7 マスター
「それでは、ちょっと役割が違うメンバーを。こちら、杉山彩音さん。杉山さんは『マスター』です」
潮見が彩音を見た。
自分の番だ。翔真や優菜に理解してもらえそうな範囲で、何をどこまで話そう。
「杉山です。仕事は、元AIエンジニアです。AIというのは、言葉としては皆さんご存知の通り、人工知能のことで。そのAIのプログラムを考えたり、AIを賢くする学習をさせたり、そういうお仕事だと思ってください」
彩音自身、自分の役割がまだはっきり理解出来ているわけではないので、そのまま潮見に訊ねることにした。
「それで……。私は運用側、ということですけど。私自身、このプロジェクトがまだはっきりつかめていなくて」
「そうでしょうねえ。何しろ杉山さんは、先ほど着いたばかりだ」
「具体的に、私は何をすればいいんです? こちらのお二人は、テストプレイヤーということなら、なんとなくやることも想像出来ますが、私は開発ですよね」
「ええ。広い意味では開発ですが、主には、プレイヤーの皆さんにとってのカウンターパートです。プレイヤーの皆さんと同じシミュレーション環境内で行動し、ときには相談相手となり、内容をAIにフィードバックするメンテナンスもしていただきます」
「なるほど。ぼんやりイメージが浮かんできました。そうなると、知りたいのはプロジェクトの内容です。村起こし、島起こしのプロジェクトということですけど……」
「よろしい。自己紹介も一通り済みました。プロジェクトの概要説明といきましょう」
潮見は、後ろにあったホワイトボードを引っ張り出してきた。
「皆さんにお集まりいただいたのは、他でもない。すでに予備知識をお伝えしている通り、我が智峰島の未来を担う人材としてスカウトしたのです」
ホワイトボードには、智峰島の地図と航空写真が張り出されている。
「皆さんは、いわば天国への切符を手にした方々。智峰島はユートピア、地球上に復権する楽園です。適切な規模で管理される自給自足型の循環生活。人類がここから新しい時代に進む、そういう島なんです」
天国……?
彩音は、眉をひそめた。隣では翔真と優菜も顔を見合わせている。
急に、胡散臭い言葉の響きだ。
潮見は、そんな彩音達の反応を気にする風でもなく、説明を続けた。
「プロジェクトとして、智峰島全体を再現した仮想空間を用意しています」
「島全体を、再現…?」
彩音は、今度は声に出して疑問を口にした。
「ええ。そう難しく考えることはありませんよ。たとえば自動車の自動運転のテスト。事故の危険性があるような、実際の道路では出来ないテストを、事前にシミュレーションで行いますよね」
翔真達が隣でうなずいている。もちろん、そのぐらいは高校生でも分かるだろう。
しかし……。
彩音は次々に浮かぶ疑問を脳内で整理し続けた。
「それと同じことで、この島そのものを、体感型の仮想空間としてAIが再現します。全身の神経活動をリアルタイムで反映しますので、いわゆる装置を付けて挑むVRとは次元が違います。指一本動かさなくても、仮想空間の中では脳波だけで自由に行動が出来るわけです」
彩音は問いをぶつけた。
「神経活動を反映って……最先端の義手開発とかで研究されている? 実用化レベルではないと思いますが……」
「だから、テストプレイなんです」
「それに仮想空間、VRですよね。どのぐらいの再現度か分かりませんが、スパコン級の処理能力が必要です。この島にそんなものが……?」
潮見は穏やかな表情を崩さない。
「他にはどうです。この際です。疑問があれば皆さんまとめてどうぞ」
「……じゃあ、仮にその仮想空間が再現出来るとして。何がプレイヤーの目的になるんですか。当然、ただ生活をするだけでいい、というものではないですよね」
「具体的には、ですねえ。こほん」
と、潮見は芝居がかった咳払いをした。そしてまた微笑。
「僕には、夢があるんです。その夢をかなえるお手伝いをしていただきたい」
「夢……?」
「つまり。智峰村は、本土からの独立を考えていまして。この島が独立を宣言したときに、本土や外部がどう動いていくのか。それを、仮想空間であらかじめシミュレーションするんですよ」
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