第3話二番目のわたしと一番の彼3

駐車場までは歩いて5分もかからない、街灯もまばらで夜遅い時間に一人で歩くには少し不安になるような道だ。

駐車場の入り口に着いて、鞄の中から車の鍵を探す。鞄の中はぐちゃぐちゃで一度物を入れるとブラックホールなんじゃないと思うほど見つからない。

はぁ‥とため息をついて、鞄を地面に置いて携帯のライトをつけて鍵を探していると足音が近付いて来ている事に気が付いて、後ろを振り向いた。

暗くてよくは見えないが、どうやら他の部署の先輩の様だ。近づいてくるにくれてそれが山岸さんだということがわかった。山岸さんは、他部門研修でとてもお世話になった先輩だ、確か10歳ほど年上でお店の中では店長と同じぐらいみんなの信頼を得ている先輩だ。


「あっ、お疲れ様です。」


わたしは当たり障りのない様に挨拶をする。


「おう、お疲れさん。君は今日歓送迎会出るの?」


「はい、出ますよ。山岸さんは行かないんですか?」


「俺も行くよ?よかったら一緒に車に乗ってくか?鍵探してるんだろ?」


「えっ、はい、鍵見つからなくて‥‥でも乗せてもらうなんて迷惑じゃないですか?」


「いつも鍵を探しているイメージがあるな、君は」


山岸さんは呆れたような顔でわたしを見ている。


「鍵は明るいところで探した方がいいだろうし、今日の歓送迎会の場所は社員がみんな車で行くと駐車場が足りなくなるんじゃないかって店長も言ってたしな。もちろん歓送迎会が終わった後は会社の駐車場まで送るよ?」


「そうなんですね、じゃぁお言葉に甘えてお願いします」


「もう行けるのか?」


「はい、でも余分な荷物を自分の車に乗せたかったんですけど‥‥鍵がみつからないから諦めます」


「あぁ、そうか。なら余分な荷物は俺の車にとりあえず置いておくといいよ」


「えっいいんですか?ありがとうございます、助かります」


「じゃぁ、乗って。助手席でいいよ」


わたしは山岸さんに言われた通り助手席側のドアを開けて、ぎこちない動きで助手席へと乗り込む。


「車の中綺麗ですね」


「ん?男だから車の中は汚いと思ったのか?」


山岸さんは車のエンジンをかけながらわたしの事を横目で見ながら言った。

わたしは慌てて謝った


「すいまんせん、そうゆう意味じゃないです」


「ははっ、君はからかい甲斐があるね。面白いよ」


「なんですかーもう、からかわないでください」


わたしはほっぺを膨らませて見せた。まるでこどもの相手をしているように山岸さんは微笑んでいる。わたしは少し不機嫌になったが、もうそろそろ歓送迎会の行われるお店に着くので改めて髪型などを整える事に専念する事にした。

