第4話 役所の電話窓口で語られていること

 おととい仕事の関係で役所から電話がかかってきた。年のころ20代後半の女性の声である。


「○○課のサイトウ(仮名)と申します。××の件で伺いたいのですが…」


 ふうん。なんだっけ?ちょっと手元に資料がないなあ。あとで電話を折り返しかけますよ。


「あ、そうですか、実はこちらにサイトウが2名おりまして、私○○課のサイトウと申します。」


 了解、了解。ラジャー、ラジャー。ブラジャー。般若プラジュニャー。ちなみに般若はサンスクリッド語で「智慧」の意味なのだ。ブラジャーとプラジュニャーが似ているのは、なにか理由があるのではないかと思うが、仏の智慧は深遠なので俺なんかの考えは到底及ばぬはずだ。


 その後、電話をかけると、男性の声。年のころには興味がないので省略。


「あ、お世話になっております。ただ今、サイトウは他の電話に出ておりまして…」


 あ、そう?俺も忙しいからあとでかけますよ。


「大変申し訳ありません。ガチャン。」


 あれ?今電話切るとき口でガチャンって言った?まあ、気のせいだろうと思って一仕事終えてからまた電話をした。こんどは年のころ20代前半、気の弱そうな女性の声。


「大変、申し訳ありません。サイトウはただ今他の電話を対応しております。折り返し電話をさせます。」


 ああ、俺もあと15分くらいはここにいるからもしそれまでにサイトウさんの手が空いたら電話してください。


「承知しました。プツン。」


 あれ?今電話切るとき口でプツンて言った?まあ、気のせいだろうと思って待っていたがこの日はもう電話はかかってこなかった。



 昨日も改めて電話をしたがサイトウさんは2回とも他の電話に出ていた。



 そして、今朝ついにその時が訪れた。むちゃ早い時間に電話がかかってきた。うちの受付から俺に電話が回ってきた。お、サイトウちゃんじゃないか。待ってたよ。


「何度もお電話いただいたそうで。」


 したした~。でもね、ちょっと今俺のデスクじゃないところで電話出ちゃったの。俺の机に戻ったらすぐかけなおすから待っててちょ。プツン。やべ、伝染っちゃった。


 2分後、俺は電話をかけた。


「大変申し訳ありません。サイトウはただ今他の電話を対応しております。プッ。」


 電話に出た男性職員が半笑いで答えた。今日のチャンスタイムは終了。ってか、どんだけ電話してんだ?サイトウちゃんよ。



 まてよ?


 ひょっとして、こいつらの電話の内容って3分の2くらいこれなんじゃね―の?


 今サイトウちゃんが話してる内容って、別の誰かが電話に出ていて対応できないってことなんじゃねーのか?俺と今喋ってるこの男性職員も、俺と今喋ってるから他の電話に出られないんじゃねーのか?多くの役所が電話対応に苦慮しているって、そういうことじゃねーだろう?誰か最初に電話に出る奴決めとけよ!


 その後まだサイトウちゃんと電話はつながっていない。

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