第14話 試飲

 帰りながらダンジョンの問題が解決できそうな事をレオに伝えた。後でみんな呼


んで話をするから待っていてくれと詳しい事は濁したが。




 早めにダンジョンから戻る事ができたので昼食と夕食の間ぐらいに試飲して貰お


うと考え準備にとりかかる。まずは水魔法のウォーターを使い、樽のままスライム


を冷やす。飲むための容器とストローは元からある木製のものを借りた。使い捨て


なんて物はテラにはない。




 あとはスライムを水洗いして入れるだけ。本当に簡単だ。スライムは普段粘液に


覆われているが、その粘液は土埃やゴミを本体に付着させる事がない。そうでなけ


ればスライムはみんな茶色とか泥の様な色になっちまうからな。だから表面の粘液


を洗い流すだけで衛生的には大丈夫らしい。そして洗い流されてもすぐに粘液で覆


われるという仕組みだ。




 「早く飲みたいのじゃ。楽しみにしとったぞい」


 「今冷やしてるからもう少し待ってくれよ。5種類いたから全部捕まえてきたん


  だけど、味に違いあるのか?」


 「色ごとに味は違うが全部おいしいのじゃ。特に青が不思議な味で無性に飲みた


  くなったりしてのう」


 「へーそうなのか。俺が前に飲ませてもらったのは赤だったからな。今日は全種


  類試してみるか」




 みんなの驚く顔が楽しみで仕方ない。母親幼女が目の前でうまいのじゃ!うまい


のじゃ!と言いながら飲んでるだけで全員コロッといくなんてちょろいぜ。


 確実に商品化する事になるので、母親幼女とシオリさんの3人で問題点を洗い出


した。








 いよいよ、試飲の時間だァ!


