第9話 学院

 次の日、朝食をとった後レオ達を送りだした。


 これから本格的な訓練の日々が始まる。この後シオリさんから訓練の流れについ


て説明があるらしい。正直怖い。




 「ハルさん、HPCSに行きましょう」


 「訓練はあっちでやるのか?」


 「そうですね。HPCS内部の方がいろいろと便利な施設があるので」




 HPCSは未知の技術の塊みたいなもんだからな。何かと捗るのかもしれない。


まずは例のブリーフィングルームにやってきた。ここも文字が宙を舞ったりただの


ブリーフィングルームじゃねぇしな。




 「それではこれよりハルさんの改造計画についてお話したいと思います」


 「……。」




 もうツッコミたくてしかたないがツッコまない。恐らく改造に近いレベルでの訓


練が行われるだろうし。




 「夏季休暇までに実戦レベルに仕上げる事になったので、3〜4ヶ月で物理、魔


  法の両面で対応できる形にもっていきます」


 「ごめんな。マルア王国に行く事勝手に約束しちまって」


 「いえ、どちらにしてもあのダンジョンは対処しないとまずいですし、実戦訓練


  としても適してるので丁度良かったですよ」




 今回は良い方に転がったからいいが本気で気をつけるわ……。




 「テラにおける基本知識についても合間の時間を利用して詰め込んでいきますが


  まずはステラ様の代行者として直接戦闘をこなせる事を優先させていただきま


  す」




 正面の空間に一日の時間割計画表というのが映し出されている。休憩はあるが起


きてから寝るまでパンパンのスケジュールじゃねぇか。やはり恐れていた通りにな


ったぜ。


 筋トレから心肺を鍛える走り込みそして武器の扱い。魔力操作を常に行いながら


魔法の使い方、魔法戦闘のセオリーを学び寝る時は例の指輪をつけ魔力を空にして


寝る。食事は身体作りと魔力の為に栄養素とカロリーをしっかりとる。




 「前半は地球での記憶があるからなんとなくいけそうな気がするんだが魔法関連


  ってこんな短期間で実用レベルにまでいけるのか?」


 「実戦で使えるレベルにはなるでしょう。なんといってもステラ様のDNAを直


  接受け継いでますから、一般的なテラの住人とは比べ物にならないスピードで


  成長すると予想しています。それでは説明も終わりましたし早速はじめます」






 この日から俺の地獄の特訓の日々が始まった……。




 朝シオリさんに起こされると5分で支度を済ませ変な味のドリンクを飲まされる。


そしてそのままHPCS内にあるジムのような施設でストレッチをした後軽くラン


ニング。シオリさんに指示されるままに器具を使った筋トレ。この時点で既に動く


事すらつらいがここからまたランニング。




 休憩と水分補給とまたもや変な味のドリンクを飲み魔法を使う基礎を学ぶ。魔力


操作を散々やらされたがそれは使う魔法によって魔力を溜める場所が違うかららし


い。例えば各属性の初級攻撃魔法は指一本にどれだけ魔力を集中できるかにかかっ


てるという。




 という事は全ての指から魔法を放つという事も可能なはずだ!俺は不可能を可能


にする漢オトコ。絶対にやってやる!




