第13話 対策

 城まで戻るとスライム塗れのオーロラたんを惜しみつつもメイドさんに任せた。


レオとソフィーちゃんは無事とダンジョンの状況をヘンリーさんに伝えに言っても


らい俺はシオリさんにいくつか質問をする。




 「あのダンジョン、この国の王子も姫も知らない割に過去の遺物みたいな人工物


  だったけど一体なんでだ?」


 「これはテラの機密にあたるので、ステラ様とわたしとハルさんだけの間の話に


  してもらいたいのですが」




 そう前置きをして話し始めた。




 「テラの人類種はほぼ同じ場所で繁栄します。あの場所はリセット以前の人類種


  の遺跡みたいなものなので現在の人類種には情報がなくて当然かと」


 「それは確かに俺達だけの話にした方がいいな。その遺跡がなぜダンジョン化し


  たのかと、以前話していたダンジョンを消せない理由について教えてくれ」




 少し考えるとシオリさんは話し出した。




 「ダンジョン化の理由は遺跡奥にある魔力の渦と呼ばれる魔力発生源から魔物が


  無秩序に発生しているからです。テラの人々は魔力から多大な影響を受けます。


  あのダンジョンの魔力の渦を完全に消し去ると魔物は発生しなくなりますが、


  しばらくすると王都に人はいなくなりますし、もし今回テラをリセットしたと


  してもこの周辺で人類種が発生して都市を作る事はなくなります」




 自分から聞いておいてなんだがすげぇ重大な事聞いちまったな。




 「俺なら数日で解決できるとか言ってたけど本当にできるのか?」


 「できますよ。無秩序とは言っても発生してる魔物がスライムのみですし」




 魔力の渦を残すのは絶対として、無秩序発生とスライムの処理ってところか。ヒ


ントはいくつか出てるがそれがなかなか線にならない。もう少し話を聞こう。




 「魔力の渦はそのままにして魔物の無秩序発生ってどうにかならないのか?」


 「なりますよ」


 「やっぱ無理かー。……ん? 今なんて?」


 「だからなりますよ」


 「いやそれじゃもう解決したも同然じゃねぇか!」


 「だから数日で解決できると言ったじゃないですか。ただ、今のように無秩序に


  スライムがぎっしり状態ではなくなるというだけで発生はしつづけます」


 「適度にスライムが発生するダンジョンになるってわけか」




 俺達が王都を離れてからもマルア王国で管理してもらうわけだしなんかうまい事


いかねぇかなぁ。




 「あっ、良い事思いついたぜ」


 「やっとですか? それでは話をつけに行きましょう」


 「まだ、何も言ってないんだけど俺」


 「沢山ヒントをばら撒いたので答えは一つですよ」




 やっぱり俺は掌の上でのた打ち回ってんだ。母親幼女を連れてヘンリーさんのと


こに行くか。








 「やぁ、無事戻ったみたいだね。オーロラさん以外は」




 そう言って苦笑を漏らす。まあ苦笑も漏らすよね、あの状態で戻ってきたら。




 「彼女のお陰もあってダンジョンの事後処理について思いついたから彼女の犠牲


  も無駄ではなかったぜ」




 いや死んでないけどな。




 「既にレオとソフィーから報告を受けたと思うけど、ダンジョンの中はスライム


  の巣窟だった」


 「聞いたよ。相当な数だともね。全く頭が痛くなる」


 「というわけで解決策を持ってきたぞ」


 「本当かい!? この短時間で?」


 「あぁ。ただそのためにはヘンリーさんの協力とステラ様にも手伝ってもらわな


  いといけないんだわ」


