第12話 調査

 国王様と王妃様からは息子と娘の友人として接したいと言われ「さん」付けで呼


ぶ事になった。敬語もやめて普段通り話す許可を貰ったぜ。公式の場では母親幼女


の代理人として俺の方が立場が上らしく様付けで呼ばれるらしい。本気でやめてほ


しい。


 国王のヘンリーさんはレオと似ていて気さくな方だ。俺もこんな器の大きい人に


なりたいぜ。少し2人で話したいと言われ話している。




 「そういえば、ハル君は娘のソフィーと随分仲良くしていたね」


 「たぶん俺にも妹がいるからレオと同じ兄の雰囲気を感じたんじゃないか?」


 「なるほど。わかってると思うがソフィーはわたしにとって目に入れても痛くな


  いぐらいかわいい娘なんだ。もしもの時は責任を取ってもらうからね?」




 「なんて冗談さ」と付け加えた。やべぇ笑ってるけど目が全然笑ってない。むし


ろ据わってる。無難に答えておこう。




 「わかってるぜ。もしもの時は責任を取るので安心してくれ」


 「ステラ様の代理人であるハル君にそこまで断言されたらソフィーも安心だね。


  実はなかなか兄離れできなくて心配してたんだよ」


 「そうなのかーははは」




 ん? 無難に答えたよな俺。とんでもないフラグを立てた気もするが。




 「話は変わるが明日早速ダンジョンの下見に行っていいか?」


 「あぁ、もちろんだとも。ダンジョン入り口は厳重に封鎖してあってね。見張り


  の兵士に話を通しておくよ」


 「それは助かる。どんな場所か早めに見て対策を立てておきたいからな」


 「よろしく頼むよ。それじゃあまりハル君を独占しててもレオとソフィーに文句


  を言われてしまうから、この辺で。また夕食の時にでも話そう」




 さすが王様だけあって会話に淀みがないな。退室するとメイドさんが待機してい


て部屋まで案内してくれた。部屋に入るとなぜかミアさん含め全員が集まってお茶


をしていた。ヘンリーさんは知ってたのかもな。


 ちなみにミアさん手作りのお菓子は大変おいしゅうございました。ほんと科学の


存在しないテラでお菓子をこれだけ上手く作れるって凄いわ。








 夕食は例の如くコース料理だったがワイルドターキー以外は初めて食べる物だら


けだった。中央都市とマルア王国でも食材がだいぶ違うのかもしれない。それはそ


れとして初めての味を楽しめたぜ。


 ヘンリーさんも息子と娘に久しぶりに会えたのが嬉しかったのかレオとお酒を酌


み交わしご機嫌だ。


 そんな時オーロラたんが話し掛けてきた。




 「ハル殿、明日ダンジョンの下見に行くらしいのだがわたしも連れて行ってくれ


  ないだろうか?」


 「俺も初ダンジョンだから守りきれるかわらんぞ」


 「自分の身は自分で守る。剣と魔法にはそれなりに自信があるしな」


 「シオリさん、明日オーロラたんも連れて行っていいか?」


 「えぇ構いませんよ。ある程度地位の高い若い世代にダンジョンがどういった物


  か見せる必要もあるでしょうしね」




 それを聞いていたのかレオとソフィーちゃんも名乗りを上げた。




 「そういう事なら僕も行かないと。元々はマルア王国の問題だしね」


 「わたくしも自分の国のダンジョンを自らの目で確かめたいですわ」


 「待て、ソフィー。レオはともかくお前をダンジョンなんて危険な場所に行かせ


  るわけにはいかん」


 「お願いですわ、お父様。わたくしももう守られるだけは嫌なのです」




 ヘンリーさんも娘のソフィーちゃんにかかればたじたじだな。俺の方を見てくる


が俺からは何も言えんぞ。ようやく条件付きで折れたようだ。




 「わかったわかった。ただし危険があればすぐに戻ると約束してくれるかい?」


 「わかりましたわ。お父様ありがとうございます」


 「ハル君も2人をよろしく頼むよ」


 「あぁ大丈夫だ。明日は下見だしそこまで危険はないと思う。ただ俺とシオリさ


  んの指示には従ってくれよな」




 レオとソフィーちゃんとオーロラたんの3人は神妙に頷く。




 「という事になったみたいだけどシオリさん?」


 「はい、当初より人数が増えましたが問題ないでしょう」


 「必要な物はさっき言われた物だけでよかったかい?」


 「はい、今回まずはダンジョンの空気に慣れてもらう事と調査が目的なので。明


  日の調査が終わり次第必要になりそうな物を追加するかもしれません」


 「そうか。これは我が国からの正式な依頼となる。成果を期待しているよ」


 「ハルよ、がんばるのじゃぞ……すぴー」




 母親幼女は食事が終わると膝の上で寝かかっていた。




 「ステラ様も眠そうですし今日はこの辺でお開きにしましょう」


 「それじゃ、みんな明日よろしくな!」




 おやすみを言い合いそれぞれ部屋へ戻っていく。




 「俺、母親幼女の部屋知らねぇぞ」


 「何言ってるんですか。わたし達3人は同じ部屋ですよ」




 まじかよ!まぁ居候みたいなもんだし我慢しよう。




 「指輪の数どんどん増えて今5個なんだけどそろそろこれどうにかならない?」


 「そうですねー。魔力放出出力を上げたバージョンを今度作ってみます」


 「ありがとう、シオリさん。あと導入したい技術があるんだが……」




 シオリさんと少し相談してから指輪をつけ安眠した。やっぱこれ安眠グッズだ。








 翌日起きると朝食をとり出発する事となった。




 「場所は昨日のうちに僕が聞いておいたから案内は任せてほしい」


 「おう、助かるわ。レオよろしくな」




 レオとソフィーちゃんはいつもの服装ではなく戦闘用の装いをしていた。なんか


あれだな。戦争に赴く王子と姫騎士って感じでかっこいいわ。


 オーロラたんはいつもの森の妖精みたいな服装だったがこれが戦闘用らしい。ソ


フィーちゃんの護衛だしな。ひらひらしてて全然戦闘用に見えんが。


 俺? 俺はシオリさんに用意してもらったんだが、飲み屋で絡むならず者みたい


だぜ。このパーティー編成おかしいだろ。王子、姫騎士、エルフ、ならず者。ゲー


ムだったら酒場に預けたままクリアされるやつだ。


 だがしかし、このパーティーはならず者がリーダーなんだ。残念だったな!ヒャ


ッハー!一人残らず捕まえろー!




