第17話 報酬
「そうだ、ハル君ちょっといいかい?」
その日俺はヘンリーさんに呼ばれ執務室へ行った。
「どうしたんだ急に。何か困った事でも起きたか?」
ほぼ解決したとはいえダンジョンと「ステラス」販売は継続されていくからな。
何か問題があるなら俺達がいるうちに済ませた方が良いだろう。俺が「転移魔法」
を使えても俺がいる場所まで連絡に時間がかかって事態が悪化したら目も当てられ
ねぇ。
「そうじゃないんだ。依頼の達成報酬を渡そうと思ってね」
「それはありがたい。全く金持ってなかったから助かるわ」
「それでどうやって生活してたんだい? おっと、これはたぶん聞いちゃまずい
事だろうね」
「たぶん話そうとした瞬間ここにシオリさんが現れますよ」
「それは怖いね」
肩をすくめ話を続ける。
「ダンジョン問題解決報酬として白金貨100枚。「ステラス」の売上の一部は
中央都市へ送るよ」
「お、おう。それはわざわざすまねぇな」
やべぇ。テラの貨幣価値とか制度とかさっぱり教わってねぇからなんて答えたら
いいか全然わからん。まー、国からの依頼だし買い物すらできねぇってことはない
だろ。
「先日、疲れてたせいかティータイム中に居眠りしちまってさ。埋め合わせにプ
レゼントでもしようと思うんだが、ヘンリーさん良い店知らないか?」
「あーそれなら良い店があるよ。僕も妻へのプレゼントに使う店さ」
「一国の国王が使う店って……お金足りっかなぁ」
一瞬止まった後ヘンリーさんは笑い出した。
「ハル君は冗談がうまいね。さっきの報酬ならほとんどの物が買えるよ」
「だろ? HAHAHA」
笑って誤魔化した。その後、ミアさんとソフィーちゃんが喜びそうで俺が渡して
もおかしくないような物を教えてもらい退室した。オーロラたんにはかわいいを全
面に押し出した物をあげればいいか。
母親幼女は「ステラス」大好きだし、ステラ様専用蓋付きタンブラーとストロー
のセットでも作ってやるか。
問題はシオリさんだ。地球でもずっと一緒だったが本気で好みがわからん。むし
ろ好き嫌いがあるのかさえわからねぇ。店に行ってみてシオリさんに合いそうな物
を選ぼう。
みんな忙しそうにしてたから一人で出てきたぜ。こうやって一人きりになるのも
久しぶりな気がする。前に街で一人になってレオと知り合った時はソフィーちゃん
に襲われかけたからな。いくつか行ってみたい場所もあるが今回は問題を起こさな
いように気をつけよう。
「らっしゃい、らっしゃい」
ここは市場らしく威勢良く客の呼び込みをしている。ヘンリーさんに教えてもら
った店はこの先にあるらしい。
「おい!そこの兄ちゃん、新鮮な飲み物だ!安くしとくぞ」
そういや少し喉渇いてたな。
「一つ貰おうか。これで足りるか?」
白金貨を一枚出す。
「あちゃー、兄ちゃん貴族の坊っちゃんだったか。すまんがそれだと多過ぎてウ
チじゃ釣りが出せないんだわ」
「まじかよ!これどこかで両替とかできねぇのか?」
「両替ならこの道真っ直ぐ行った場所にギルドがあるからそこに行ってきなよ」
「おっさん、親切にサンキューな。帰りに寄るぜ」
「おう、その時は頼むな!あと俺はおっさんじゃねぇ!」
最後になんか言ってたが気のせいだな。俺は教わった通りギルドとやらに向かっ
た。ギルドといえば入った途端に新人が絡まれるのがお決まりになってるあのギル
ドだ。今回は問題を起こさないように絡まれても真摯な対応をするぜ。
「いらっしゃいませ。本日は当ギルドにどのような御用でしょうか?」
ギルドに入るととても丁寧なお姉さんが迎えてくれた。なんだこれ。ギルドとい
えば酒場併設でもっとうらぶれた雰囲気を醸し出していて俺みたいなのがゴロゴロ
してるとこじゃねぇのか。なんなんだこの小奇麗な場所は。俺が完全に浮いちまっ
てるじゃねぇか。
「お客様いかがなさいました?」
「ちょっと俺が考えていたギルドと雰囲気が違って面を食らっただけだ」
「そうでございましたか。ギルドに来られるのが初めてなのですね」
そう言って微笑するお姉さん。そこに馬鹿にしたような感じはなく親切心が垣間
見える。
「あぁ、そうなんだ。あまりくる機会がなくてね。両替をしてもらえると聞いて
