第27話 子供

 世界樹の異変は上部に魔力の滞留が起きていて、それを解消してきたという


事にするというなんとも言えない言い訳を作った。


 テラではステラ様が白と仰ったらその瞬間から白になっちまうからな。言い


訳として通用するかとか関係ないんだ。さすが母親幼女。




 そしてこの神獣は異変を察知した世界樹自身が生み出した事にして、俺が面


倒見る事になったという顛末を作り出した。






 エレベーターを降りて戻った後、うまく話を合わせるようにしなくては。帰


りのエレベーターの中で夕焼けに染まるテラの景色を見ながら俺は叫んだ。




 「コレジャナイ!」


 「ピッピ!?」




 神獣ちゃんは子供に戻って話せなくなっているが俺の叫びに驚いていた。




 「すまんすまん」




 そう言って神獣ちゃんをあやす。俺は子供が大好きだからな。




 「突然叫んでどうしたのじゃ?」




 おそらく母親幼女にはわからない人間的な感性でしかないのかもしれない。




 「ハルさんは血湧き肉躍る熱い展開を期待していたのでしょう。それが蓋を


  開けてみれば……ププッ」




 くっそおおおおおお!その通りで何も言えねぇ!ぐぬぬ。








 「いやだって俺が今回やった事って不具合オプションの神獣に「魔力還元」


  しただけだぞ」


 「それでもハル、お主が解決した事にはなんの変わりもないのじゃよ」




 母親幼女……。母親って温けぇな。




 「そうですよ。よく言ってるじゃないですか。自分にできる事をするだけだ


  と、これはハルさんにしかできなかった事です。例えそれがただの尻拭い


  だとしても」




 散々持ち上げて良い気分になりかけたところで最後に真っ逆さまに落とす。


家政婦ってすげぇや。なんでもできるんだな。


 完全に俺の心を折りにかかってやがる。




 「それに……皆さんはハルさんが無事に帰ってきただけできっと喜んでくれ


  ます」


 「そうじゃな。良い友を持ったのう」








 遠くに俺を待つ3人の姿が見えた。まったく、いつから待っていたのか。




 「今回は結果が全てという事で溜飲を下げる事にするぜ」


 「うむうむ」「そうですよ」




 夕闇迫るケルナの街を3人の下へと急ぐのであった。










 俺は今、なぜか正座をさせられている。


 正座という事はお馴染みのソフィーちゃんにさせられているのだが。本当に


なぜだかわからない俺は少し回想してみる事にした。






 無事を喜んで出迎えてくれた3人。口々におかえりと言ってくれてこちらも


ただいまと返す。ちょっぴり照れ臭くてむず痒いが悪くねぇな。




 問題が解決した事を伝え、エッラさんに報告しに行く事になった。


 ここまでなんも問題ねぇな。




 エッラさんの執務室へ入り捏造した報告をする。言い訳とか言っていたがど


う考えてもただの捏造だからな。


 そこで最後に俺は子供に戻った神獣を出し言った。




 「こいつは俺が育てる事になった」






 これなのか……? 例の叩きつけるような真冬の寒さを思い起こさせる冷気


を感じたのはこの一言からなのだ。しかも周囲にいるオーロラたんもレオもエ


ッラさんも止める気配全然ねぇぞ。


 やべぇ、まったくわからん。勇気を出して本人に窺ってみるしかねぇ。




 「あ、あの。ソフィーちゃんこれはどうして……?」


 「どなたとの子供ですの?」




 ソフィーちゃんはかぶせ気味に言ってきた。それを皮切りにオーロラたんも




 「誰との子供なのだ? くっ!わたしやソフィーだけでは不服なのか!」




 と言いながらシオリさんを抱きしめて、ころがり始めた。








 なんだこれ。意味がさっぱりわからねぇ。




 「いったいだれとのこどもなのだー?」




 エッラさん、流れに任せて棒読みで言うの止めてもらっていいですか? レ


オも言いたそうにウズウズしてたけど言わせねぇ!言わせねぇよ!




 「まぁ待て。とりあえず俺の話を聞いてくれ」




 何がトリガーになってるのかわからんからな。冷静に話そう。




 「勘違いしてると思うがこいつは俺の子供じゃなく、世界樹が生み出した神


  獣だ」




 ソフィーちゃんとオーロラたんからの圧が消えた。やったぜ。




 「世界樹が異変を感じ作り出したのがこの神獣ってやつだ。あのまま置いて


  おくわけにはいかないし、育てるのに大量に魔力が必要だから俺が育てる


  事にしたんだよ」




 ふぅ、これでどうだ。チラッチラッとソフィーちゃんとオーロラたんを見て


みる。どうやら大丈夫そうだな。あいつらこの神獣を俺の子供だと勘違いした


のかよ!どう考えてもありえねぇだろ!




