうだろう、命令されたこととはいえ、俺にぶつける意思があったら、犯罪者に認定されてしまうのではないか?

 そう思ううちに彼は、深層心理が変わっていった。

 俺はただ、一生懸命投げた結果ぶつけてしまっただけだ。


 それゆえに、宮司は事情聴取に対して

「ぶつける意思はありませんでした」

「何らの指示もありませんでした」

 と答え続けた。


 もちろんその結果、彼は不起訴処分になったし、監督たちにもおとがめはなかった。

 ただ、宮司に対する「人殺し」という声だけはなくならなかった。


 宮司にも、監督にも、コーチにもおとがめはなかった。世間的にも野球というスポーツをやる以上こういう可能性はある、仕方のないことだと言う意見が増えていた。


 しかし納得できない人たちも多い。彼らには徹底的に日明のメンバーを叩くことが正義だと思えた。

 世間の声はおそろしい、この事件はまだ終わらない。

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