やってきたんだが」
「両替ですと、あちらのカウンターまでどうぞ。丁度空いてるのですぐしてもら
えますよ」
「わざわざすまないな。ありがとう」
礼を言いカウンターまで行った。白金貨とかいうのを2枚出して街で使いやすい
ように両替を頼んだ。その間ギルドについての話を聞かせてもらったが、テラにお
いてギルドとは「なんでも屋」の側面が強いらしい。もちろん戦闘系の技能がある
に越したことはないが特定の魔法が必要だったり、人柄が重視されたりする依頼が
多いという事だった。
「こちらになります。お確かめください」
「ありがとう。助かった」
確認するフリはしたが単位がわからんから確認のしようがないんだ。なんかこれ
だけよくできたギルドなら例のダンジョンの仕事回しても良いと思うな。後でヘン
リーさんに聞いてみよう。
何事もなくギルドを出てヘンリーさんに教わった店へ向かう。やっぱり国王が贔
屓にしてるだけあって格式高そうな店だった。紹介状でも書いてもらえばよかった
かなとも考えたが、その紙自体高価だったわ。
少し戸惑いながら店へ入ると店員がやって来てこう尋ねてきた。
「いらっしゃいませ。失礼ですが、国王様からご紹介のハル様でよろしいですか?」
ちゃんと話を通してくれてたのか。ヘンリーさんに感謝だぜ。
「そうだ。プレゼントに悩んでるところを相談したらこの店を紹介されてな」
「はい、伺っております。既にいくつか用意させてもらいましたので御覧いただ
いてもよろしいですか?」
「こちらへどうぞ」と奥へと案内される。店の奥のテーブルの上にはいくつかの
商品が並べられていた。すげぇ高そうだけど足りるよなこれ。誰にプレゼントする
か伝えて、「それならばこれが良いです」と力説されミアさんとソフィーちゃんの
プレゼントは決まった。
「かわいいもの好きのエルフに喜ばれそうな物と人形みたいな人に合いそうな物
ってあるか?」
「少々お待ちください」
「あやふやな注文ですまないな」
「いえ、お気になさらないでください」
店員はそう言うと商品を取りに行った。すげぇなこの店こんな無茶振りにも答え
てくれんのか。ミアさんへのプレゼントは花だ。ミアさんにとっては思い出の花で
喜ぶだろうとヘンリーさんに言われた。
ソフィーちゃんへのプレゼントは指輪を勧められた。友人への初めてのプレゼン
トで指輪ってどうなんだ? と思ったがテラの常識が未だによくわからねぇしヘン
リーさんと店員も勧めてくるって事はそうおかしな物でもないだろ。
しばらくすると大きな人形を抱えて店員が戻ってきた。
「こちらは当店で一番人気がある人形の最大サイズ版です」
確かに1メートルぐらいあるな。俺から見てもかわいらしいしオーロラたんなら
これを抱きながら寝そうだわ。
「これはいいな。あとは……。」
「人形みたいな方に合いそうな物というのが迷ったのですが、こちらはいかがで
しょうか?」
店員が取り出したのは小さめの髪飾りだった。これならシオリさんでもつけられ
そうだ。店もすげぇがこの店員すげぇわ。何かあったらここに相談しよう。
「店員さん、あんた最高だわ。これからも何かあったら頼む」
「お気に召していただけたようで幸いです」
プレゼント用で包んで貰えるか? と言おうとしたけど紙が普及してないテラに
そんなものない事に気づいた。だが見ていると店員がリボン状の物でデコレートし
てくれている。ないならないでそういった方法もあるのかと感心した。
「お支払いは現金でと承っておりますが、よろしいでしょうか?」
「あぁ、ちょっと俺は金銭に疎くてな。いくらぐらいだ?」
「お会計の方は白金貨丁度1枚になります」
全然余裕で足りたのでホッとしながら白金貨を1枚渡す。
「ありがとうございます。お買い上げいただいた商品はどちらまでお運びすれば
よろしいでしょうか?」
「このまま持って行くから気にしないでくれ」
俺はそう言って買った物を全部持った。でかい人形も俺と比べちまうとな。店員
はちょっとあたふたとしてたが大丈夫そうだとわかったようで見送ってくれる。荷
物多いから一度「転移魔法」で城の前まで戻ろう。もう結界は破壊しないからな!