 「ごめんなさいですわ。わたくしてっきりハル様に隠し子がいたのかと」


 「わたしもそう思ってしまった。すまんな」




 いや見ればわかるだろ!ぐぬぬ。




 「ははは、ソフィーもオーロラもハルの事となると冷静ではいられなくなる


  みたいだね」




 ソフィーちゃんはレオの事でも超暴走するじゃねぇか。


 どうやら誤解も解けたようで2人とも正座をやめさせてくれた。






 「それじゃ報告がてらバゲンに戻るかのう」


 「時間も時間ですし「転移魔法」にも魔力を溜める時間が……」


 「それは気にせずとも大丈夫じゃ。ハル行けるかの?」


 「おう、いつでもいいぜ。みんな荷物まとめてこいよ」




 条件についてはまだ結論を得られてないから、エッラさんも連れて行かない


とな。




 「条件についての話があるからエッラさんも来て欲しいんだが大丈夫か?」


 「あぁ、もちろん平気だ。ハル君も荷物をまとめてくるといい」


 「それじゃ一旦失礼するわ。また後で」






 俺の荷物は少ないからな。準備を済ませるとさっさと外へ出てきた。


 魔力の流れを作ってるからか薄く光り続ける世界樹。キレイだな。




 「おっと、忘れるとこだったぜ」




 ケルナの街と世界樹を心のフォルダへと収める。俺はまたここへ来る事を深


く心に誓う。これは紛れもない本物ってやつだ。こんなにも素晴らしい場所が


観光地化してないのも不思議だぜ。


 それが良いか悪いかは別として。






 「早いな、ハル君」




 まさかさっき別れたばかりのエッラさんが一番乗りだとは思わなかった。




 「それは俺のセリフだぜ。女性の身支度ってやつは時間が掛かるもんだろ」




 長年、明日香とシオリさんと暮らしてきたからな。嫌って程わかってるつも


りだ。




 「ふふっ。遥かに年長のわたしを女性扱いするところもいいね。王国の姫や


  オーロラが惚れ込むのもわかる」




 ソフィーちゃんはわかるがオーロラたんが? そんなまさか。




 「オーロラたんはシオリさんしか目に入ってない気がするぞ」


 「それは師匠的存在であるわたしの勘ってやつだ」




 俺のストーキング歴もだいぶ長くなってきたが、オーロラたんからはそんな


気配が少しも感じられないんだよなぁ。


 地球で女性から全く興味を持たれないという稀有な経験から人からの好意に


は敏感なのだ。




 「オーロラたんと毎朝特訓してるがそんな気配全くないぞ」


 「まずあいつが男と毎朝特訓なんて時点でおかしい」


 「そんなもんか」


 「あぁ、そんなものだ」




 やはり観察だけでなく一歩踏み込んでみない事にはわからねぇもんか。経験


不足が否めん。




 「何はともあれ、オーロラをよろしく頼む。あいつは知っての通り不器用で


  な」


 「任せられた。噂をしてたらやってきたぜ」




 エッラさんと話しているうちに皆が次々とやってきた。さっきまであんな話


してたせいか変に意識しちまうぜ。平常心、平常心っと。




 「待たせたのじゃ」


 「お待たせしましたわ」




 と次々にやってくる。そしてレオが最後にやってきた。あれかヒーローは遅


れてやってくるみたいに王子様は遅れてやってくるのか。






 「全員揃ったな。馬車もできるだけ近くに寄せてくれ」




 母親幼女とシオリさん以外はギョッとしてる。テラの「転移魔法」の常識と


か関係ねぇからな。




 「大丈夫だからもう少し頼むぜ」




 魔力を溜めて心に焼きつけたバゲンの街をイメージする。俺は地面に手の平


をつけた。




 「「転移魔法」発動」








 一瞬で場所が切り替わる感覚は不思議なもんだ。何度経験してみてもなかな


か慣れん。




 「これだけの人数を連れて馬車ごと転移だと……。」




 エッラさんはビックリしてる。そういえば俺がこいつらに「転移魔法」使う


のも初めてだったぜ。


 母親幼女とシオリさんを除きこんな簡単に戻ってこれた事にビックリしてや


がる。今ならレオの鼻に指を突っ込もうが気付かないだろう。仕方ねぇな。




 「オスカルさんとヨハンに報告に行こうぜ」




 声を掛けて我を取り戻させてやる。




 「ハルよ、地面に手をついてたがあれはなんなのじゃ?」




 おい、やめろ幼女、そこツッコむな。流してくれ。




 「ハルさんの事ですから、「魔法発動する時地面に手の平つけたらかっこい


  いんじゃね。ぐふふぅ」とか考えたのでしょう」


 「なんで脚色されてんだよ!」






 騒ぎが聞こえたみたいでオスカルさんとヨハンが出てきた。




 「なんの騒ぎかと思って出てきたらもう帰ってきたのかいー?」


 「あぁ、世界樹の異変は取り除いてきたぜ」


 「な!? 早過ぎるだろ」




 ヨハン驚き過ぎだろ。まぁほとんど何もやってねぇけどな!




 「オスカルよ。世界樹からそのまま帰ってきて、ワシは腹減ったのじゃ」




 母親幼女……今回本当に何もやらなかったじゃねぇか。




 「ステラ様、大急ぎで準備させますので中に入ってお待ちくださいー」




 こりゃまた厨房が修羅場だな。あの新人頑張ってるといいが。




 食事の準備ができるまでもう一度捏造した報告をする事になった。「世界樹


の恩恵」による結界を張り直せばもう大丈夫だと伝えた。










 そして世界樹の問題を母親幼女自ら解決した今日という日を記念して、エル


ディスタンは各地で数日間お祭りになった。後にこの日を祝日とした。それが


「ステラ記念日」である。










 俺は真実を墓にまで持っていくしかなくなったようだ。この捏造記念日を。

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