第7話 晩餐

 そろそろ夕食の時間になるという頃合になり、シオリさんは席を外すと真新しい


着替えを持ってきてくれた。何でもテラでの一般的な正装らしい。今日は色々あっ


て昼食を食べなかったからかなり腹も減っているが、畏まった夕食になりそうだ。




 「朝食は家族だけだったからまだ良かったけどレオ達と一緒だとな。たぶんあの


  3人貴族だろ」


 「むしろあの方達の方が緊張でガチガチになって来られるかと」




 そう言って苦笑を漏らす。




 「貴族なら夕食の招待とか慣れてそうだが」


 「普通の夕食の招待なら慣れているでしょうね。ですがステラ様からの招待とな


  ると話は別です。ステラ様が直接宮殿に招いたのはあのお三方が初めてですの


  で」


 「え、そうなの?」


 「ハルさんにとってテラでの初めてのご友人ですからね。それにハルさんがこの


  都市での知り合いを紹介すると言っていたではないですか」


 「俺としては社交辞令のつもりだったんだぞ」


 「あーその事ですが、このテラには社交辞令自体存在しません。ですから簡単な


  口約束も立派な約束として成立しますのでお気をつけください」




 うわーまじかよ。これかなり気をつけないと失敗しちまいそうだ。ただよくよく


考えれば社交辞令なんて頻繁に使ってんの日本人ぐらいだったわ。俺はもう2度と


社交辞令なんて使わねぇ!




 「今、心の中でもう2度と社交辞令を使わないと決めた」


 「それはそれは。では改めて出迎えに参りましょう」




 シオリさんと一緒にエントランスへ向かう。母親幼女も出迎えにきていた。




 「それではシオリ良いかの?」


 「ええ、こちらの準備は整っています」




 シオリさんはそう言うとその場から消えた。




 「は……?」




 俺は驚きのあまり言葉を失った。そんな俺を見て母親幼女は説明してくれた。




 「今、シオリに転移でレオナルド達を迎えに行って貰ったのじゃ。帰りも転移で


  すぐに戻ってくるはずじゃよ」


 「魔法すげぇなっていう感想しか出てこねぇ」


 「この星でも転移を使える者は少ないのじゃ。ハルの場合、使えるようになるか


  もしれんがそれも練習次第じゃな」


 「いやっほおおおおおおおおお」




 その時シオリさんが3人を連れて戻ってきた。着いた瞬間俺の奇声を聞かされた


気分はどうだ?




