第11話 サボっているとメールが来る。

 「サッカー前のお忙しいところ恐縮ですが…」というメールが届いた。


 何を言っているのか分からなかった。俺は夜中にサッカーなどしないし、ウイニングイレブンも、俺の好みのゲームではない。メールの主は年配の女性なので、パソコンの扱いもままならず、何かの打ち間違いだろうと思う。


 打ち間違いだとすれば何だろうか?


「サッカー」に似た言葉? もしや、「三日」? うーん。「三日前のお忙しいところ」というのも意味不明だ。「おととい来やがれ」のような意味だろうか?


 ひょっとしたら「作家」か?「作家前」? あなた物書きとしてはまだまだだね。みたいな感じ?失礼しちゃうわね。プンプン。


 ああ、そうか。年配の女性はカタカナ表記に弱い。うちの母親が俺の縞のシャツを「スプライト」と言ったり、舞台のフィナーレを「フェラーリ」と言ったりするのと同じで、なにかしらカタカナで似た音の言葉に違いない。とすると…サッカー…サッカー…ラッカー…塗装?…チャッカー…着火?…サッチー…沙知代?


 だめだ、なにも思いつかない。


 別人か?別人に送っているのか?いや、違う。内容は俺の仕事に関する指示で、まさしく俺に宛てたものだ。


 なんとなく、気持ち悪いまま、俺は何も忙しくないので丁寧な返事をして寝た。



 翌朝、ワールドカップの初戦で日本が勝ったという話を誰かがしていた。


 ああ、ワールドカップね。ふ、ふーん。


 一秒も見てません。ってかワールドカップをやってることすら知りませんでした。さすがに今度日本でやるオリンピックはその時が来ればやってることくらいは気づくだろうが、それでもおそらくテレビを見ない俺は何かしらの競技を見ることもないだろうし、誰ともその話をすることはないだろう。サッカーの試合をテレビで見るくらいなら、ほつれた毛糸のボールで遊んでいる猫たちを見ているほうが全然ましなのである。中年男性の誰もがオリンピックやワールドカップに興味があると思うのは大きな間違いだと思う。職場や学校でオリンピックやワールドカップや世界陸上の話を誰かがし始めると、急にあまり喋らなくなって、ニコニコ笑って話を聞いている奴がいるだろう?


 それ俺。


 早く東京オリンピックが始まらないかなと思う。そしてとっとと終わってくれないかと心から願っている。




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