数分の間、二人きの空間、沈黙が続いた。気まずくなりつつある車内の雰囲気を打ち壊すかのように山岸さんが口を開いた。


「もうすぐ着くぞ?」


「は、はい、わかりました」


わたしは慌てて外を見回す、歓送迎会が行われる飲食店の前には社員さんたちがわらわらと集まっている。そこには鹿島さんも武田くんも中島さんもいた。


「おーみんな来てるみたいだな、もしかして俺たちが最後なのかもな」


「本当ですね、みんないますね。最後なんですかね?だとすると待たせちゃってるんですかね?」


わたしは不安になり山岸さんに聞いてみた。


「待ってはいないんじゃないか?どうせお店の外でみんな盛り上がって喋ってるだけだと思うけど」


山岸さんは車を駐車場に止めようと車をバックさせながら答えた。


「よーし、到着だ。余分な荷物はとりあえず後ろの席の外から見えない所に適当においておきな」


「はい、ありがとうございます」


わたしはお礼をいいながらシートベルトをはずして、ドアを開けて車を降りた。

山岸さんがこちらに来るのを待って、一緒にお店の入口へと歩いて行った。

駐車場がお店から少し離れた所なので歩道を歩いて行く、何も考えず山岸さんの左側を歩いていると前の方から自転車がこちらに向かってくるのが見えた。

歩道は人が3人並んでも歩けそうなほど広かったので、わたしは少しだけ右によってそのまま歩き続けた。自転車がわたしの横を通り抜ける時、少しだけ自転車のハンドルがわたしの腕に当たった。わたしはその衝撃で山岸さんの方へと倒れた。わたしは何がなんだかわからないまま、とっさに山岸さんにごめんなさいと謝っていた。その後、目を開けて自分がどうなっているのかを確認すると山岸さんが苦しそうな顔をしているのが見えた。

