第15話 茶会

 「ハル様ハル様、今日はお天気も良いですし午後に庭園でティータイムを楽しみ


  ませんか? そのためにお菓子を頼んだんですのよ」


 「おう、俺はもちろん良いぞ」


 「やりましたわー。お父様とお兄様もお誘いしたのですがお忙しいみたいで」




 しょんぼりとするソフィーちゃん。今は無理だろうなぁ。




 「もう少しすればきっと落ち着くだろうしそうしたらまた誘えばいいさ」


 「そうですわね。うふふ、今のお兄様みたいでしたわ」




 この微妙過ぎて似てないモノマネで笑ってくれたぜ。




 「庭園でティータイムなんて久しぶりなのですごく楽しみですわ」


 「俺は庭園でのティータイムというものが初めてだぜ」


 「あら、そうでしたのね。それではハル様に楽しんでいただけるように頑張りま


  すわ」




 いやーまじ天使っすわ。あざとく見えがちな仕草もソフィーちゃんがすれば、そ


の仕草はソフィーちゃんのためだけに存在しているかのように感じた。今の俺にソ


フィーちゃんを語り出させたら早口で捲し上げて延々と語り続けられるぜ。




 「ハル様どうかいたしました?」


 「いや、少し考え事をしていただけだ。気にしないでくれ」




 俺は学習する男だ。何度も何度も同じ轍は踏まないぜ。考えてる事を口から出し


ちまう俺からは卒業するんだ。




 「どんな事を考えていたのですか? 気になりますわ」


 「ソフィーちゃんが天使のようだと心の中で褒め称えてただけだぞ」




 真っ赤になるソフィーちゃん。




 「もう、ハル様はいつもいつも……ずるいですわ」


 「す、すまんな」




 考えてる事は口から勝手に出なかったが、聞かれる事であっさりと暴露しちまっ


た。まだまだ修行が足りないか。ここは話を切り上げ戦略的撤退をしよう。決して


逃げるわけじゃねぇ!




 「後で庭園まで行けばいいのか?」


 「えぇ、準備ができましたら使いの者に案内させますわ」


 「わかった。ステラ様とシオリさんも連れて行くわ」


 「それでは後ほどですわ」




 そう言って優雅に立ち去って行くソフィーちゃん。俺が敵わないと思っていたの


はシオリさんだけだったがソフィーちゃんにも敵わない気がする。あの完成度でま


だ14才とかおかしいだろ。




 その後、一旦部屋へ戻りシオリさんと武器について話し合った。今後確実に必要


だろうという事と現在のテラの技術ではあまり質の良い物を作る事ができないため


どの程度まで技術提供を行うかという事について。


 今回の旅も含めてあくまで各国の特色を生かし繁栄させる事が目的だ。どちらに


してもドワーフと接触できるまでの武器は必要だろう。








 午後も少し過ぎた頃、部屋の扉がノックされメイドさんが入ってきて礼をした。




 「準備が整いましたのでお迎えに参りました」


 「わざわざすまないな。それじゃ行くか」




 母親幼女には技術関連の話は理解できないようでうつらうつらしてたが声をかけ


ると飛び起きた。




 「やっとお菓子の時間なのじゃ!」


 「そうですよ。ステラ様良かったですね」




 お菓子でこの喜び様、幼女以外の何者でもないな。メイドさんに案内され庭園へ


と向かう。


 実は王城に着いてから、窓や通りすがりに何度か庭園を目にする機会があった。


そこには色鮮やかな花と落ち着いた緑のコントラストが立体的に表現されていて


素人目に見ても素晴らしいとしか言いようがない庭園だった。






 その庭園へと実際に足を踏み入れると、まるで自分が童話の世界へ放り込まれた


かのような感覚にさえ陥る。


 メイドさんに案内されるままに進むと少し開けた木陰にテーブルとチェアが準備


されていてミアさんとソフィーちゃんとオーロラたんが既に待っていた。




 「遅くなって悪ぃな。待たせちまったか」


 「わたくしたちも先ほど来たばかりですのでお気になさらなくていいですわ」




 軽く挨拶を交わすとティータイムが始まった。




 「そんなに緊張なさらないでハルさん」


 「すまんな。ソフィーちゃんにも言ったがこういう席は初めてでな」


 「ふふっハル殿が何でもこなす超人じゃなくて逆に安心するよ」


 「わたくし達の前では普段通りで良いですわよ。ステラ様とシオリ様もお菓子い


  かがですか?」


 「うまいのじゃー!こんな事ならもっと人間と関わってくればよかったのう」


 「ありがとうございます。オーロラさん食べさせてもらってもいいですか?」




 いいのか? と言いつつ手を震わせてあーんと食べさせてるオーロラたんはもう


手遅れかもしれない。いつのまにかシオリさんとオーロラたんめちゃくちゃ仲良く


なってるな。




 「ハルさん、ダンジョンの問題を解決してくださって感謝します」




 そうミアさんにお礼を言われる。




 「俺は自分がやるべき事をやっただけだ。今後はマルア王国でうまくやってくれ


  よ。ただ俺もヘンリーさんもレオも男だからなかなか気づけない点があってさ。


  ステラスの入れ物のデザインとかミアさんとソフィーちゃんから助言してあげ


  てくれないか?」




 お菓子の店もそうだったがやはり女性が集まるお店は話題に上りやすい。女性的


な視点からの助言が欲しいが俺もそういう物に疎いからな。




 「そういう事でしたら。わたくし達にお任せ下さいですわ。ね、お母様?」


 「わかったわ。それにちょっと楽しそうね」




 姉妹でも通じそうな見た目の母娘が仲睦まじくしてる姿はこの庭園と相まってと


ても美しい。これは沢山盗撮して隠しフォルダに収めておこう。


 紅茶を飲みながらゆっくりするのもいいもんだな。思えばここ数ヶ月はシオリさ


んに追い立てられて過ぎてきた。頭の中を整理するためにも必要な時間なのかもし


れない。










 「ハル様の居眠りなんて初めてですわ」


 「こやつもこやつなりに気を張っておったのじゃろ」


 「戦士にも休息は必要という事か」


 「それだけ皆様に心を許しているということでしょう」


 「あら、わたくしにもかしら。風邪をひくといけないし掛ける物を持ってこさせ


  るわね」






 ゆったりとしたまま午後のひと時は流れていくのであった。

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