第7話 限りなく透明に近いブルース

 この度はこの話を読み始めてくださってどうもありがとうございます。できればお茶ぐらい出したいのですがそれも叶わず、ホント申し訳ありません。いつも何を書くかも決めずに書き始めるもんだから、何の話になるかわかりませんが、ここで会ったのも何かの縁でしょうからどうか最後までお付き合いください。トイレ休憩も可ですのでゆったりお読みください。


 最近、ペットボトル飲料が軒並み透明になっている。ついにコカ・コーラも透明になった。仕事場で色付きの飲料を飲むのに人目が気になる人も、水を飲むふりをしてコーラが飲める。おそらくゲップも透明なので安心だろう。はじめて透明のミルクティーを飲んだ時はさすがに違和感を感じたが、今ではコンビニの冷蔵庫にいろんな種類の透明なペットボトル飲料がずらりと並んでいる。

 透明飲料というのは免罪符のようなもので、透明であればどんな時に飲んでいても許されるという間違った感覚を人々に与える。例えば中学生なら部活中とか、会社員なら会議中とか、医者なら手術中とかでもコーラを飲むやつが増えてくるだろう。そのうち透明ならいいや、ってんでペットボトルに日本酒を入れて飲み出す奴がいるかもしれない。


 大腸の手術中に患者から、


「あれ、先生酔ってます?飲んでんのそれお酒じゃないですか?」


 って指摘されて、


「らいじょぶ、らいじょぶ。これはね、お水でーす。」


 ってペットボトル振り回して、開いたお腹にこぼしたりなんかして。


「あ、こぼひちゃった。ま、いっか。アルコールだし。ね。うふふ。」


 とか言って患者怒らせちゃって。仕方ないから持ってる酒を患者に無理やり飲ませて眠らせたりして。


 手術が終わって手術室から出てきた医者に家族が駆け寄って


「先生、どうでした?」


 って問われて、


「手術は成功でしたが、助かりませんでした。ざーんねん。」


「え?何があったんですか?」


「急性アルコール中毒で。」


 というようなことが日本中で起こることになるだろう。


 そんなことよりももっと深刻なことが予想される。

 今この時点で次のことを予想する人間は日本の学会にいないので、敢えて俺が警鐘を鳴らしておこう。

 甘い飲み物が透明だということは、ケーキが水色だったりするのと同じなのだ。俺たちはご先祖様が繰り返した失敗を遺伝子レベルで記憶しているために、ある色に対して食欲がわかないという性質を持っている。つまり、自然に存在するものに対して、それを食べてよいものかどうか判断するために僕らが生まれ持った力を衰えさせることになるだろう。

 これによって微妙な色やテクスチャの判断が難しくなり、道端に落ちている乾燥した犬のふんを見つけて、


「あ、かりんとう。もぐもぐ。」


 というような奴が増えてくることは火を見るよりも明らかなのである。



 ああ、早くだれか透明なビイルを作って下さい。



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