第4話 伝播

 昼食も終わり一息ついたところで、午前中に講義を受けたブリーフィングルーム


のような場所に戻った。




 「ここってやっぱりブリーフィングルームなのか?」


 「そうですよ。他に少し大きめの会議室もあるのですが、3人だとこちらの方が


  使い勝手が良いので」


 「HPCSの中はすごく快適なんじゃが広過ぎて迷うのじゃ。ワシも行った事な


  い場所ばかりじゃ」




 地球にある我が家の地下にもこんな広い施設があったなんて夢にも思わなかった


な。HPCSが惑星や宇宙を生み出すために使われるてる事を考えれば不思議では


ないのかもしれない。




 「それでは午後の講義を始めますよー」


 「午後からはワシも口を出させてもらうぞい。魔法は専門じゃからのう」




 魔法が専門なのはわかるがテラに住まう種族や国も専門じゃないと駄目だろとい


う思いを飲み込みつつ講義に意識を向けた。




 「魔法は大きく分けると属性魔法、無属性魔法、特殊魔法に分類されます。


  属性魔法とは火、水、土、風の4種類であり、種族毎に相性があります。


  無属性魔法はその名の通り属性を持たない魔法で、利便性が高く多岐に渡りま


  す。無属性魔法は全種族に適性がありほとんどの人が使う事ができます。


  例えば小さな火をおこす魔法は火属性ではなく無属性に含まれるので誰でも簡


  単に火をおこせるわけです。


  最後に特殊魔法ですがこれは属性を持たないので無属性魔法の一部ですが、本


  来の無属性魔法と違い使える人も少数なので本当に特殊な魔法だと思っていた


  だければ大丈夫かと」


 「特殊魔法を使える人で多いのは回復魔法じゃな。大体の者が神官や医者になっ


  ておるのじゃ」


 「すまん話の腰を折って悪いんだが、星の化身なんていう存在がいるのに神官な


  んているのか?」


 「それはあれじゃ、ワシを神格化しておるのじゃ……」


 「お、おう、それはなんだか大変だな。シオリさん悪い。続けてくれ」


 「いえ、大体の説明はし終えたので気にしないでいいですよ。あ!本来属性魔法


  には光と闇も存在するのですがHPCSにより封印しているのでないものとし


  て考えてください」


 「ワシは封印してる理由を聞かされた事があるんじゃがよくわからんかったのじ


  ゃ」


 「確かになんか危険そうではあるよな」




 光と闇という俺の琴線を揺さぶってくる、これぞ厨二という魔法が使えないのは


痛いがなんとなくわからんでもない。そこら辺のやつがポンポン使ってたら暴発し


ただけで星壊されそうだしな。




 「それではそろそろ訓練に入りたいと思います」


 「やったぜ。この瞬間を待ちわびていたぜ」


 「まずは魔力がどんなものか感じてもらいその動かし方を体験してもらいます。


  それではステラ様よろしくお願いします」


 「うむ、任せるのじゃ」




 母親幼女が座っている俺の肩に手を置く。




 「緊張せず、力を抜き、楽にせい。今のお主は体の中心で魔力が滞ったままなの


  じゃ。そこへワシの魔力を流し強制的に動かす。その動かされる魔力の奔流を


  感じ身を委ねるのじゃ。一度経験すればあとは慣れじゃ慣れじゃ。


  それではいくぞい」




 俺は頷き力を抜く。母親幼女が触れている肩から不思議な温かい震動のようなも


のを感じる。これすげぇ癒されるな。それがみぞおちの辺りまで達した時、自らの


中に存在してた何かが氷解していくのがわかる。これが魔力とかいうやつか。それ


は徐々に熱を帯びながら全身を回っていく。




 「おい、ちょっと待て。めちゃくちゃ痛ぇぞ」


 「お主は培養液とかいうのに浸かっておったせいか、魔力の通り道が未だ確立さ


  れておらん。だからついでにちょいちょいっと広げておる。同時にワシの回復


  魔法も流しておるから大丈夫じゃ」


 「それなら大丈夫だな。ってんなわけあるかーい」


 「見事なノリツッコミでございます」




 バカな会話をしてないと我慢できない程の痛みなんだ。神経を直接ゴリゴリされ


てその数秒後に痛みがなくなり、また違う場所を痛みが襲ってくる。まじで頭がど


