4 翔真
「それではお二人とも、宿に行きましょうか」
潮見が車を運転し、後部に彩音達二人とその荷物。
車が動き出してから、彩音は悟られない程度に翔真少年を観察した。
同じプロジェクトといっても、さすがにAIエンジニアとは思いにくい。ゲームとなれば、テストプレイヤーだろうか。
翔真は、なかなか自分から会話をしてくる気配がない。
このまま沈黙してしまうのもよいが、もしプロジェクトチームのようなものだとしたら、早めにコミュニケーションを成立させておかなければ。
「望月君はUターンって、さっき村長さんが言ってたけど……」
「……あ、はい」
翔真が静かに答えた。
「えっと、つまり、この島にご家族が?」
「はい」
「でも、泊まるのは宿なの?」
「……はい」
翔真は、なかなか必要最低限のこと以外に口を開かない。
潮見が会話に入ってきた。
「ええ、まあ、そうなんですよ。この島は歴史的にも一つの共同体みたいなものです。ですから、プロジェクトの間は役割に関わらず僕が皆さんをお預かりします」
「役割か……。私はAIエンジニアって」
彩音はスマホの求人概要を翔真に示した。
「AIエンジニア?」
翔真の顔に疑問が浮かぶ。理解されなかったようだ。
「うーん、AIの仕組みを考えるプログラマーみたいな」
「ああ、プログラマー? ……頭、いいんだ」
彩音は苦笑した。まあ大概の人にとって、AIやプログラマーに対する一般的イメージなど、そんなものだろう。
「じゃあ、望月君は……?」
「俺? 俺は、たぶんテストプレイヤー」
彩音はうなずいた。だいたい、予想通り。
車は海岸沿いの道を静かに進む。
信号は一つもない。そもそも対向車だってまだ一台いたかどうか。
空はどこまでも青く、海はそれよりさらに青く、近くに見える山の姿は濃い緑色で。
「さ、もうすぐですよ」
潮見が言った。
車は、
海沿いから少しだけ坂を登って山の中腹に入った場所にある。
民宿や一般的な旅館とやや趣が異なる。まるで、お寺にあるお堂が幾重にも重なっているような不思議な構造をしている。
誘導されて物珍しそうに入り口まで歩く彩音達に、潮見が語り掛けてきた。
「ここは、宿坊なんですよ。君は智峰生まれでしょう。知っているかな」
「しゅくぼう? いや……。朝凪館はもちろん知ってるけど……」
聞き慣れない言葉にか、翔真が首を傾げる。
彩音は助け舟を出した。
「宿坊っていったら……お寺に泊まれるっていう……」
「ええ。ここは
玄関を入ると、てっきり女将が出てくるのかと思っていたら、フロントで会話をしていた黒い袈裟の男性が進み出た。
坊さんだ。
村長よりだいぶ年上。おそらく六十代以上。髪は剃っているが眉毛が濃くまるで毛虫のよう。
「天磐寺の住職、
潮見が三戸住職に変わって言葉を継いだ。
「お二人とも、今日はお疲れでしょう。まずはご夕食を。その後に続けて、簡単な説明会を開きます。五時に食事処にお集まりください」
「食事処?」
「あ、ご心配なく。これから宿の説明はしますから」
「おお。では、私がご案内しましょう」
彩音と翔真は、どちらからともなく顔を見合わせて、住職の案内に続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます