第11話 会見

 王都に着くと南にある門へ向かう。マルア王国の王都は高い堅固な城壁で囲まれ


ていて城塞都市の体を成している。俺達が向かってきた東側と反対側の西側にも門


はあるみたいだが馬車が乗り入れる場合、南側にある南大門を使う事が通例になっ


てるらしい。


 南大門に着くと王都に入る審査のために沢山の人が並んでいた。王都の正面玄関


だけあって実用性と優美さを兼ね備えた門だ。




 「結構人並んでるけどいつもこんな感じなのか?」


 「うーん。いつもよりだいぶ多い気がするかな」




 王家の馬車だけあって審査いらずで門もスルーできるようだ。あれだけ並んでる


人がいるとなんか悪ぃな。王家の馬車だとわかってるのか並んでる人も手を振って


くる。


 城門をくぐると正面に王城を見据えることができしっかり区画整理して作られた


街並みを見る事ができた。それよりも驚いたのは道の周囲に人が列を成していてさ


っき城門で並んでいた人達と同じ様にこっちに向かって手を振ってくるのだ。道は


俺達の馬車以外何も通っておらず、さながらパレードのようになっていた。




 「ステラ様が王都に来られたのは初めてだからね。みんな見に来てるのですよ」


 「うむ、それならワシも何かしてやらんといかんのじゃ」




 そう言うと御者に声を掛け馬車を停車させる。馬車が止まるといくつかの魔法を


唱えた。魔力が動いてるのはわかったが早過ぎてなんの魔法かわからねぇぞ。




 「あーあー。皆の者聞こえておるか、ステラじゃ。マルア王国の王都は初めてで


  のう。歓迎嬉しく思うぞい。そんな皆にワシからの贈り物じゃ。上を見るがい


  い」




 これは王都全体に声を届かせてるのか。母親幼女が言うとおり俺達も馬車の窓か


ら外を見る。




 「それでは準備もできたしいくのじゃ」




 王都周辺だけがゆっくりとカーテンを下ろしたように暗くなり、やがてまるで夜


の様になった。少しすると上空には光で彩られたいくつもの花が咲き乱れた。地球


風に言うと花火ってやつだ。他の皆はその状況と光景に釘付けになっていた。俺に


は暗くなる魔法以外見慣れた物だったのでシオリさんに小声で聞いてみた。




 「テラに花火ってあるのか?」


 「もちろんありませんよ。あれはステラ様がHPCSを通して見た地球の花火を


  実際の現象を使わずに映像だけを投影しているんです」


 「要するに音なしの録画映像を流してるみたいなもんか」




 シオリさんは頷く。花火はどうやら科学の領域らしい。それでもテラの人々が今


まで見た事もない光景に周囲の人は心奪われている。俺はやっぱり音ありで体の芯


に響くような花火が好きだぜ。魔法もあるしシオリさんと相談して花火を開発する


のもいいかもしれん。




 「どうじゃ? 楽しんでくれたかのう。それではワシは行くのじゃ」




 御者に声を掛けると馬車はまた王城へ向かい動きだす。上空を見上げ唖然として


いた人々も段々と気を取り直しあちこちから歓声が上がる。


 「ステラ様ー!」「うおおおおおお!」「ステラ様サイコー!」


 なんか聞いた事のある声も混ざってたが気のせいだろ。




 「す、凄かったですね。それぐらいしか感想が持てないぐらいの素晴らしさでし


  た」


 「わたしはなぜか涙が溢れて止まらないのだ」


 「わたくしもあまりの感動で泣いてしまいましたわ」




 目元を拭うソフィーちゃんとオーロラたん。美女の涙は美しい。拝んでおこう。




 「そうかそうか。よもやそこまで喜んでくれるとは思ってなかったのじゃが。良


  かったのじゃ」


 「あれは見慣れてない人達は度肝抜かれるだろ」


 「ですね。わたしも涙が」




 またもや泣きまねをするシオリさん。いや、シオリさん地球にいた頃一緒に花火


大会行ってたじゃねぇか。しかもたーまやーかーぎやーとか全力で楽しんだ直後、


玉屋と鍵屋の成り立ちについて延々と語ってきて俺は花火に集中できなかった思い


出がある。泣きてぇの俺の方だったわ……。




 馬車のまま王城に入るとそこでも城の関係者と思われる人達が出迎えに出てきて


いて一番奥にいかにも王様らしき人が待っていた。馬車止まったけどすげぇ降りづ


れぇぞ!