「今日はありがとな。それじゃあまた来るわ」
「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」
初めて「転移魔法」を目の当たりにして唖然とする店員を残し、俺は城の前まで
移動した。部屋に戻り荷物を置きもう一度街に出てジュース屋のおっさんの店まで
向かった。
「その分だと時間は掛かったが両替はちゃんとできたみたいだな」
「両替してから先に買い物済ませて荷物置いてきたんだわ」
「そうかそうか!ウチの飲み物は1杯銅貨1枚だ、安いだろ?」
「そ、そりゃ安いな」
安いかどうかわからねぇけど銅貨を渡して飲み物を買った。味はオレンジとレモ
ンを足して酸味を抑えたような味で飲んだあとスーッとした爽快感があり旨かった。
これ使えるかもしれんな。
「おっさん、俺はこういうのに詳しくねぇんだけどこれなんの飲み物なんだ?」
おっさんは少し驚いた後、教えてくれた。
「貴族の坊ちゃんならわからなくても仕方ねぇか。こりゃこの周辺で採れるナシ
っていう……」
盛大に噴き出した。テラの動植物入れ替えネームの事完全に忘れてたぜ。さすが
にこれで梨はねぇよ。
「おい、兄ちゃん大丈夫か?」
「すまねぇ。あまりの驚きで俺の腹筋が耐え切れなかったんだ」
拭く物を借り拭かせてもらった。おっさんにぶっかけなくてよかったぜ。まじ大
惨事になるとこだった。
「このナシっていうやつはどれぐらい収穫できるんだ?」
「こりゃウチの農園で栽培してるやつでな。バラつきはあっても毎年それなりの
量収穫できてるぞ」
俺にも収穫があった。単なる栽培はどうやら科学の範疇に入らないらしい。品種
改良までいくと入りそうだが。
「近いうちに空いてる時でいいから農園見せてもらっていいか? もしかしたら
仕事を頼む事になるかもしれん」
「ステラス」はどちらかというと優しい味のゼリー飲料みたいな感じなのだ。も
うひと手間をオプションとして加えることで劇的に変化するんじゃないかと考えて
いる。
「それはもちろん構わないが。いいとこの坊ちゃんは決断力もすげぇな」
「俺のこの見た目を見て坊ちゃんなんて言えるおっさんもすげぇぜ」
「何度も言うがおっさんじゃないからな」
「おっさん冗談がうめぇな、ガハハ」
城へ戻りヘンリーさんとレオの仕事を増やそう。これで「ステラス」の味は磐石
となるだろう。
プレゼントを渡すとみんなとんでもなく喜んでくれた。ミアさんは「そういった
気遣いは大切よ。さすがね」と褒めてくれ、ソフィーちゃんは「一生大事にします」
とか言ってくれてるぜ。それをパクッたシオリさんは「一生大事にしまーす」と言
ってるが伸ばすか伸ばさないかって重要なんだな。オーロラたんは人形とシオリさ
んを抱っこしてご満悦だ。
母親幼女には手作りで渡したいとシオリさんに相談すると賛成してくれてHPC
Sの機能を一部使わせてくれた。「転移魔法」で中央都市まで移動し宮殿の結界を
解きHPCSへ向かう。その結果テラでただ一つの真空断熱タンブラー、ストロー
付きができあがった。シオリさんもノリノリでタンブラーの表面に刻印をつけてた
けどそれどこかのコーヒーチェーン店のパクりじゃ……。
「オマージュですし。著作権は別の宇宙の別の星にまで有効ではないですし」
うん、そうだね。だが!という事は東京じゃないのに東京のアレを使っても許さ
れてしまうのでは。
「気づいてしまいましたか。でもそれはダメです」
あれ、意識が……遠く……。
「ハルさん、ボーッとしてどうしたんですか?」
一瞬意識が飛びかかったな。そういえばタンブラー作ってたんだったわ。
「いや、なんでもないぞ。これでもう完成か」
「ですね。それでは宮殿に結界を張り直して戻りましょうか」
戻って母親幼女にHPCS製手作りタンブラーを渡したが大泣きで喜んでた。こ
ういうのもたまにはいいもんだな。
だが、おい幼女俺の服で鼻水かむのをやめろ。
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