第16話 魔法

 どうやらお茶会の途中で寝ちまったらしい。気づかないうちに疲れが溜まってい


たのかもしれない。居眠りなんて普段は全くしねぇからな。


 ミアさん、ソフィーちゃん、オーロラたんの3人が揃っていたから姫魔法につい


て詳しく聞きたかったんだが……。


 みんなには今度埋め合わせをしよう。






 テラには誰でも使える魔法にとんでもない魔法がある。誰でも使えるという事は


無属性魔法なのだが、それは「クリーン」という魔法だ。この魔法は子供が魔法を


覚える時に一番初めに教わる魔法にも関わらず、とんでもない利便性と奥深さがあ


るのだ。




 テラでは「うちの子もやっと「クリーン」覚えたのよ」「あら、早いわねー。う


ちの子はまだなのよー」といったように成長の目安にすらなっている。この「クリ


ーン」は最小の魔力で使うとトイレ等で身ぎれいにする事ができる。要するに一人


でトイレができるようになったという証なのだ。




 俺はシオリさんからこの星で製紙技術が未発達であると聞いた時、まず初めにト


イレの事が思い浮かんでしまったんだ。仕方ないじゃねぇか。地球の過去の歴史や


海外でのトイレを鑑みればわかると思うが、トイレ事情ってかなり深刻だったんだ


ぞ。科学の発展や衛生設備を整える事によってやっとトイレの悩みが解決されたと


言っても過言ではない。まー日本の場合は異常に発展してた側面もあるがな!




 もちろん俺も魔法を教わってすぐに「クリーン」を教わった。年齢的に一人でト


イレ行けないのはさすがにつれぇわ。




 長々と話したこの「クリーン」だが溜める魔力の量が増えれば増える程、できる


事の範囲も増えていくのだ。一般の魔力量では部屋の掃除を全部終わらせる事はで


きないが、手間を軽くする事ぐらいはできるのでメイドの間でも必須魔法である。


 食べ物を食べた後「クリーン」、お風呂に入らなくても「クリーン」、朝起きた


ら「クリーン」、便利なんてレベルじゃねぇわこれ。






 特殊魔法は基本とんでも魔法だらけだが使える人自体が少ない。エルフが使える


世界樹の恩恵を除いて。


 エルフは森で生まれ森で生活する。全てのエルフが世界樹の恩恵を受け、使う事


が可能らしい。


 今は植物に干渉できるというだけの魔法だが、製紙技術を導入する事によりとん


でも魔法に生まれ変わるだろう。もちろんエルフがそれを受け入れればだが。




実はあまり心配はしていない。世界樹を大切にしているエルフが世界樹を生み出し


た母親幼女をどういった目で見ているかなんてオーロラたんを見れば一目瞭然。


 シオリさんの見た目には騙されてしまってるが、母親幼女に対しては畏れ多いと


いう感情が見て取れる。ストーカーを舐めてもらっては困る。俺はオーロラたんを


いつも見ているからな!




 エルフの主要産業の一つとして製紙技術を導入すればそれを各国へ輸出する事で


今までとは違った関わり方をできるようになるだろう。


 今までの紙は違った用途で使われる方向に持っていくつもりだ。具体的には魔法


の新技術として「陣魔法」を作り作成方法はステラ学院を通して広めるつもりだ。




 「陣魔法」を使う事により今までは適性がなければ使えなかった魔法を適性なし


でも使えるようになる。ただ適性のある魔法よりは少し魔力消費が多くなるから上


級はほとんどの人が使えないだろう。




 この「陣魔法」だが、既に試していて木から作る紙では発動すらしなかった。だ


から現在動物の皮から紙を作っている業者の人は今まで程高収入ではなくなるだろ


うけど安定した収入で失職したりはしないだろうと考えている。


 ステラ学院でも買い上げるし学生や卒業生も買うだろう。高過ぎず、安過ぎずと


いう値段に落ち着かせる予定だ。






 数ヶ月隔離生活をした中で通信魔法が欲しいと心の底から思った。あまり思い出


せないが本当につらかったんだわ。友達になってすぐに連絡すら取れなくなったか


らな。地球から来た俺にはかなりつらいものがあった。




 しかし現在のマルア王国を見た限りではまだ早いかなという思いもある。製紙技


術が発展してなかったので手紙のやり取りやそういう文化すら根付いてないんだ。


 そこにいきなり通信魔法を導入するのは数世代吹き飛ばしてるんじゃねぇかって


思うんだ。紙が普及すればきっと今より人や国同士の繋がりができるはず。俺はそ


う信じてる。そしてそれを使ったサービスや魔法は人自身の手で考え作りだしてほ


しいんだ。




 俺はまだ中央都市とマルア王国しか知らねぇからな。まずは自分自身の目で見て


から判断するさ。滅びまであと数百年。人間の生からしたらまだ余裕余裕。






 「ってのが今のとこ俺が考えてる事だな」


 「ハルさんの心を読まないでいましたが色々ちゃんと考えていたんですね」




 シオリさんが意外そうに失礼な事を言ってくる。ひでぇ。




 「そりゃ俺だって真面目に考えるぜ。この星の人類種全ての命がかかってるんだ


  からな」


 「そんなハルさんに転移魔法を伝授したいと思いまーす。パチパチパチパチ」


 「まじで!? やったぜ」


 「テラの人は魔力も足りない場合が多いですがイメージ力が足りてない場合が多


  いので使える人が少ないんです」


 「俺はいけそうなのか?」


 「既にハルさんの魔力量はテラでトップクラスですしイメージ力は地球で散々磨


  いたと思いますよ」


 「魔力量はわからんがイメージ力って自信ねぇぞ」


 「心に強く残る場所、そんな場所をイメージするだけですよ? 一回使って一緒


  に転移してみるので魔力の量と流れをしっかり見ていてください」


 「わかった。すげぇワクワクするな」




 シオリさんはいつも通りフワフワと俺の前に飛んでくると魔力をゆっくり溜めた。


そして「「転移魔法」発動」と言った瞬間、俺とシオリさんは別の場所へ移動して


いた。




 「王城が見えるな。ここどこだ?」


 「ここは城門の上にある見張り台ですね。城下町が一望できます」




 確かに城門の上だな。勝手に来て良い場所かは知らないが。




 「ゆっくりやったつもりですが、魔力の溜め方と流れはしっかり見られました


  か?」


 「あぁ、よくわかったよ。これでイメージさえ強く持てれば発動できるのか」


 「今のハルさんならすぐできると思うのでやってみてください」




 そう言ってシオリさんは俺の肩に乗った。ゆっくり、ゆっくりと魔力を溜めてい


く。そしてしっかりとイメージする。王城から城下街を見下ろしたあの場所を。あ


の感動を。




 「「転移魔法」発動」




 不思議な感覚だった。なぜか今まで使ってきた魔法とは少し違った感覚が残って


いる。少しフラッとくるような。




 「まさか一発で成功するとは思いませんでした。おめでとうございます」


 「俺もびっくりしてるぜ。治ってきたけど少しフラッときたわ」


 「あーそれはあれですね。もうすぐわかると思います」




 しばらくするとヘンリーさんが兵士を連れてやってきた。聞く所によるとどうや


ら城の外からの転移を封じる結界をぶち破って強引に転移してきたらしい。


 この後めちゃくちゃ謝った。

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