 「ハルさん、馬鹿な事を考えてないで行きますよ。今度ちゃんとした装備を開発


  しますから」


 「お、おう。俺も協力するから頼むわ」




 ダンジョンは街の郊外、とは言っても城壁の外部、の近くにあるらしい。




 「一度西門から出て外壁沿いに進みます」




 なんでも現在西門は閉鎖していて許可のある者以外通れないようだ。そんな西門


もヘンリーさんが話を通しているし王子と王女一緒だからフリーパスだぜ。


 城壁沿いに進んだ南西部にそれはあった。監視小屋があり周囲に何人かの兵士が


配置されていたのですぐにわかった。




 「ハル、こっちだよ」




 レオに呼ばれそちらを見ると施錠された古めかしい石扉が現れた。




 「一つ聞きたいんだがダンジョンって人工物なのか?」


 「わたくしは国の歴史を調べた事がありますが、ここについて書かれた書物は一


  切ありませんわ」


 「僕も聞いた事がないね」


 「考えても仕方ないか。とりあえずまずは入ってみよう」


 「事前に伝えておきますが火属性魔法は厳禁でお願いします。命に関わりますの


  で」




 全員が頷く。そして近くにいた兵士に開錠してもらう。




 「中で何があるかわからないから何かあった時のためにすぐ施錠できるようにし


  ておいてくれるかい」


 「了解しました!」




 そしてついに初のダンジョンが俺達の前に口を開いた。そこは長らく開かれてい


なかったせいかカビ臭く湿ったにおいがした。




 「先頭を索敵しながら俺が進む。中衛にレオとソフィーちゃん、殿をシオリさん


  とオーロラたんで頼む」




 皆が頷くのを見てダンジョンへ入って行く。扉の向こうはすぐに階段となってい


た。俺は全身に魔力を行き渡らせるといくつかの魔法を使った。


 俺の周囲を照らす「ライト」、弱めの防御膜を張る「ガード」、周囲の生物の場


所を脳内に反映させる「サーチ」。こう考えると無属性魔法万能過ぎるな。


 俺が複数の魔法を一瞬で使い自分達にも「ガード」が張られた事に驚く3人を促


し階段を下りていく。




 「俺の「サーチ」はそこまで範囲が広いわけじゃないが、階段の下までは生物は


  いなさそうだ。足元には気をつけろよ」




 古い割に意外としっかりとした作りの階段だなと思いながら下ると階段が終わり


少し広めの場所に出た。




 「よしっ!ここをキャンプ地とする」


 「ここに泊まるのかい?」


 「たぶん言ってみたかっただけなので気にしないであげてください」




 あぁその通りだよ!ぐぬぬ。




 「ダンジョンとはいっても、いきなり魔物が襲ってきたりはしないのだな」


 「わたくしも入る前からドキドキしっぱなしでしたわ」


 「まだ離れてるが生物の反応は捕らえたぞ」




 「サーチ」により生物反応はキャッチできたのだが、できたのだが。




 「シオリさん、これどう思う?」


 「かなりというかとんでもなく多いですね」




 魔力を多めに溜め再度サーチを発動させたが予想以上の多さだった。




 「とりあえず全員に「ハイド」をかける。魔物の種類を見極めたいからできるだ


  け音を立てずに着いてきてくれ」




 「ハイド」は気配を消し周囲に姿を溶け込ませる無属性魔法だ。ただし音は消せ


ないので注意が必要。魔物の確認ぐらいならできるだろ。






 一番近く多数の生物反応がある方へ音を立てずに進んでいく。「ライト」に込め


る魔力を減らすと少し暗くなった。これで絶対大丈夫なはずだぜ。


少し大きめの部屋が見える。何かしらの魔力源があるのかその部屋は明るかった。


俺は全員を止め壁に張り付き部屋の中を確認する。そこにヤツらは大量にいた。


 壁だけでなく天井までを覆いつくし床にも大量に。








 それは母親幼女の大好きなスライムだった。あの時とは違い赤や緑や黄色など色


とりどりのスライムが所狭しとピョンピョンしている。


 俺はホッと息を吐いた。人懐っこくテラ最弱の魔物だからな。ただこの量は予想


外であった。「サーチ」でこんな場所が多数存在してるのがわかっている。今日の


ところは確認もできたし帰って対策でも練るか、と全員に伝えようとした。


 俺は大切な事を忘れていたんだ。




 「キャーッ」




 オーロラたんが悲鳴を上げた。その瞬間全てのスライムがこちらに気づいた。や


べぇと思い叫ぶ。




 「撤退!撤退だー!」




 全員で入り口に向かって逃げる。ヤツらの動きはそんなに素早くない。逃げ切れ


るはずだ。入り口に着くと兵士に施錠するように指示する。不測の事態が起きた事


を察した兵士はすぐに施錠する。


 全力疾走した息を整え、オーロラたんにどうして悲鳴を上げたのか聞こうと後ろ


を向くとそこにはオーロラたんの姿だけがなかった。




 「「「あっ」」」




 焦っていて撤退を優先させたが思い出せ。


 オーロラたんはあの時俺達とは逆方向、つまり入り口ではなくスライムの方に突


っ込んで行った事を。


 そしてもう一つ忘れていた大切な事を思い出す。オーロラたんが可愛い物に目が


ない事。あれは悲鳴なんかじゃねぇ。喜びの叫びだったんだ。オーロラたんまじ何


してんの。


 人懐っこいだけで無害なスライムだ、しばらくして落ち着いたら迎えに行こう。






 その後「ハイド」をかけ一人でダンジョンの中に入った。そして大部屋の近くで


スライムの粘液塗れになり気絶していたオーロラたんを回収して帰った。


 オーロラたんからはスライムの甘い香りが漂っていておいしそうだったぜ。げっ


へっへ。

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