 昼食はこれまた変な味の栄養素の塊みたいな物体Xを食べ少し休憩をとった。


 午後は本格的に魔法の訓練となる。ここで俺は初めて魔法を使った。午前中に教


わった初級攻撃魔法はアッサリと使う事ができてしまった。4属性とも。これで俺


が人間じゃない事が確定。


なぜかというと、以前属性魔法には種族毎に適性があると教わったがそもそも人間


族には4属性全てを使う事は不可能らしい。




 「良かったですね!人外ですよ!よっ人外!」




 いやそれ全然褒め言葉じゃないからね。完全にディスってやがる。




 魔法名を覚える、初級魔法なら火のファイア、水のウォーター、風のウィンド、


土のストーン、そして魔力を溜める場所と量を覚える。魔力を溜める量が少なかっ


たり魔法に適性がなければ発動しない。逆に溜める魔力を増やせば威力も上がるら


しいがそれをするぐらいなら中級を使った方が魔力効率はいいようだ。効率など無


視し極限まで魔力を溜めた初級魔法ってすげぇ心惹ひかれる。


 知れば知る程魔法は奥深いな。




 「昨日俺がソフィーちゃんに魔法掛けられたとか言ってたけどあれは何の魔法な


  んだ?」


 「特殊魔法カテゴリーの姫魔法ですね。姫やプリンセスにあたる方のみに適性が


  ある魔法です。あれはバインドという相手を拘束する魔法でした」




 姫魔法で相手を拘束するのが護身的意味合いなのはわかる。相手を拘束する(意


味深)な俺はもう手遅れなんだろう。


 午後の特訓も終わり、夜も謎の固形物と独特な味のドリンクを飲まされシャワー


を済ませた後指輪をつけベッドに横になる。なんでも睡眠時間はある程度確保する


必要があるらしい。疲れきっていた俺はすぐに魔力が空になり意識は沈んでいった。




 翌朝シオリさんに起こされると5分で支度を済ませ変な味のドリンクを飲まされ


る。そしてストレッチをした後軽くランニング。シオリさんに指示されるままに器


具を使った筋トレ。この時点で既に動く事すらつらいがここからまたランニング。




 休憩と水分補給とまたもや変な味のドリンクを飲み魔法を使う基礎を学ぶ。中級


魔法を学ぶ。


 昼食は変な味の栄養素の塊みたいな物体Xを食べ少し休憩をとった。午後になり


初級の練習をしてから中級魔法を使おうとするが一度も発動しない。魔力操作と魔


力量が少な過ぎる事が原因だと言われた。




午後の特訓も終わり、夜にまた謎の固形物と独特な味のドリンクを飲まされシャワ


ーを済ませた後指輪をつけベッドへ。疲れきっていた俺はすぐに魔力が空になった。




 目を覚ますとしドリンクを貰う。自分自身と戦う。水分補給する。食べる。魔法


を使う。食べる。指輪をつける。






 こんな日々が繰り返されていく。初めの一週間ぐらいまではまだハッキリと記憶


していたはずだ。今はどれぐらい日数が経ったのか定かではない。


 体を鍛え走る。ただそれだけの機械と化す。シオリさんが時折くれるドリンクと


食べ物がうまくて貪むさぼる。


 いつのまにか上級魔法も連発できるようになったが禁止項目が増えていった。何


が禁止なのかわからないがシオリさんに任せておこう。


 指輪が一つではなかなか寝つけなくなり増やしてもらった。これで安眠できる。




 両刃の武器を持ち戦っている。地球で刻まれた記憶のままに動く。気を抜けば一


瞬で殺ヤられる。隙を作り魔法を織り交ぜて。生き残りたい。生き残りたい。そ


の一心で。








 「よう、お前ら久しぶりだな」


 「誰だい!?」「どちらさまですの!?」「誰だ!?」




 久しぶりだからってそんなに会えて嬉しかったのか。オーロラたんなんて腰につ


けた剣を抜きかかってる。嬉しい限りだぜ。




 「俺だよ俺。忘れちまったのか? ほら昔仲良かった俺だって」




 レオは俺を少し観察すると尋ねてくる。




 「もしかしてハルかい?」


 「そりゃここにいるんだから俺だろうよ」




 今日やっと外に出してもらえたぞ。どれだけHPCSに篭ってたのかわからんが


外に出たら3人が来てて熱い友情を感じたぜ。顔忘れられてたけどな!




 「学院の研究室にいつ行っても誰もいないから心配してたんだ」


 「それはすまんな。俺も今日戻ってきたばかりなんだ。見違えただろ?」




 3人は俺を見て驚いている。俺も自分の姿を見た時は驚いた。魔改造にも程があ


るだろシオリさん。地球にいた頃よりも何回りかでかくてぱっと見歴戦の傭兵にし


か見えない。




 「顔に面影があったからわかったけどほぼ別人だね」


 「以前は儚げな様子でしたが今はワイルドですわ。ワイルドですわ!」


 「強烈なプレッシャーで剣を抜きそうになってしまった。すまない」




 これは仕方ないな。自分ですらそう感じるという事は他の人はもっとインパクト


があっただろう。




 「訓練で俺も多少戦えるようになったからダンジョンの件は任せてくれよな」


 「そうですね。今のハルさんであればあのダンジョンを制圧する事も可能でしょ


  う。わたしもついて行きますが訓練ではなく初めての実戦という事をお忘れな


  く」




 シオリさんも来てくれるなら安心だろう。ただ初めての実戦で死ぬ者は多い。気


を引き締めて行くとしよう。




 「そういえば学院ってもう始まっちまってるよな。俺も学院長に挨拶して研究室


  行かんと」




 特殊な扱いとはいえまだ顔合わせすらしてないからな。母親幼女とシオリさん連


れて挨拶がてら会いに行こう。




 「そのことですが……」




 ん? シオリさんが言いづらそうにしてる。なんだ一体。




 「ハル、今日僕達は夏季休暇の事について話そうと思ってきたんだ」


 「あぁそうだったのか。けどまだ気が早いだろ」


 「そんな事ないよ。夏季休暇は来週から始まるからさ」


 「お、おう。そうだったのか」




 少し考える。確かにこのところの記憶に曖昧な部分が多々ある。だがしかし、前


期は4ヶ月ぐらいあったはずだ。さすがにそこまで経過してはいないだろ。




 「シオリさん、正直に答えてくれ。俺をどれぐらいの期間鍛えてたんだ」




 シオリさんはソフィーちゃんのカーテシーをパクるとこう言ったんだ。




 「4ヶ月弱になります」


 「前期ほぼ終わってるやないかーーーーい」


 「でもでも夏季休暇までに仕上げるって言っちゃったしー、そんな事言われても


  シオリ困るー」




 目の前をフラフラ浮きながらめちゃくちゃ煽りにこられても俺が困る。この短期


間でこれだけ完成させられたら感謝こそすれ文句などありようもない。




 「いや、いいんだ。ありがとうシオリさん」




 それを聞きシオリさんは、




 「どういたしまして」




 ともう一度綺麗にカーテシーをした。やはりシオリさんに全く敵う気がしない。




 「それじゃ中でお茶でも飲みながら夏季休暇のこと話そうぜ」




 3人を中へ案内し夏季休暇の予定について詳しく話した。前半を使いマルア王都


に行き後半はエルディスタンへ向かう事になった。オーロラたん曰く今回のエルフ


領滞在で世界樹に続きお勧めの場所にも連れて行ってくれるらしい。楽しみで仕方


ないぞ。






 余談ではあるがこの翌日、母親幼女とシオリさんを連れて学院長へ挨拶に行った


が元々話が通ってたらしく何事もなかったどころか逆に平伏されてしまった。研究


室を後期から使う事を告げ宮殿へと帰った。


 母親幼女とも久しぶりに会ったら寂しかったらしくやたらくっついてきた。幼女


だしな。




 こうして俺の前期はひきこもって終わった。学院まともに行けてねぇ!ぐぬぬ。

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