うにかなりそうだ。




 「よく我慢したのう。もう全身に行き渡ったはずじゃ」




 そう言い肩から手をどかす。そうすると魔力は一気に動かしづらくなった。




 「ワシの魔力の補佐がなくなった途端動かしづらくなったじゃろ?」


 「ここからは地道な努力しかありません。最終的には瞬時に魔力を移動させたり、


  一点に集めたりできるよう常に魔力操作を練習してください」




 俺は頷くと集中して魔力を動かしながら話をする。




 「動かせるには動かせるがなかなか難しいな」


 「初めてでそれだけ動かせられれば充分だと思いますよ。一般的には外部から魔


  力を体に流して体内の魔力感知なんてさせませんし、無理矢理動かして感覚を


  掴ませるなんて事もさせないですから」


 「え、さっきそれ普通にしてたよね?」


 「それはステラ様が居られるからですね」


 「魔力の波長は個々で違いますから、いくら直接体内に働きかける回復魔法に長


  けていても相手の魔力をも自由に操作するなんて事はステラ様以外にはできま


  せん」


 「うむうむ、ワシだからできるのじゃ。もっと褒めていいんじゃぞ」




 すっごいドヤ顔キメてるがこういうところは明日香そっくりだな。




 「確かにすげぇな。俺にもできねぇかな」


 「ステラ様直系のハルさんならできるようになると思いますよ。自由自在にとな


  ると数千年ぐらいは経験積んでください」


 「数千年って……。どう考えても俺生きてないでしょ」


 「ハルさんは現在星のDNAを受け継ぐ謎の生命体になってますからもしかした


  らそれぐらい生きてしまうかもしれませんよ? むしろその可能性が高いです」


 「ちょちょちょ、俺いつのまにか人間やめてたの!?」


 「むしろ地球にいた頃も厳密には人間ではありませんでしたよ」




 そうだ、よく考えたら地球での肉体も母親幼女のDNAを元に作られてたわけだ


から最初から人間じゃなかったわ俺、てへっ。




 「それとハルさんには毎日寝る前にこの指輪をつけて貰います。」




 そう言ってなんの変哲もなさそうなシルバーリングを出してきた。シオリさんが


わざわざ毎日やらせるって事はとんでもない効果を秘めてそう。




 「先程説明した魔力操作とは別でこちらは体内の魔力量を増やすためのものです


  ね」


 「これつけるだけで魔力増えるの? なんかすげぇ拍子抜けしたな」


 「これはわたしとステラ様で作った特別製です。他の方には絶対に触れさせない


  ようにして下さい。絶対にですよ?」


 「押すなよ!絶対に押すなよ!的なフラグにしか見えないんだが。因みに他の人


  が触ったりつけたりするとどうなるの?」


 「最悪死にます」


 「うちの家政婦さんと母親幼女が俺を殺しにかかってる件」


 「ハルさんは大丈夫ですよ。気絶するぐらいで済むので。ハルさんが気絶した頃


  を見計らってわたしが外しておきます」


 「なんならワシが安眠できるように回復魔法もかけてやるぞい」


 「気絶するから寝る前なんだろうけど気絶するってかなりきついんだぞ」


 「えっと、どうやら誤解があるみたいですので詳しく説明しますね。


  魔力を増やすにはできるだけ減らす事が重要なんです。これは人間種の筋力と


  かもそうですよね。限界まで酷使して強靭にする事ができます。


  テラの場合、魔力が生命力と直結しているので魔力がなくなり過ぎると生命の


  危険があるんです。


  テラにおけるハルさんの器として作られた身体は、ステラ様のDNAを受け継


  いでいる事はもちろん地球で過ごしてきたハルさんのDNAもバランス良く配


  合されて作られた摩訶不思議生物です。


  そんな健康優良ハルさんは魔力と生命力が分断されており気絶で済むと思われ


  ます。その上気絶とはいっても意識を失い眠りにつくだけという感じで、無理


  矢理気絶させられるような辛さは一切ありません。


  どうですかこの商品!」




 長い説明に飽きたのかシオリさんめちゃくちゃな事言ってるぞ。よくよく話を聞


いてみると確かに理にかなってる。しかもつらくない上に魔力も増やせるなんて!


買うしかねぇ!




