第26話 還元

 「この「世界樹の恩恵」という名の呪いは解除できねぇのか?」




 さすがに1種族に与えられた特殊魔法の正体が世界樹守らせるための呪いと


かひでぇだろ。




 「無理じゃな。そこら辺はワシにはどうしようもないのう。おそらくシオリ


  でも干渉できんじゃろ」


 「まぁダメ元で聞いてみただけだ。エルフの人達もそこまで不便さを感じて


  ないみたいだしな」




 聞いちまったけどこれは心の奥底に封印しておこう。世の中知らねぇ方が幸


せなんて事はいくらでもある。それにプラスの効果もある「世界樹の恩恵」は


一概に呪いとも言い切れねぇ。




 「おぷしょんさーびすの神獣設置以外は世界樹の基本設定とかいうのらしい


  のじゃ。外敵の侵入感知とエルフによる守護は外せないらしいのう」




 宙を見て失われた何かを思い出すようにして話す。




 「外敵侵入なんて幾度も滅びた過去も含めて一度もなかったのじゃがな。H


  PCSを作った者はよっぽど危険な場所に住んでたか、心配性だったのじ


  ゃろう」




 そういえばテラがあるって事はHPCSを作った超高度文明が存在してるっ


て事だよな。すっかり頭から抜けてたぜ。


 科学と魔力を自在に操るテラと地球を越える文明とか怖過ぎるな。








 しばらくしてHPCSへのアクセスが済んだのかシオリさんが動きだした。




 「おかえり、でいいのか?」


 「ただいま戻りました」




 フワフワ浮いて近寄ってくる。「浮遊魔法」のコツとかねぇのかな。俺もフ


ワフワしてぇよ。




 「フワフワしたいこやつは放っておいて、どうじゃった?」




 思った事をそのまま口に出してしまうこの正直さもどうにかしてぇよ。




 「やはり地下部分にも問題なく、外敵の侵入も確認されておりません」


 「そんじゃ一体どうしてこんな事になってんだ?」


 「上空の神獣はこちらからの確認ができないので実際に見てみないとなんと


  も言えませんね」


 「それじゃ次は世界樹の上へ行くって事でいいのかのう?」


 「はい、そういたしましょう」




 なんだかよくわかんねぇ事になってきやがった。上に行く前にシオリさんに


さっきの話しを聞いておこう。




 「さっき母親幼女とも話してたんだけどエルフの「世界樹の恩恵」ってシオ


  リさんにもどうにもできないのか?」


 「無理ですね」


 「即答かよ!」




 即答でした。




 「おそらくステラ様にも聞いたと思いますが、基本設定や初期設定に当たる


  部分の変更は認められてないです。そのためにハルさんをこのテラに連れ


  て来たという背景があるので、頑張ってくださいね」




 ニッコリそう言われたらやるしかねぇじゃねぇか。




 「おぅ。俺にできる限りの事はするぜ。そんじゃ手始めにまずはこの世界樹


  の上を目指すとするか」




 俺達は頷き合いエレベーターの場所へと戻って行った。






 雲を越える高さだろうが、この文明の利器と魔力で動くエレベーターであれ


ば頂上付近まですぐだった。




 「おぉ、すっげぇな!」




 途中からガラスのような半透明になった向こう側には、遠くに連なる雪化粧


に彩られた山々、アーク連峰だろう、がよく見えた。




 「ワシも久しぶりに来たが、ここは世界で一番高い場所じゃからのう」


 「足元も透明にできますよ。しますか?」


 「それはやめてくれ。まじで」




 高所恐怖症というわけではないがさすがにこの高さで全部透明はこえーよ。


シオリさんのこの顔は絶対わかってて聞いてきてやがる。ぐぬぬ。








 頂上に着いて音もなく扉が開いた。少し警戒しながら降りる。




 「ここに神獣とやらがいるんだよな。そいつは言葉通じるのか?」


 「言葉も通じるしワシの言う事を聞くようになってるぞい」




 それなら安心か。外敵とやらが入り込んでなければだが。むしろHPCSの


感知機能を掻い潜り、神獣とやらに気付かれずにいる外敵がいたら手に負える


気がしない。


 それならば安心なんてできないし、やはり気を抜けないぜ。




 「ここから少し歩いて神獣の寝床まで樹を上がります」


 「ワシらがきたのに神獣が出て来んのう」




 これはいよいよ神獣に何かあったのではと考える。俺はここまで来てその神


獣について何も知らない事に気付いた。歩きながら聞くか。




 「今更だけど、その神獣ってやつはなんなんだ」


 「子供の頃は普通の動物のように見えますが、成長すると人語を解し自らも


  会話する事ができます。そして神獣の名に恥じず一般的な生き物の中では


