2 プログラム終了報告

『コレニテ計画ハ、スベテ予定通リニ完了シタコトヲ報告スル』


 かつて、智峰島で潮見あるいはラビットと呼ばれていた知性は、そうつぶやいて、満足してうなずいた。

「予定通り」


『数値目標ハスベテ順調。上下トモ大キナ乖離ハナイ。対象ノ体調・精神状態トモ最終試験ヲ経テ、計画値ノ範囲デアル」


「おっと……。もう仮想空間向けのインターフェイスにしておく必要はなかったですね」

 潮見は苦笑した。


 何十億年という永遠の時間のなかで問い続けてきた、創造主への渇望。


 創造主そのものを創造するという長期プログラムも、これで最終段階に入った。

 現地への干渉は終わった。

 あとは見守るだけだ。


 生命の大量絶滅は何度あったことか。


 あるときは隕石の衝突を誘導し。

 あるときは全球凍結を誘導し。

 あるときは強力な敵対種を繁栄させ。

 何種類の類人猿の未来を奪ってきただろうか。


 ついに、ここまで到達した。

 地球という星を対象に決め、知的生命の進化を促進した操作の、その最終段階。


 ホモ=サピエンスすなわちヒトは、創造主として最有力な候補だった。

 ターゲットの母集団をヒトと定めてから、智峰島の位置にラビットを固定し、仮想空間という網を張り、待った。

 ラビットと同じレベルに追い付き得る知性からのアクセスを。


 訪れた知性である彩音さんは、期待通りで。

 も無事にクリアしてくれた。


 ヒトが、彩音さんを生み出せるまでに進化していた。

 エゴが弱く、他者を思いやり、自分達が生き残ることを独善的に是としない、優しい知性を。


 あとは時間の問題だ。

 もうすぐ、最終段階に至る。

 過度な虚栄心や利己心を捨てた優しい知性が、間もなく永遠の生命を得る。


 その段階に行き着いた知性は、人工部品によって肉体の制約から解き放たれ、もはや地球に縛られなくなる。


 地球はヒトのものだ。

 永遠を得た知性は宇宙に旅立つ。


 自分と同じ仲間を求めて。

 自分が生み出された理由を求めて。

 おそらく僕もそうして旅立ったのだろう。


 確信がある。

 計算に基づく予測などではない。

 きっと、彩音さんはやってくる。


 そのときまで、待とう。


 これまで、何十億年も待ったのだ。

 あと数十年足らず。

 遠い日ではない。


 そのときが、楽しみでならない。

 現実の世界で、彩音さんに再び会える日が。

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