 「今日はよく来てくれたな」


 「ドン引きしてる3人に何もなかったかのように話し出すのはどうかと」


 「いや、ほんとすまん。流してほしかったんだ」




 母親幼女は溜め息をつきながら言った。




 「お主達に任せておるとほんと話が進まんのう。


  3人ともよく来てくれたのじゃ。今日はハルに友達ができた記念日としてもて


  なすつもりじゃ。ゆっくり楽しんでいくといい」


 「いえ、こちらこそお招きにあずかり光栄です。ステラ様のおわす宮殿に伺う事


  ができるとは夢にも思いませんでした。今日は楽しませていただきます」




 母親幼女はうむうむと頷く。




 「ここではなんですしホールの方へ移動しましょう」


 「そうじゃな。着いてくるのじゃ」




 エントランスから今朝とは違うホールへ向かうようだ。その間にレオに「よっ」


と声をかける。確かにシオリさんが言ってた通り3人とも借りてきた猫並みに緊張


してるわ。俺は少しでも緊張が解けるよう話し掛ける。




 「3人ともガチガチじゃねぇか。もっと気楽にしていいんだぞ。あそこにいるの


  は人形を抱えた、ただの幼女だ」


 「ふふっ、さすがにそこまでは思えないさ。けどありがとう。気遣ってくれて」


 「ステラ様はわたくし達にとって雲の上の存在ですから。そんなステラ様と対等


  だなんてハル様すごいですわ」


 「ふむ、わたしはハル殿を一目見た時から只者ではないと感じていた」




 その時そこの妹ちゃんにビビッてて逃げ出したかったんだが。このエルフちゃん


絶対節穴だろ。3人とも少し緊張も解けたようで、そうこうしているうちに朝とは


違う大きめなホールについた。




 「さぁ、掛けるのじゃ」




 母親幼女にそう言われ予め決められていた席に着く。




 「まずは乾杯といきたいところじゃが、その準備をする間お主達の自己紹介を軽


  くしてもらおうかのう。ワシは把握しておるんじゃがハルは何もわかっておら


  んようじゃしの」


 「確かにそうですね。僕から自己紹介させてもらいます。僕はマルア王国第一王


  子レオナルドと申します。歳は17才で既に成人しており父から王位を継承す


  る予定でしたが、ステラ学院の事を聞き及び留学を許可してもらい通う事にな


  りました。改めてよろしくお願いします。」




 そう言って軽く礼をするさすがイケメン。ただのイケメンじゃなく王子とかいう


最高級特選イケメンだった。




 「続いてわたくしが自己紹介させていただきます」




 立ってドレスの裾をつまみ礼をした。これが噂に聞くカーテシーか。まるでどこ


かの国のプリンセスのようだな。




 「わたくしはマルア王国第一王女ソフィアと申します。兄がステラ学院に留学す


  ると聞いて居ても立ってもいられなくなり、お父様を説得してこちらに参りま


  した。歳は14歳で成人前でございます。ステラ様、ハル様、兄共々わたくし


  とも仲良くしてくださると嬉しいですわ。」




 レオの妹ちゃんだからね。マルア王国のプリンセスだったわ。笑顔も着席する姿


も目をひきつけられるというか、華がある。


 次に個人的に大注目のエルフちゃんが自己紹介してくれるらしい。




 「わたしはエルディスタンが首長の一人オスカルの娘オーロラと申す者だ。つい


  先日成人を迎え15歳になった。わたしの部族はエルフ領の中でもマルア王国


  と隣接してる事もあり、幼い頃から隣にいるソフィアとは仲良くしてきたんだ。


  少々不躾なところもあるかもしれないがよろしく頼む」




 オーロラちゃんって言うのか。かわいいタイプやゆるふわエルフも好きだけど、


この常に冷静沈着でありその鋭い眼差しは全てを看破する凛々しくかっこかわいい


エルフが至高である。もう会う度に拝もう。


 シオリさんが話し始める。




 「ハルさんの自己紹介といきたいのですが本人から話すとまずい事もあるのでわ


  たしの方から紹介したいと思います。ハルさんは18才、皆様よりほんの少し


  年上ですね。隔離された場所で生まれ育ったためテラでの常識をほぼ知りませ


  んが一言で言うとステラ様の代行者になります」


 「なるほど、俺ってステラ様の代行者だったのか」




 母親幼女とシオリさんが直接手を出せない事を俺にしてもらおうとしてたのはな


んとなくわかっていた。それを代行者というなら納得がいく。




 「飲み物も行き渡ったし自己紹介も終わったところで乾杯するのじゃ。それじゃ


  ハルよ、頼む」




 乾杯の挨拶なんてした事ねぇぞおい。まぁ感じた事を言うか。




 「今日は突然の誘いにも関わらず来てくれてありがとう。3人共これから仲良く


  してくれよな!それじゃこの星の未来のために。乾杯!」




 そう言うとグラスを掲げた。みんなグラスを掲げてにこやかにしてるしこんな感


じで良かっただろうか?




 「ハルさん、初めての即興にしてはなかなか良い挨拶でしたよ」


 「ありがとうシオリさん。いやーいきなり振られると緊張するな」


 「今後増えると思いますのでこういった機会に慣らしていきましょう」




 しばらく料理を楽しんだ。どれも地球での食事と遜色のない出来だった。今度食


材や調理法について軽くレクチャー受けた方がいいかもしれん。これじゃ街に出て


もどんな食べ物かわからずに注文できねぇ……。




 「ウチの自慢のシェフの料理はどうかの?」


 「どれも絶品ですね。僕もそれなりの物を食べてきたつもりでしたがここでの料


  理は正直レベルが違いました」


 「わたくしも普段あまり量が食べられなかったのですが丁度良い量な上とてもお


  いしくて沢山食べてしまいそうですわ」


 「エルフ領に思いを馳せる料理の数々で感動した。どれもが繊細な味付けで素晴


  らしい」




 3人は微妙な食い違いに不思議そうに顔を見合わせる。




 「種明かしをするとじゃな、今日は3人にはそれぞれの好みに合わせたコースを


  出させたのじゃ」




 もしかして俺のもそうだったのかー!さすがは専属シェフやるなと浸っていたが




 「ステラ様とハルさんとわたしのは同じ内容ですよ」




 つっこまれてしまった。うんそうだよね。俺の好みに合わせたコースとか絶対コ


ースじゃなくなるぜ。




 「そうじゃ、お主らよかったら今日は泊まって行かぬか? ウチには自慢の温泉


  もあるんじゃよ」


 「温泉ですの!?」「温泉だと!?」




 温泉と聞いて女性2人は目を輝かす。温泉に心を奪われた2人に代わりレオが聞


いてくる。




 「ご迷惑じゃないでしょうか?」


 「客間はたくさんあるでのう。気にしなくていいのじゃ。お主もハルと語りたい


  事もあるじゃろ?」


 「俺もまだレオと語り合いたいしな。泊まってけよ」


 「それじゃご好意に甘えて泊まらせてもらおうかな」




 それを聞いて2人は「やりましたわー」と喜び合ってる。




 「それじゃシオリ、悪いんじゃがこやつらの屋敷の者に伝えてきて貰えるかの」


 「かしこまりました。それでは早速行ってきます」




 そう言ってシオリさんは消えた。




 「ハル殿、先程迎えにきて貰った時もそうだったんだがシオリ殿が使ってるのは


  「転移魔法」では?」


 「らしいな。俺もよくわからんがそうらしいぞ」


 「エルフ族にも何人か使える者がいてな。だが魔力を溜めたり転移先をイメージ


  したりするために発動まで10分近くかかるのを見た事がある。一体、あの方


  は何者なのだ」


 「あーシオリさんはステラ様並みに特別だからな。何かおかしな事があってもシ


  オリさんだからで済ませた方がいいぞ」


 「あとあと!あのかわいらしい見た目は一体なんなんだ!あの姿を見ていると胸


  がキュンッとする」




 オーロラたんがかわい過ぎる。やはりエルフサイコー!


 すぐにシオリさんは戻ってきた。それを見てオーロラたんに「な?」というジェ


スチャーをすると頷きと苦笑が返ってきた。




 「ステラ様の宮殿に泊まる旨伝えてきました」


 「ご苦労じゃった。それじゃ温泉の前に今日泊まる部屋に案内させようかのう」




 そう言うと何人かのメイドが現れ3人を案内していく。全然見かけなかったけど


この宮殿意外と働いてる人いるんだな。




 「ここで働いてる者は全てHPCSで作り出した仮の生命体ですよ。所謂使い魔


  ですね。情報漏洩があると困るので。シェフだけはテラの人間をスカウトした


  のです」




 まじかー。これ聞かされた俺もすげぇ反応に困る。ナチュラルに心読んでくる家


政婦只者じゃねぇわ。そしてそんな場所で良い仕事するシェフもやはり只者じゃねぇ。

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