4 島時間

フェリーに揺られること約二時間。

智峰島が見えた。


建物はあまり見当たらず、緑がほとんど。本当に小さな島なのだろう、港からすぐに低い山が盛り上がっている。おそらく、標高は100メートル足らずか。

事前に調べた情報では、島を全周しても三キロ程度しかないそうだ。平地などほとんどないだろう。


結局、智峰島に徒歩で降りたのは、彩音を入れて三人だけだった。


高校生ぐらいのような少年。

大きなリュックサックを背負い、さらにスポーツバッグを背負っているから、本土の高校にでも通っている生徒なのだろうか。

背はそこまで高くないが、少しだけ陽に焼けていて爽やかな容姿。きっとモテるだろう。


そして、買い物にでも行ってきた帰りなのだろうか。農家のように見えるおばあちゃん。

腰が曲がりかけているが、杖をつくでもなく驚くほど確かな足取りで、さっさとどこかに去っていった。


あとは、車が三台すぐに出ていき、入れ替わりに二台乗ってきた。これから本土に向かうのだろう。


港は、折り返しのフェリーが出ていくと、さーっと静かになった。


人がいない。

怖ろしいほど誰もいない。

海岸線に急に迫った緑の山。

電線さえ数えられるほどの数しか見えない。


コンピュータの画面と、繁華街の雑踏に疲れている彩音には、心地よかった。

自分の頭でゆっくり処理できる範囲の情報量しか、ここには存在しない。

かすかに春の花の香りが漂う静かな島。


スマホで連絡のメールを見て、待ち合わせ内容を確認する。

この港、この時間で合っている。迎えが来るはずだ。


空を見上げる。

雲がぽつぽつ。穏やかだ。


海を渡る風も心地よい。四月も近い清々しい陽気だった。


彩音と一緒に降りた少年も、どこにも行かずにぼうっと立っている。

ときどき、お互いに意識するほどでもないが、ちらちらと見合ってしまう。


自分はともかく、この子はなぜ動かないのだろうか、と彩音は訝しんだ。

まさか、自分と同じプロジェクトの参加者で、迎えを待っているなどということは…。


いやいや、それはない。

あれは求人広告なのだ。

彼はどう見ても学生。何かの用で本土に出かけて、島に戻ってきた学生、ただそれだけのこと。おそらく、迎えの家族が遅れているのだ。


しかし、やはり気になってしまう。

こういうとき、人見知りをしない社交性が高い人間なら、声をかけたりするものだろうか。


自分のほうが年上で、相手はただの学生なのだ。何を怯える必要があるというのか。

と、思ってはみても、大人はそう簡単には変われない。引き続き、人間観察をするばかり。


先入観は捨てるべきかもしれない。

対象はゲームだ。

デバッグやプログラミング、デザイナーとなると、学生にいくらでも優秀な人材はいる。

自分だって、高校時代から、はたから見ればまさかと思われるプログラムの開発歴を密かに持っているではないか。


することがなく、またスマホを見てしまう。

ITツールが手放せないのは職業病なのか現代病なのか。

こういうとき、スマホや携帯がない時代の人達はどうしていたのだろうか。

自分達の当たり前は、自分達以外の世代の当たり前ではない。


と、車の音がした。

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