 「わかったよ。俺のために用意してくれた物だしありがたく使わせてもらうよ」


 「ワシもシオリもそれを作り出すために何個も試作品作ったり苦心したからのう。


  使ってもらえるなら嬉しいぞい。」


 「やりましたね、ハルさん。数千年がかりで自在に魔力操作をできるようになれ


  て魔力は簡単に増やせるなんて!チートですよチート!」




 イイハナシダナー。


 ほんと良い最終回になりそうな場面をひっくり返すシオリさん自体がチートだと


思う。本気で。








 シオリさんは切り替えると続きを話はじめた。




 「それでは最後に科学と魔法の関係をお話しします。実は惑星テラ関連について


  話せる部分は少ないです。この先ハルさんがこの星で生活して情報を得ていっ


  てください。


  一つ言えるのはテラには科学は存在しません。


  次に情報制限の少ない地球にあるHPCSの初期設定をお話しします。


  地球のある宇宙はほぼデフォルトの状態で生み出しました。ただし、魔法や魔


  物といった魔力と結びつきの強いものを魔力と共に消したのが地球のある宇宙


  の初期設定になります。」


 「地球では魔法なんて想像上の産物に過ぎなかったからな」


 「ワシには魔法が存在しない星なんて考えられなかったのじゃが、ワシの星より


  発展してしまってる気がするのじゃ」




 母親幼女がしょんぼりしている。科学とはそれ程までに凄まじいものだった。明


日香が時折辛そうにしていた理由もわかってしまった気がする。




 「HPCSは初期設定が最優先され科学も魔法も自然発生は絶対にしません。


  新たに生まれた進化や常識も一人が至っただけではなんの意味も持たず、口コ


  ミで広まったり教育で多数の人に届ける事により星と宇宙が認識し、初めて人


  類種での定着が起こります。」




 地球を作る目的で宇宙が作られた事を知っているのはうちの家族のみ。それでも


地球は動くと主張した彼は真理に至った一人なのかもしれない。




 「その通りですよ。残された彼の名言にはHPCSのシステムを指すものがいく


  つもあります。」


 「俺また考えてたこと声に出してた?」


 「いや、ワシには何も聞こえんかったぞい」


 「今のは考えてることを読んだだけですよ」


 「あっさり考えを読んだと言われましても……」


 「単にHPCSにアクセスして入力済みのハルさんの思考パターンからこの場合


  における思考を導き出しただけです」


 「とんでもなく高度な事を無駄遣いしてる感が半端ねぇ!」


 「家政婦の嗜みでございます」


 「家政婦ってすごいのじゃー」




 うちの母親幼女がコロッと騙されそうでコワイ。やめてくださいまだ見た目だけ


は幼女なんですよ。




 「話を元に戻しますが、今までの話でわかると思いますがHPCSは科学と魔法


  どちらにも対応しています。


  ここからはとても重要な事です。ハルさん、よく聞いてください」




 シオリさんが本気モードなのを見てこちらも襟元を正して話を聞く。




 「ハルさんをこちらの星に呼ぶにあたり目的の一つとして科学の導入があります。


  しかし科学と魔法の融合は極めて危険を伴うので広めるかどうかは今後の状況


  を見つつ判断するということになるでしょう。


  現在最高学府が建設されているというお話をしましたがそちらに専用の研究室


  を用意してもらっています。そこでこの3人プラス優秀であり信用できる方を


  増やしていきたいと考えています。


  繰り返しになって申し訳ありませんが場合によってはとても危険です。わたし


  を通してHPCSからの許可を絶対に得てくださいね」


 「ワシは魔法の協力をするだけじゃ。科学はよくわからんしのう」


 「あぁ、わかったよ。科学と魔法の融合の危険性は理解してるつもりだ。新しい


  研究をする前に必ずシオリさんに相談するよ」




 実際パッと思い浮かべるだけでヤバそうなのがポンポン思い浮かぶ。ダメだ、こ


れは思いもよらないところにとんでもない落とし穴が潜んでるかもしれない。シオ


リさんに丸投げした方が良さそうだ。ウチの家政婦さんは頼りになるぜ。


 入学試験とか聞きたい事はまだあるが情報が濃密でだいぶ疲れた。




 「それでは午後の講義はここまでにしましょう。今日の様子を見た限り明日には


  外に出ても大丈夫かもしれませんね。」


 「うおおおおおおおおおおお」


 「随分嬉しそうじゃの。ワシも早く星を見てもらいたいのじゃ」




 晩御飯を済ませ食後は座禅を組み魔力操作の練習をした。


 そしていよいよ寝る段になり初めて指輪をつける事にかなりビビッていたが、い


ざつけてみるとアッサリ意識を手放した。


 すごく疲れてる時にうつらうつらとしてそのままグッスリと寝入る感じは逆に安


眠グッズとして優れていそうだ。


 テラの人が使うと命懸けだけどな!

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