 冷やしたスライムを容器に入れ蓋をする。蓋の一部には穴が開いておりそこにス


トローを刺す。スライムの色ごとに分けテーブルに並べる。準備は万端だぜ。


 ヘンリーさんとミアさん、レオにソフィーちゃんにオーロラたんに試飲してもら


う。母親幼女は待ちきれなくてもうウズウズしている。




 「みんなよく集まってくれた。ここに用意したのはあのダンジョンに大量にいる


  スライムだ」




 話をしていたヘンリーさん以外全員驚く。




 「まー驚くよな。まずこれからステラ様に手本を見せてもらうからよく見ていて


  くれ」


 「もう飲んでいいのか? やったのじゃあああああ」




 そう言って容器を手に取りストローを吸い出す母親幼女。




 「久しぶりの青はすっごくおいしいのじゃ!おいしいのじゃー!」




 ご満悦な母親幼女に聞く。




 「ところでステラ様が飲んでるのはなんだ?」


 「ん? 何言っとるのじゃ。お主が用意してくれた青スライムではないか」




 これを見た全員はもう落ちたも同然。なぜなら星の化身であるステラ自身がスラ


イムを飲み物だと認識してるのだから。この瞬間ここにいる人達の間に新たな常識


が生まれる。




 「ハル君が言っていた通り本当にスライムは飲み物だったんだね」


 「ステラ様があんなにおいしそうに飲まれてますものね」


 「わたしがスライム塗れになった時も甘い香りがしてたのは飲み物だったからな


  のか」


 「わたくしも驚きを隠せませんわ。でも本当においしそう」


 「ハル、色ごとに分けてあるのはなんでだい?」


 「それは色で味が違うらしいんだわ。みんな飲んで確かめてくれよ」




 思った以上の効果で少し怖いぞ。これ母親幼女にヤバイ事を教えて新たな常識生


み出したら大変な事になっちまう。今回はあまり危険性が高くなかったが多用する


のは止めよう。




 「それじゃ俺も全部試し飲みしてみるか」




 みんなでこれがおいしい、あれがおいしいと話しながら終始和やかに試飲会は成


功した。ちょろいぜ。


 試飲人数にしては多めに用意したつもりだったが予想を超えた大好評で全部なく


なった。母親幼女は飲み過ぎて横になっている。どんだけスライム好きなんだ。


 俺とヘンリーさんは場所を変えて話をする事にした。レオも呼んどいた。




 「ヘンリーさん、レオも実際飲んでみてどうだった?」


 「無茶なんかじゃなかったね。確実に売れると思ったよ」


 「僕も同意見かな。このために僕を連れて行ったんだね」


 「ハル君が言ってた通り商品化するという事で話を進めたいんだがいいかい?」


 「もちろんいいぞ。そのために準備した試飲会だからな。注意点や問題点を事前


  にまとめといた」




 スライムとは言え一応魔物だからな。野放しではなく国営で管理して細々な部分


を商人やギルドに依頼する形にした方が良いとか、爆発的にヒットする事で増大す


る観光客が泊まれる宿の確保とか。




 「まーそれはヘンリーさんの方が詳しいだろ。レオの将来のために学ばせてやっ


  てくれ」


 「これは一大国家事業になるね。良い機会を与えてくれてありがとう。レオしっ


  かり学びなさい」


 「はい、父上。ハルと友人になれた事を誇りに思うよ。本当にありがとう」




 驚かされてばかりだけどねと言って苦笑する。このイケメン親子、仕草や口調も


似てるな。イケメンとはそういうものなんだろうか。




 「あとヘンリーさんにもう一つ伝えておかないといけないんだったわ」


 「改まってなんだい?」


 「まだエルフ領に行ってないから未定ではあるんだが新しい製紙技術を広めたい


  と思っている」


 「それはまた……すごいね」




 テラでは動物の皮を魔法で綺麗にして紙にしている。地球で言うなら羊皮紙みた


いなもんだな。植物を使った製紙技術がないんだ。


 以前シオリさんと話してた時に許可が出たのとエルフが植物に関する魔法を使え


るのを知って導入する事を思いついた。




 「今はとんでもなく紙が高価らしいけどこれを導入するとかなり安価になって民


  間に普及できるレベルになる予定だ」


 「そこまでのものなのかい」




 ヘンリーさんは少し考えてから言った。




 「その紙が普及するとなると現在紙を作ってる人達が職を失ってしまう可能性が


  高いね」


 「それをシオリさんにも指摘されちまったんだ。だから現在の紙を使う専用の新


  しい技術も導入する事にした」


 「ポンポンと新しい技術や発想が出てくるところを見るとステラ様の代理人とい


  うのも頷ける話だね」




 俺はそれほどでもないと謙虚に言い苦笑した。ヘンリーさんとレオはギョッとし


て「何か怒らせてしまったかい?」とか言ってるがひでぇや。俺の苦笑はまだイケ


メンとは程遠い。








 ダンジョンの問題で到着からバタバタとしていたが漸く解決できそうで正直ホッ


としてる。ここからはマルア王国とヘンリーさんにバタバタしていただこう。


 夕食後、かねてより約束していた王城からの眺めをレオに見せて貰う事にした。


ソフィーちゃんとオーロラたんも誘ってな。やはり、夜景は美女と見るに限る。




 「ハルさんはさながら魔獣といったところでしょうか」




 うんうん、俺って魔獣系男子だからね。




 「最近できるだけ気を使ってたんだけど、気を抜くと口から出てるな。って魔獣


  はひでぇよ」




 シオリさんはオーロラたんに抱っこされながら魔獣扱いしてくる。本当に心の底