わたしは慌てて山岸さんから離れた。どうやら山岸さんは倒れて来たわたしを受け止めようとしてそのまま一緒に倒れてしまったようだ。


「山岸さんっ、大丈夫ですか!」


わたしは山岸さんの手をつかみ、起き上がらせようと少しだけ引っ張ってみた。

山岸さんは少し苦しそうな声を出した。


「大丈夫だ、ちょっと待ってくれ、どこか強くぶつけてしまったみたいで立てないよ」


「立てないんですか?どうしよう、誰か呼んできます!」


わたしは急いで助けを呼ぼうと歓送迎会が行われているお店へと走ろうとした。


「待って」


山岸さんはそう言いながらわたしの左手を強く握って離さない。

わたしは突然の事で驚いたが少し冷静になろうと思えた。


「待って、そんな大袈裟な事じゃないよ、大丈夫だから、少しここで座って様子を見る事にしないか?」


山岸さんはなんとか起き上がると道の端に座った。


「大丈夫ですか?他にどこかぶつけたり怪我してませんか?」


わたしは山岸さんの手や腕を持って怪我をしているところがないが調べた。

左の手の甲にとても大きな擦り傷があった。わたしはカバンからハンカチを出すと傷口の上にそっと乗せてぎゅっと結んだ。


「ごめんなさい、わたしがちゃんと自転車との間合いを測れないばっかりに山岸さんに怪我をさせてしまって。」


「いいんだよ、自転車のヤツだって悪いんだから。それに君に怪我がなくて本当によかったよ。女の子が怪我をしたら大変だからね。」


山岸さんは微笑みわたしの目をみながら話した。


「それにしても、ハンカチはすぐカバンから取り出せるんだな?」


「当たり前じゃないですか?ハンカチはちゃんといつも同じところにしまってますからね」


山岸さんはプッと吹き出した。わたしはなんで山岸さんがそんなにも笑っているのかがわからなかった。

息が出来なくなるほどに山岸さんは笑っている。わたしはそれをなんともいえない気持ちで見ていた。しばらくすると山岸さんは落ちついた。


「なんですかー?そんなに笑って、わたし何かおかしいこと言いましたか?」


「だって、いつも車の鍵は探してるのにハンカチはちゃんとどこにあるのか知ってるなんて面白すぎるでしょ?」


山岸さんは涙目になりながら話し続ける


「ハンカチみたいに車の鍵もどこにしまうかちゃんと決めれば、暗い中で探す事ないんじゃないの?」


山岸さんは笑いをこらえながら早口で言った。

わたしはカーッと顔が赤くなるのを感じて顔を下に向けて目を閉じた。

確かに言われてみればそうだ、どうしてハンカチはいつも同じところにしまえるのに車の鍵はしまう場所を決めないでカバンの中に放り込んでいたのだろう。

クスクスと山岸さんの笑い声が聞こえてきて、よりいっそう恥ずかしさが増す。

わたしはその場で爆発してしまいたかったがそんなことができるわけもなく仕方なく小さい声で答えた。


「言われてみればそうですね、どうして今まで気が付かなかったんでしょうね。すごく恥ずかしいです」


「ごめん、ごめん。少し笑いすぎたよ、つい可愛くて。」


「いいんですよ、可愛くはないですから。みんなしてからかってー!」


わたしは半べそをかいて山岸さんに反論した。

山岸さんは驚いたようにわたしの顔を覗き込む。


「ごめん、泣かせるつもりなんてなかったんだよ。みんなってどうゆうこと?」

小さい子に問いかけるように先輩はわたしに優しく話しかける。


わたしはハッとなり慌てた


「あっ、違うんです。そのみんなって言ったのは友達とかそういう人の事で‥

「何をそんなに動揺してるの大丈夫?もし会社のやつに何かされてるならなんでも言ってくれよ?俺が助けてやるからな」


わたしは何かを見抜かれたような気がしてドキッとした、なんとか動揺を隠そうと話題を変えた。


「それより、山岸さんはもう大丈夫ですか?そろそろ立てますか?」


「ああ、多分もう立てると思うが少し手を貸してくれるか?」


わたしは頷いて、自分の右手を山岸さんの方へ伸ばす。山岸さんも右手を伸ばし、ぎゅっと握ってからわたしの方へ先輩の手を引っ張りあげた。山岸さんはよっこらしょとおじさんみたいな掛け声と共にゆっくりと立ちあがった。わたしは改めて山岸さんの体を見る。他には怪我をしていなかったので安心して、右手を離して山岸さんの左側に立ち自分の右手を伸ばして山岸さんの左手をぎゅっと握った。驚いたのか一瞬ピクッと体を震わせた。それでも何言わずに手を握り続けた。


「どうした?もう立てたし手を持ってもらわなくても大丈夫だ」


わたしはクスッと笑って


「ダメですよ?心配ですからね、みんなには見られないように近くまで行ったら手は離しますから。無理しないでください、辛そうな顔してるのに助けないなんてできません。」


山岸さんは、少しだけ辛そうな顔をしている、つないでいない右の手で腰をさすっているのが見える。きっと腰を強くぶつけてしまったのだろう、わたしを助けるために体を張ってくれたのだ。わたしは感謝の気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。こうしている間にも時間は流れている。早く歓送迎会に行かないといけない。でも山岸さんは歩くのもとても辛そうだ。今のわたしにできる事は山岸さんの手を握って体がふらつかないように腰に手を当てて支えながら歩く事だけだ。他の人を呼びに行ければもっと早く行けるのだろうが山岸さんが嫌だと思うなら仕方ない。人間誰しも弱っているところを見られたいとは思わないからだ。しばらく歩いていると少しはよくなったのかふらつく事もなくなったのでわたしは山岸さんの腰から手を離す。

ちょうどその時、前の方から人影が近づいてくるのが見えて繋いでいた右手をゆっくりと離す。聞き覚えのある声が聞こえて、わたしは少し慌てたが、山岸さんが小さな声で


「大丈夫、落ち着いて。何もなかった事にしよう。またからかわれたりしたら困るからな、ありがとう。また後で車に集合にしよう」


わたしはうなずくと山岸さんから少し後ろに離れた。前から近づいてきた人影は会社の人だった。どうやら今回の歓送迎会の幹事を任されている高橋さんだ。安心したような声を出して、話しかけてくる。


「遅いですよー?もうみんな揃ってますよ?どうしたんですか?山岸さん」


幹事を任されているのはわたしよりは先輩だがまだ入社して5年ほどの若い高橋さんなので一緒にいた山岸さんに対しての言葉遣いなのだろう。

どうやらわたしの存在には気が付いていないようだ、わたしはこれは好都合だと思い少し物陰に隠れようとしたが、山岸さんはわたしの存在を隠そうとするどころかわたしの姿を探し出し山岸さんはわたしの方へ手を差し伸べる。わたしは山岸さんの手を軽く握ると山岸さんはわたしのことを引っ張った。引っ張られて幹事をしている高橋さんの視界に入ってしまった。わたしはとりあえず失礼のないように頭を軽く下げてあいさつをした。急に視界に現れたわたしに驚いているように見える。わたしは山岸さんの大丈夫だという言葉を信じて自分から何かとりつくろうような事は言わない事にした。しばらく嫌な沈黙が続いたが山岸さんが場を和ませるように言った。