 「ワシもかのう? ワシにできる事は限られるのじゃが」


 「ステラ様、大丈夫ですよ。特に問題ないと思われます」




 うむうむそれならよいのじゃと母親幼女も頷いてる。




 「まずは一つ目に俺とシオリさんでダンジョンから発生するスライムの量を調整


  する。これは明日にでもやってくるよ。


  二つ目に現在いる大量のスライムとこれから発生するスライムの処理方法。こ


  れからするのは二つ目に関する提案だ」


 「その提案は今後我が国だけで対処できると判断させてもらっていいのかな?」


 「そうだぞ。ただし国が運営するか商人を雇うか冒険者を雇うか等は全部ヘンリ


  ーさんに投げる事になるがな」


 「それだけ聞くとまるで商売の話をしてるみたいだね」


 「その通り。ところでヘンリーさん、スライム飲んだ事ある?」


 「いや飲んだ事ないが……まさか!」


 「そのまさかだよ。スライムを飲み物として販売する」


 「いやいやいや、さすがにそれは無茶だよ」


 「うおおおおお、ハルよ!それが本当なら嬉しいのじゃあああああ」


 「え? ステラ様?」




 まー驚くよな。ダンジョンから湧いた魔物だし。たぶんテラではまだ魔物を食べ


るとか飲むとかいう常識が生まれてないんだ。だからこれ絶対ヒットしちまうんだ。




 「ステラ様はスライムドリンク大好きなんだよ。だからステラ様自身に宣伝して


  もらう。明日ついでにとってくるから一回飲んでみてほしい」


 「体に害とかないんだよね?」


 「もちろん、ワシが保証するぞい。味の方もなのじゃ」


 「ステラ様がそこまで仰るなら、一度試してから決めるという事にしようか」


 「ワシの分も頼むのじゃ」


 「よろしく頼むよ、ハル君」






 退室して部屋に戻り、魔力の渦の制御方法について母親幼女とシオリさんからレ


クチャーを受ける。周囲の魔力を利用した永続的結界魔法の応用だった。難しいな


おい。


 もうすぐ夕食の時間という時間になり部屋にオーロラたんが飛び込んできた。




 「ハル殿!本当にすまなかった!」


 「おっ、オーロラたん目覚めたのか。もう大丈夫か? シオリさん、一応オーロ


  ラたんの魔力見てくれる?」


 「はい。オーロラさんこっちに来てくれますか?」




 オーロラたんは言われるままシオリさんに近寄る。シオリさんはフワフワ浮いて


オーロラたんのおでこと自分のおでこをくっつける。




 「シ、シオリ殿少し恥ずかしいのだが」


 「今魔力の流れをチェックしてるので少し我慢してくださいね。」




 オーロラたんは顔を赤くしモジモジしている。ごちそうさまです。




 「大丈夫です。特におかしなところはないようですよ」


 「そりゃ良かった。スライムは無害だけどどういう状況で気を失ったかまでは見


  てなかったから心配したぜ」


 「重ね重ねすまない。あの時我慢しようとしたんだがスライムのあまりの可愛さ


  に耐え切れなかったんだ」


 「そんな事だろうと思ってたぞ。真面目な話をすると今回はスライムだったから


  良かったけど次からは気をつけてくれよな」


 「わかった。だがそれだけではわたしの気が済まない。わたしにできる事なら何


  でもするから言ってくれ」




 何でもだと!? オーロラたんが何でもしてくれるだと!?




 「すぐには思いつかねぇな。考えておく」




 冷静を装いそう返事をする。ククク、これで俺はオーロラたんに何でも要求でき


る権利を得ちまったぜ。覚悟しておくんだなぁ!