から場所を変わって欲しい。ソフィーちゃんは「もうハル様ったらまたそんな事言


って……」と顔を赤くしている。ソフィーちゃんが悪い男に騙されないか心配だよ


俺は。




 「どうだいハル。マルアの王都の夜景もなかなかじゃないかい?」


 「こりゃすげぇな。俺はこっちの夜景も好きだぞ」




 マルアの王都はヨーロッパの古都を思い起こす。俺の中で薄れつつある地球での


記憶に、似た雰囲気を持つ場所があった気がする。これは心のフォルダに保存して


おこう。ソフィーちゃんとオーロラたんも隠しフォルダに入れておこう。






 「オーロラたんってエルディスタンを治めてる首長の娘って事は王女様でいいの


  か?」


 「一応そういう事になるな。エルディスタンには3人の首長がいて合議制を取っ


  ているんだ」


 「なるほどな。しばらくマルア王国に滞在した後エルディスタンに行く予定だけ


  ど、オーロラたんの父君と話す機会って持てるか?」


 「あぁ、ウチに招待するつもりだったからその時にでも紹介するよ」


 「おう助かるわ。エルフ領にも新技術を導入させてもらおうと思ってな」


 「自分で言うのもなんだが、エルフは頑固な者が多いが大丈夫だろうか?」


 「駄目だった場合は、最終兵器幼女使うから大丈夫だぜ」


 「さすが魔獣だけあってゴリ押しですね」




 ……。シオリさんに何も言い返せねぇ。ぐぬぬ。


 そんな話をしながら夜も更けていった。明日からは王都観光させてもらうぜ。王


都を立つ前に母親幼女使って宣伝したいから、ヘンリーさんには頑張っていただこ


う。


 余談だがスライムドリンクの名前は「ステラス」にしてもらった。テラの人々は


ステラ様大好きだし、何よりストレートにスライムドリンクだと長い上に口コミで


聞いた人のイメージもよろしくない。スライムとステラをもじっただけだがイメー


ジはやはり大切だわ。これは絶対売れるぞ!








 翌日からヘンリーさんとレオは大忙しでステラス販売のための準備に取りかかっ


ていた。あとは頼んだぜ。


 暇を持て余した俺だったが、ソフィーちゃんとオーロラたんに誘われ城下町まで


やってきた。なんでもお茶に合うお菓子を売っている王都屈指の人気店があってそ


こでお菓子を予約しているから持ち帰ってお茶にしようという事だ。




 「王女様が普通に出歩いちゃって大丈夫なのか?」


 「子供の頃はさすがにお城から出して貰えなかったですわ。ですが、ステラ学院


  に入学する前ぐらいからお父様から許可いただいて城下まで来てましたのよ」




 確かに道行く人や子供が気さくに挨拶をしてくる。ソフィーちゃんすげぇよくで


きた子だもんな。あの発作を除けば。アレ以来見てないからいつか暴発するんじゃ


ねぇかと思っている。シオリさんを抱っこして全然護衛になってないオーロラたん


その時はまじで頼むぞ。




 俺を誘って城下町まで来たのも暇そうにしてた俺に街を案内するためだろう。


普通なら王女様が予約したお菓子を自ら取りに行くなんてありえねぇよ。




 王家とお菓子で思い出したが、パンがなければお菓子を食べればいいじゃないで


お馴染みの然る王妃だが、そんな事を本人が言った記録もなければ実際には違う人


が言っていた事だったらしい。斬首されて数百年経って違う国どころか今では違う


星にいる俺にまでそんな印象で覚えられてるってすげぇわ。ネットの闇に通じるも


のがある。




 コロコロ変わる表情で俺を楽しげに案内して街の人からも愛されている王女様は


そんな闇に堕ちないで欲しい。




 「ハル様、このお店ですわ」


 「おーすごい行列だな」




 王都屈指の人気店だけあってとんでもない行列ができていた。




 「店内でお茶を飲んでお菓子を食べて行く人達は並んでいるんだ。わたしたちは


  持ち帰るから並ぶ必要ないぞ」




 オーロラたんに説明される。店内の内装も凝っていて並んででも店内で食べたい


リピーターが多いらしい。




 ソフィーちゃんは「王女様はお持ち帰りですか?」とか並んでる人に声を掛けら


れている。「えぇ、そうですのよ。ここのお菓子大好きで」と答える。


 その間に店の人が持ち帰り用に準備されていた商品を持ってきてくれる。俺がそ


れを受け取ると申し訳なさそうに言う。




 「ハル様、持たせてしまってすみません」


 「いや気にするな。こういうのは俺がやるもんだ」




 さすが魔獣!とかシオリさんが言ってきたがスルーした。そして並んでる人達に


向かいソフィーちゃんは軽く手を振りながら言った。




 「それではお先に失礼しますわ。皆さんもこちらのお菓子堪能してくださいね」




 「王女様またー」「王女様さようならー」「ソフィア様サイコー」とか歓声が上


がった。変なの混ざってねぇか? まぁ気のせいか。


 帰りは違う道を通り街の中を案内されながら城へと戻った。城に戻ると母親幼女


が待ち構えていた。




 「ワシも行きたかったのじゃ」


 「寝てたからな。また今度行こうぜ」


 「むむぅ。約束じゃぞい」




 そう約束して納得してくれた。さすが幼女ちょろい。




 「ステラ様、王都の人気店でお菓子を買ってきたのですわ。一緒にお茶にしませ


  んか?」


 「おーさすがソフィアは気が利くのう」




 一国の王女に向かって気が利くって本当にこの幼女は何様なんだ。




 ステラ様だったわ。

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