「わざわざ迎えに来てくれたのか、悪かったな高橋君。一緒に車に乗せて来たのはよかったんだけど、道に迷っちゃって遅くなったわ」


「そうなんですね、みんな心配してましたよ?まあとにかく行きましょう。」


高橋さんは、他にも何か聞きたそうな顔をしていたが山岸さんの雰囲気に押されて何も聞けないままむずがゆそうな顔をしているが店まで一緒に行く事になった。

山岸さんと高橋さんが並んで歩くのでわたしは後ろに着いて歩いていた。わたしは山岸さんの後ろに不自然ではないギリギリの距離を保ちながら、もしフラついてもすぐに支えられるように少しだけ近付いて歩いた。高橋さんは、わたしの事など気にかける様子もなく山岸さんに話しかけている。先輩たちの話を聞きながらしばらく歩いていると、やっと歓送迎会の行われているお店に着く事ができた。わたしは先輩たちに気付かれないようにホッと胸をなでおろした。もう山岸さんは大丈夫そうに見える、わたしは先輩たちの脱いだ靴を下駄箱にしまう。ここはいつも歓送迎会をしているお店とは違った。靴を脱いで鍵のついた下駄箱に靴を入れて自分で鍵を持って行くというシステムのようだ。お店に入ったすぐの壁にたくさんの張り紙が貼ってあり説明が書かれている。先輩たちに置いて行かれないようにわたしは早足で追いかける。

お店の中には、たくさんのお客さんがガヤガヤと騒いでいる声が聞こえてくる。どうやら一番奥の掘りごたつの席の様だ。聞き慣れた声が奥の方から聞こえてくる。山岸さんと高橋さんが先に行くとみんながわあーっと声を上げている。山岸さんは誰にでも優しくて慕われているからだろう。その空気感の中、私は少し気まずい様な気がしたが特に何も言うことなくしれっと隅の方の開いている席に座る。すぐに中島さんが隣にやってくる


「もー何してたの?遅いよー武田君もなんか機嫌悪いしさー」


中島さんは私にだけ聞こえるような小さな声で文句を言ってくる。

わたしは出来るだけ平静を装いながら、とりあえず中島さんのご機嫌を損ねないように謝っておくことにした。


「ごめんって、いろいろあってさー」


「どうせ、またドジでもして遅くなったんでしょー?」


中島さんはニヤニヤしながらわたしの目を見つめてくる。わたしはカッとなったが感情的に反論するのを我慢した。中島さんは、明るく人付き合いこそ、うっとおしいほどうまくやっているように見えるが。その実、仕事はさっぱり出来ない事と、社員にもパートナーさんにも嫌われている事を知っている。なので、自分より底レベルの中島さんに言い返す必要性を感じなかったからだ。


「まあ、恥ずかしいけどそんなところかな。それで武田くんは?」


「やっぱりねーしっかりしないとダメだよー、今は同じ部署の人と話してるみたいだよ。」


そう言われてわたしは周りを見回した。武田くんは2つ隣のテーブルで男性社員さんたちと楽しそうに話しながらご飯を食べていた。ふと、武田くんが顔を上げてキョロキョロと周りを見渡した。そしてわたしと目が合うとにっこり笑って目線を元に戻した、不本意だがわたしはドキッとしてしばらく武田くんの背中を見つめ続けた。


「ねぇ‥‥ねぇ‥‥ねえってば!」


わたしは慌てて声のする方を見た、中島さんは不思議そうな顔をしている。

「あっ、ごめん。なんだった?ちょっとボーっとしてて‥‥」


「大丈夫?今日なんかいつもと違っておかしいんじゃない?」


「そうかな?いつもと同じつもりなんだけどね‥‥」


「さすがに、疲れとか溜まってきてるんじゃない?頑張り屋さんだもんね。」


「そうかもしれない、最近主任が他の店舗に出て行く事が多くて仕事増えちゃってるから。でも、もっと頑張らないとね。」


「そんなに仕事ばっかりしてないで恋愛もしなよー。心配なんだからね?」


そう言うと中島さんはわたしの顔を覗き込んできた。わたしは反射的に苦笑いをする。Nさんはしばらくわたしの顔を見続けてくるので、恥ずかしいのと気まずいのとで顔をそらした。わたしは冗談混じりに