 母親幼女とシオリさんがボソボソと育て方間違えたかしらとか話してるが関係ね


ぇ!俺はやる時はやる男だ。




 「オーロラたんのお陰で解決策も見つかったようなもんだしあまり気にすんな。


  そろそろ夕食の時間だし体が平気なら行こうぜ」




 メイドさんに案内されて夕食へ。レオとソフィーちゃんもオーロラたんの無事を


喜んでいた。ソフィーちゃんも心配そうにしてたもんな。


 俺は翌日またダンジョンへ潜る事もあり、早めに部屋へ戻って休む事にした。そ


うだ、明日は少し多めにスライムを持ってこようと考えながら眠りについた。






 翌日スライムを入れるための小さな樽をいくつか用意してもらいシオリさんとダ


ンジョンへ向かう。小樽はレオに手伝ってもらいダンジョン前の監視小屋まで運ん


だ。




 「レオの代になっても主要産業の一つになる可能性があるから今のうちに身を持


  って体験しとけって」


 「そうなのかい? それじゃ手伝わせてもらうよ」




 一人でも運べるが暇そうにしてたし良い経験になるだろ。




 「俺とシオリさんはダンジョンの調整してくるからレオはここで小樽見といてく


  れよ。ついでに兵士を激励してやれ」


 「気をつけてね。2人なら大丈夫だろうけど」


 「あぁ、行ってくる」




 ダンジョン前の兵士に声をかけ開錠してもらう




 「今日は昨日みたいな事はないから安心してくれよ」


 「はい!お気をつけて!」




 ダンジョンに入り、昨日と同じ無属性魔法を使う。「ライト」「ガード」「サー


チ」「ハイド」。今日は昨日の事も踏まえ「サイレント」も追加でかける。


 「サイレント」も無属性魔法で消音する魔法なのだが「ハイド」と併用する事で


副作用がある。味方同士ですら位置の把握ができなくなるのだ。昨日は使えなかっ


たが今日はシオリさんと2人だからな。




 「シオリさん、「サイレント」もかけるから肩に乗ってくれ」


 「わかりました。これでスライムに気づかれずに奥まで行けますね」






 その通り。前日のサーチの結果から魔力の渦の場所まで特定できてるからな。マ


ッピングも必要なしで敵との戦闘もなし。目的地まで一直線とかもうヌルゲー過ぎ


る。おっと、いかんいかん。こういった気の緩みがフラグを呼び寄せるんだ。




 「さっさと魔力の渦の調整をして戻ろう」




 気を引き締めダンジョンの奥へと進んだ。大量のスライムも今日はこちらに気づ


く事もなく通り過ぎる。




 「本当に何事もなく最奥まで来れたぜ。あれが魔力の渦だろ? 魔力の渦の周囲


  にはスライムいないんだな」


 「生まれるときはあそこから生みだされますが、魔力の渦周辺はスライムにとっ


  て魔力が強過ぎるからだと思いますよ」




 きっと魔力に影響されるが故に強過ぎる魔力にも影響を受けるのだろう。




 「可変型永続的結界魔法起動」




 今回の結界魔法はスライムの発生量の調整を後からでもできるようにかなり緩い


結界にした。緩いとはいっても俺と母親幼女とシオリさん以外にいじる事は不可能


だろうけどな。




 「シオリさん、こんなもんでどうだ?」


 「そうですね。まずはこれぐらいで様子を見てみましょう」




 シオリさんの了承も得られたし一回ダンジョンを出てレオの所に戻ろう。








 「うわっ!いきなり驚かせないでくれよ。もういいのかい?」




 「ハイド」と「サイレント」を目の前で切り突然現れた俺達に驚いた。




 「ダンジョンの調整はひとまず終わらせたぞ。小樽をダンジョン前まで運ぶのを


  手伝ってくれ」




 ダンジョンに入ったはずの俺が監視小屋から現れた事に見張りの兵士も驚いてい


た。




 「これから何度か出たり入ったりしてこの小樽が消えるが気にしないでくれ」




 スライムの種類は赤、青、黄、緑、紫の5種類だった。持ってきた5個の小樽に


色分けして5匹ぐらい詰めることにする。


 現れたり消えたりする小樽に驚いて「ビクッ」としてたが何往復かして終わらせ


た。




 「よし、終わったぞ。兵士さん施錠してくれるか?」


 「了解しました!」


 「ところで僕はまだ何も聞いてないんだけど」


 「戻りながら話そう。1個だけ持ってくれるか?」




 結構重いねと言いつつ持ってくれる。さすがに小樽とはいえ5個は持ちづらいか


らな。さて、戻って味の品評会といきますか。






 この後めちゃくちゃ大ヒットする事になるのだが、商品化させようと考えた一番


の発端がオーロラたんを担いで帰った時に粘液が垂れて口に入ってきた事だとは誰


も知らない。


 オーロラたん、ごちそうさまでした。

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