 レオは馬車から降りると母親幼女をエスコートしてくれるらしい。さすが王子様。




 「さぁ、ステラ様どうぞ」


 「うむ」




 母親幼女は馬車からぴょんっと飛び降りると周囲を見渡している。城の関係者の


人達ははそんな母親幼女に頭を下げ礼をしていた。俺から見ると幼女がドヤッてる


ようにしか見えん。レオのエスコートで王様の前まで行くと王様も礼をする。




 「久しぶりじゃったの。元気にしとったか?」


 「お久しぶりです。ステラ様もお元気そうで何よりです。先ほどの広範囲魔法は


  ステラ様ですよね? 驚きましたよ」


 「いいサプライズになったじゃろ」


 「えぇ。あんな貴重なものは後にも先にも拝見する機会はないでしょう」


 「そうとも言えないのじゃがのう。まぁよいわ。今回の訪問でワシはあくまで付


  き添いに過ぎん。待っとる者もおるしゆっくり話せる場所へ案内するのじゃ」




 これ俺達ってどのタイミングで降りればいいんだ。よくよく考えてみれば普通の


市民として生活してきたの俺だけじゃねぇか。ソフィーちゃんが察してくれたみた


いで教えてくれた。




 「ハル様、ステラ様とお父様が移動したらわたくしのお付きのメイドがきてくれ


  ますわ。それまで馬車の中で待ちましょう」




 俺の不安を一発で解消してくれたぜ。さすがプリンセス。




 「わたしもなかなか馴染めなくてな。今日は国賓のステラ様もいらっしゃるから


  余計物々しい雰囲気なんだろう」




 冷静に分析するオーロラたん。シオリさんを抱っこしたまま。








 王様と母親幼女が城へ入っていくと執事やメイドといった人達が現れ馬車の後ろ


に積んであった荷物等を運び始める。


 俺達のとこにも綺麗なメイドさんが来て案内してくれた。あんな綺麗なメイドさ


んがいるなんて王城すげぇな。少し見惚れていると、




 「お母様ったら、メイドの姿で来るなんてびっくりしてしまいましたわ」


 「ミア様は相変わらずお茶目だな」




 ん? お母様?


 ソフィーちゃんの母親って事は王妃様じゃねぇか!いやなんかおかしいと思った


んだよ。メイドなのに高貴な存在感があるというか。思わず見惚れてしまったぐら


いだからな。




 「もうハル様、お母様にまでそんな事を言ってはいけませんわ」




 ぷんぷんと怒ったフリをするソフィーちゃんまじかわええ。って俺また口に出し


た上に王妃様に向かって言ってたんか!




