第24話 循環

 世界樹というものは地球でも有名だった。セフィロトの樹みたいに名前を変


え別のものとして登場することもあったからな。


 ネタバレをしてしまうと、それはHPCSに組み込まれたシステムからの流


用だからだ。




 それじゃなんで地球には実在の世界樹がなかったかというと単純に魔力がね


ぇから重力で存在する事が不可能だったんだとさ。


 よくあるじゃねぇか。ロマンの詰まったでかいロボットや怪獣は重力によっ


て実際に作る事も存在する事もできないとかなんとか。




 有名なモンキーポッドっていう世界樹のミニチュア版みたいな樹が実際にあ


るけど、景観を損なわずに維持し続けるだけでとんでもない金額が飛んでくら


しいぜ。


 そう考えると魔力って存在がチートだわ。




 馬車からロープで繋がれて世界樹とケルナの街を見下ろしながらそんな思い


に耽った。




 「さすが代行者だけあってこれぐらいじゃなんともないのだな」




 エッラさんは大人だけあって既に矛を収めてくれたようだ。本当にいくつだ


か気になって仕方がねぇ。




 「わかってると思うけど俺もそんなつもりで言ったわけじゃないぜ」


 「あぁわかってる。どの程度の運動能力があるか見てみたかったんだ」




 それならそうと最初から言ってくれよ。回りくどいやり取りが好きなのかも


な。世界樹の巫女服とやらからチラチラ見える腋と太ももがけしからん。最高


だぜ!




 「ハル様、何が最高ですの?」




 これは久しぶりにやっちまったパターンか? エッラさんは既に何かを察知


したのか退散していた。ちくしょー!




 「何がけしからんですの?」




 もう絶対全部聞こえてたよね!? 


 これはもうあれをやるしかない。謝罪の向こう側ってやつをよぉ!




 「ソフィーたんは最高です!」




 俺は叫び力の限り高く飛び上がり顔面で着地しそのまま倒立をした。良い子


は絶対に真似するなよ!絶対だからな!




 「もう仕方のない人ですわ。本当に」




 ソフィーちゃんは少し飽きれたようにそう言うと俺を優しく横にすると顔を


拭いてくれた。ソフィーちゃんまじ天使。




 「ハル様はなんでそこまでエルフ族にこだわりがあるんですの?」




 ここは正直に話しておきたいがダメだよなぁ。




 「ごめんな。今はまだ話せない。シオリさんが許可してくれたら話すよ」




 ソフィーちゃんは少し考えると納得してくれたようだ。




 「なんとなく理解できましたわ。いつか聞かせてくださいね」




 すっかり笑顔に戻ってそう言った。






 「それじゃケルナに行くか! ちょっとこのロープ外してもらっていい?」




 あいつら馬車とロープ結んだまま置いていきやがった。自分で切れるけど放


置プレイは勘弁してくれよ。








 それにしてもケルナの街もすげぇや。バゲンもそうだったがエルフの街作り


は自然との一体感が凄まじい。これは恐らく人間族の発想では作る事ができな


いんじゃねぇかな。


 特にケルナの街は世界樹から扇状に街が広がっていて、その様はまるで世界


樹という母親に子供達が群がっているような印象を受けた。もちろん心のフォ


ルダに深く刻みこんだぜ。






 「ハルさん、少しよろしいですか?」


 「どうしたんだ。改まって」




 シオリさんがフワフワと近づいてきた。そして皆から離れた場所に誘導され


ていくのでどうやら内密な話ではないかと当たりをつける。




 「今回、世界樹の問題にはステラ様とわたしとハルさんの3人で行きたいと


  思います」


 「他のやつには言えない何かがあるって事か」




 シオリさんは頷くと話し出す。




 「世界樹にはステラ様によりいくつかの防護対策を用意してありました。それが破られて


  いないのに異変が起きているんです」


 「世界樹っていうのはテラにとってそんなに重要なものなのか?」




 世界樹というぐらいだから重要なんだろう。だがどんな機能があるかとかさ


っぱりわからん。




 「世界樹はテラの魔力循環の流れを作っています。つまり世界樹がなくなる


  と滅びます」




 まじかよ……。すぐにケルナに来ておいて良かったわ。




 「あくまで例えです。魔力の塊である世界樹がなくなる事はありえません。


  ただし、異常があるのは事実なので」


 「なるほどな。今思ったんだけど3人で行くってことは俺一人でどうにかす


  るのか?」




 シオリさんは少し黙る。HPCSにアクセスしてるのか。答えが出たようで


話し出す。




 「ステラ様とわたしは直接手を出せませんが、そこまでの事態に陥ってると


  は思えないので安心してください」


 「わかった。それじゃエルフの人達も困ってるし明日にでも行こうぜ」




 他のやつらを置いてく事になるが母親幼女使って納得してもらおう。その間


の事はエッラさんに任せるか。考えをまとめながら皆の下へと歩いて行く。








 「というわけだ」


 「なるほどね。わかったよ」




 おい、さすがにこれはわからねぇだろ!さすがに驚きを隠せない。




 「今回、僕達は待っていてほしいって事だよね?」


 「なんでわかったんだ……。俺まだ口に出してなかったよな?」




 レオは不適に微笑する。




 「ハルとシオリさんが2人だけで話し合いに行って戻ってきた。僕達には聞


  かせられない内容だったと推測できる。そこで「というわけだ」を使われ


  たら答えは、ね?」




 こいつの頭の中まじでどうなってんだ。その回転の速さを半分でいいからわ


けて欲しい。




 「完全にお手上げだ。その通りですまん。今回ある事情からステラ様とシオ


  リさんと俺の3人だけで世界樹へ行く」


 「どちらにしても世界樹はわたし達エルフにとって神聖なものだからな。ハ


  ル殿にそう言われたら仕方ない」


 「わたくしはハル様に言われた事には従いますわ」




 まったく、こいつら最高に良いやつらだぜ!




 「それじゃ3人はウチで待つといい。ケルナを治める者として何もできない


  のは歯がゆいがどうか世界樹をよろしく頼む」




 頭を下げるエッラさん。テラのお偉方は頭を下げる場面でただの振りではな


く心から頭を下げる事ができるのが凄いと思う。地球のHPCSの設定って失


敗なんじゃねぇかな。




 「ワシらに任せておくのじゃ。明日本気を出すぞい」




 それ本気出さない人が言う事だからね。確かに母親幼女は手出しできないか


ら合ってるけどな!




 「今日はウチでゆっくりするといい。1日とはいえ旅の疲れもあるだろう」


 「あぁ、そうさせてもらうぜ」


 「あと必要な物があったら言ってくれ。用意させる」




 シオリさんが必要な物をリストアップしてくれるようだ。




 俺は1日ずっと走りっぱなしだったが、今日ゆっくり休めば明日には「世界


樹の恩恵」で回復してるだろう。世界樹のお膝元だけあって今も急速に身体が


回復していってるのがわかる。足元から魔力が満ち溢れてきて自動で循環して


るような感覚だぜ。




 「ハルよ、今日はもう疲れてるじゃろうし詳しい事は明日道すがらに話すの


  じゃ。今の感覚で魔力を循環させれば回復も早かろう」


 「やっぱりこの感覚に身を任せてればいいのか。それじゃ明日教えてくれ」






 思ったよりも疲れてたせいかその日はすぐに寝付いてしまった。


 世界樹が楽しみでわくわくが止まらないぜ。

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