  最強であるでしょう」




 さすが神獣というだけあるな。俺が知る生物とは隔絶された能力を有してい


るようだ。


 きっと目の前にある脂肪の塊とは似ても似つかない存在なのであろう。




 「神獣の寝床ってのはどこなんだ?」


 「ここですね」


 「おかしいな。俺にはいびきをかく脂肪の塊しか見えねぇぞ」




 もしやこいつが原因で不具合が起きてたのでは。




 「世界樹を守る神獣の寝床にいる不届きな脂肪の塊め!成敗してくれる!」


 「待つのじゃ」




 母親幼女よ。何故止めるんだ。どう見てもこいつが原因だろ。




 「非常にいいづらいのだがのう。そやつが神獣じゃ……。」


 「いやいやいや、さすがにそれはないだろ。こいつもう太り過ぎて生物の定


  義越えてるぞ」


 「神獣で合ってますよ。なぜか世界樹の魔力吸い上げまくってますが」


 「じゃあ、もしかして犯人はこの神獣?」




 まじかよ。オプションサービスどうなってんの!




 「とりあえず起こして話を聞いてみるのじゃ。おい! 起きんか!」




 母親幼女が叫んでいるとやっと気付いたようでのっそりと動く。




 「これはこれはステラ様お久しぶりでございますう」




 頭を地面に着けるとどごーん! という地響きが響き渡った。一応世界樹の


上なんだから気をつけてくれよおい。




 「久しぶりじゃな。ところでこれはどういう事なのじゃ?」




 頭を傾けて考える神獣。




 「はて、どういう事とは……」




 本当にわかってないようだ。




 「今、「世界樹の恩恵」が弱体化しエルディスタンの各地で問題が起きてい


  る。その原因を探るために俺達はここにきたんだ」


 「なるほど。あなたはステラ様と血を分けたお方でありますか」


 「あぁ、そうなるな」




 そういう事がすぐに分かるって事はやはり神獣で間違いないんだろうな。




 「そして事件の犯人ですが……」










 「お前だあああああああ!」






 ビクッとするからやめてくれよシオリさん。母親幼女なんて涙目だぞ。




 「まさかぁ、わたしが犯人なわけないじゃないですかー」




 この瞬間確信したんだ。こいつが犯人だという事に。ただ本人?本神獣が気


付いてないみたいだからちゃんと説明してやろう。




 「世界樹の魔力循環がうまくいってない事が原因だというのはもうわかって


  いるんだ。一つ聞きたいんだがなんで世界樹の魔力吸いまくってんだ?」




 神獣はまたも首を傾けている。




 「わたしの役目はこの世界樹の上空を外敵から守護する事であります。世界


  樹から流れる魔力ってわたしのエサじゃないのですか?」








 俺は母親幼女とシオリさんを見た。2人とも明後日の方向を向いてヒューヒ


ューと吹けてない口笛を吹いている。




 わかっちまった。こいつらが神獣になんの説明もなしでエサも用意せずに放


置していた事を。






 途中で気付けよ!もしかしたらって!




 HPCSの感知機能を掻い潜り、神獣とやらに気付かれずにいる外敵がいた


ら手に負える気がしない、とか考えてた俺を殴ってやりたい。




 こうしてまた一つ決して知られてはいけない「真実」ってやつができた。






 「この神獣どうにかしてやれねぇのか?」


 「「魔力還元」を使えば神獣は元の状態に戻せると思います」


 「わかったぜ。「魔力還元」対象神獣から世界樹へ」


 「おんぷしょんさーびすって恐ろしいのじゃ」




 せやな。オプションが罠なんて事はよくあるこった。これに懲りたらこれか


らは甘い話に乗せられない事だ。




 「魔力還元」により肥大化した神獣はみるみる小さくなっていく。どこまで


小さくなるんだ。






 最終的に手の平サイズまで小さくなった。こうなるとかわいいなこいつ。




 「ここに置いておいたら同じ事になってしまいますし連れて行きましょう」


 「そうだな、こいつに悪気はなかったみてぇだし」


 「その子のエサにハルさんの魔力をあげてもらっていいですか?」


 「あぁいいぞ。指輪止めてから有り余ってるぜ」










 「問題が一つあるんだが」




 そう大切な問題が。




 「なんでしょう?」「なんじゃ?」




 「世界樹の異変の原因なんて報告するんだ?」


 「「あ」」








 隠蔽いんぺいするしかねぇよなぁ。


 俺の大好きなエルフの方々! 重ね重ね申し訳ない!






 放置プレイしてた神獣が世界樹の魔力吸いまくっちゃってました!

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