「やめてよー穴が空くほど見ないで。」


「穴は開かないでしょーそうやって消極的だから恋の一つも出来ないんじゃないの?」


中島さんは、いつも上から目線で話をしてくる。恋愛の事に関してはわたしよりも上の立場にいるつもりのようだ。初対面でのイメージ通り、中島さんはわたしに対しては厳しいのだ。外見は確かにわたしよりも男性に好かれそうだ。中島さんの外見は、茶色のロングヘアーに色白の肌、少し大きめの胸にスラリと綺麗な足。そう今時の若者の代表のような見た目だ。わたしとは何もかもが正反対なので本当に付き合い方が難しいと感じてしまう。わたしがそうこう考えている間にも中島さんはすごい勢いで料理を口に運んでいる。わたしはそれを横目に見ながらメニューを開いた。いつもの歓送迎会の行われるお店は地元では大手の焼肉チェーンだ。今日はいつもと違っておしゃれな雰囲気のお店だ。お洒落なお店だが、主任さんクラスの先輩方はお酒を飲んでいるようでわやわやと騒いでいる。いい年なのだからもう少し自分でお酒の量を調節出来ないのものかと思った。歓送迎会の主役はその先輩方ではないのに、少しはしゃぎすぎてるような気がしたからだ。その時、隣でパクパク料理を食べていた中島さんが自分の部署の先輩に呼ばれて席を離れた。同じテーブルの向かい側には仲のよいパートナーさん達が世間話しをしているので、一人になったが気にせずにメニューを見た。まずはソフトドリンク、アルコール、サラダにパスタ、定番であろう唐揚げや枝豆、冷奴などがあった。居酒屋風な外見とは違い店内は少しだけお洒落でメニューもコテコテの居酒屋のメニューとは違い、女性でも選びやすく注文しやすくなっている。今までは焼肉屋さんばかりだったが、今回から幹事が変わったことでお店も変わったのだろう。女性に対しての配慮を感じられるのは、社内でも女性に人気のある高橋さんが幹事になったからだろう。高橋さんの事は詳しくは知らないのだが、女ったらしの類ではなく、どうやら相当なお人好しの優しい人のようだ。だから、自然とそうゆう優しさに飢えた女子社員達が群がっているらしい。この情報は中島さんからのものなのでとても有力な情報だと思う。仕事の歓送迎会だが、優しさに飢えている他の部署の女子社員達が高橋さんを取り囲んでいるのが遠目に見える。大変そうだなーと思いながらもきっと高橋さんも悪気はしてないのだろう。そんな事をメニューを見ながらぼーっと考えていると、突然後ろから肩を誰かに勢い良く叩かれて、慌てて後ろを振り向いた。そこにいたのは山岸さんだった。

「大丈夫?さっきからメニューばかり見て何も口にしていないようだけど。」


優しい声のトーンで話しかけながら山岸さんは先ほどまで中島さんが座っていたわたしの隣に座った。


「えっ、あっ、その、大丈夫です。メニュー見ながらいろいろ考え込んでしまっていて。言われてみればまだ何も口にしてませんでした。わたしの事気にかけてくれていたんですか?」


山岸さんは少し頬を赤らめながらわたしの耳元で答えてくれた。


「あんな事があったばかりだから君も動揺してるんじゃないかって心配でちょこちょこ見てたんだよ。」


「すいません、わたしも山岸さんの事心配してたんです。でも、わたしみたいなのが山岸さんの近くにいるのは変かなって思って。」


わたしも他の人には聞こえないような声で山岸さんに耳打ちをした。

山岸さんは少しくすぐったそうに耳を掻いている。

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