 「いや、すまない。また思った事が口から出ていたようだ」


 「あらあら、あのお兄ちゃんっ子で男性を寄せ付けなかったソフィーもいつの間


  にか成長したようね」




 だがそのお兄ちゃんっ子のソフィーちゃんに出会い頭に魔法をぶっ放されたのが


何を隠そう俺だ。もう一度やってほしい。あ、今の俺だと効かねぇかも……。


 王妃様はこちらに向くと挨拶をしてきた。




 「わたくしはレオナルドとソフィアの母でミアよ。ついでに王妃をしてるわ」




 そう言いウィンクをしてくる。王妃ついでかよ!俺も挨拶しよう。




 「俺はレオナルド君とソフィアさんの友人でハルです。中央都市で知り合いまし


  て仲良くさせてもらってます」


 「ハルさんが敬語を使ってるだと……」




 シオリさんがおかしな部分で驚いてるが、俺も時と場合によっては使うからな。


俺は空気が読める男なんだ。




 「あらそうだったのね。学校で知り合ったのかしら?」


 「いえ、街で魔法をぶっ放されました」




 そう言いソフィーちゃんを指刺す。思わず自然とバラしちまった。一瞬間が空い


た後、




 「ソフィー?」




 王妃様がギギギと音を立てるかのようにソフィーちゃんに向き直る。




 「違いますのよ!お母様!違くはないのですが違うのですわ!」




 ソフィーちゃんがもうおかしな事を言っている。ここは助け舟を出そう。




 「王妃様、ソフィーちゃんは悪くないんです。俺が初めて街に出た時、一緒にい


  た人達? とはぐれてしまって。その時たまたまレオと知り合って意気投合し


  てたら魔法をぶっ放されただけなんです。ソフィーちゃんは悪くないんです」


 「ハル様!?」


 「ソフィーあなたやっぱり」




 さすがに半泣きになってるのでちゃんとフォローしよう。




 「まぁ明らかに俺が不審人物でしたからね。兄思いの良い子ですからあまり怒ら


  ないであげてください」




 王妃様はふーっと息を吐き落ち着きを取り戻すと言った。




 「ハルさんがそう言うなら仕方ないわね。ソフィーは兄のレオが関わる事になる


  とどうも暴走しがちで。本当にごめんなさい」


 「わたしもついていたが何もできずあの時は本当にすまなかった」


 「わたくしももう何があってもハル様に手をあげる事はしませんわ」




 3人に謝られる。女性3人に謝られている。王妃様、プリンセス、エルフに。こ


れダメだ!第三者から見たら明らかに俺が悪者に見えるパターンだ。3人を促しこ


の場から移動しよう。




 「俺は気にしてないからいいんだ。それよりも一刻も早くこの場から移動しよう」








 危ねぇ。周囲にいた城の関係者がすげぇ怪訝な顔で見てたしなんとか逃げ切れた


ぜ。本物のメイドさんがやってくると俺も含めて王様と謁見するようで慌しく着替


えさせられた。「鍛えてらっしゃるのですね」「えぇ、少しですがね」「またまた


ご謙遜を」みたいな会話をした。俺の体がでか過ぎてサイズ合わせに手間取らせて


すみません。




 着替えも終わりそのまますぐに側にいた執事の方に案内される。謁見の間ではな


く執務室で話すようだ。長く続く廊下を歩く。もう緊張の連続で頭がどうかしそう


だぜ。




 「こちらです。少々お待ちを」




 そう言うと執事さんはドアをノックし入室する。そして執事さんに促され俺も部


屋の中へ入る。




 「おーやっと来たか。こっちじゃ」




 母親幼女が椅子に座り寛いでいた。当たり前と言えば当たり前だがある意味幼女


最強だな。


 用意された椅子に座る。もう全員集まっていて俺が最後だった。そりゃ慌しくも


なるわな。




 「君がハル君だね。わたしがマルア王国国王ヘンリーだよ。妻とはもう会ったよ


  うだね。レオナルドとソフィアがいつも世話になっている。ありがとう」


 「はじめまして、国王様。レオナルド君とソフィアさんとは友人として仲良くさ


  せてもらっています。」


 「そういえば知り合った経緯も聞かせてもらったよ。本当に申し訳ない事をした


  ね」


 「いえ、その事はもう何度も謝られてるのであまり怒らないであげてください」




 母親幼女がハルのやつ敬語なぞ使えたのかとか言ってるけどスルーする。




 「レオもソフィーも留学して良い出会いをできたみたいだね。以前レオから使者


  が送られてきた時も先程ステラ様からも今回の訪問の本命は君だと聞いたんだ


  けど」


 「それは俺がステラ様の代理人になるらしいからですね」


 「それに関してわたしから説明します」




 人形が動いた!? と驚いてるが構わずフワフワ浮いて話し続けるシオリさん。




 「国王様には以前ステラ様からお話しがあったと思いますがステラ様とわたしは


  直接このテラに干渉する場合限定的な事しかできません。ですのでこちらにい


  るハルさんに代理人として動いてもらいます」


 「こちらとしては西方の問題で手一杯なのでダンジョン問題を解決できるなら願


  ってもない事なんだが本当にいいのだろうか?」


 「ハルさんであればダンジョンの問題を数日で解消できるでしょう。ただダンジ


  ョン自体を消し去るとまずい事になるので事後の管理はマルア王国にお任せす


  る事になりますね」


 「数日……それはすごいね。レオとソフィーの学友であるハル君にこんな事を押


  し付けて申し訳ないんだが頼めるかい?」




 俺に振られたので答える。




 「任せてください。ただ俺はステラ学院の名誉客員教授なので学友ではないです


  よ。もちろん2人は友達ですが」




 それを聞き驚いている。まぁ同年代だし学生だと思うよな。




 「ワシからも一ついいかのう。たぶんハルの実力がわからないだろうから今回は


  そのデモンストレーションでもあるのじゃ。ワシとそこにおるシオリはその気


  になればテラの生物を全て消す事すらできる。ハルはまだ成長過程でまだそこ


  まではできんからのう」




 全員真っ青になる。いや怖ぇよ!俺も成長過程って。人外度上昇中かよ!




 「ハル君、できたら王都に被害がでないようにしてくれると助かるな」




 ほら、王様も心なしか息子と娘の友人を心配する目から星の化身様の使いを畏れ


見る目になっちまったじゃねぇか。




 「力技みたいな事はしないので大丈夫ですよ。心配しないでください」




 俺にはできるだけやんわりとそう言うしかなかった。ぐぬぬ。




 「あぁ、それと王都滞在中は城を自由に使ってくれて構わないからね。さすがに


  ステラ様を城下の宿に泊めさせるわけにはいかないです。後程執事に客室の方


  へ案内させますよ」




 俺としては城下町にも興味があったんだが。夏季休暇は長いしダンジョンの問題


を片付けたら観光する時間もあるだろう。


 俺達の夏はまだ始まったばかりだ。

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