第81話 動乱4
王都内では衛兵達と、レ・ブン商会の傭兵集団との戦いが続いている。
一進一退の膠着状態になっていった。
だが、王都の外に配置されていた新たな傭兵集団が到着し、傭兵集団が押し気味な展開になっていった。
「ようし!魔獣どもを突入させろ!」
城門が開け放たれたことで、魔獣を突入させ、勝負を一気に決めようと傭兵集団の頭目が指示を出す。
しかし、
「どうした?なぜ魔獣共は来ない?」
「それが・・・。」
「ギガストラッシュ!」
勇者ロランの銘剣。
〈グラム〉が魔獣の群れを切り裂く。
「人間相手では戦うわけにいかぬが、魔獣相手なら容赦はせん!」
彼の前には津波のように魔獣の群れが広がっている。
それを父から受け継いだ、千年生きたと言われていたドラゴンの鱗を加工して作りあげた兜のバイザー越しに見つめる。
無数の煌々と光る血走った目が、彼を居抜き、粘液でぬめる牙が、ロランを引き裂こうと待ち構える。
「ふん!カリュクスの原木を加工することに比べれば、大した仕事ではないわ!」
表面に刻んだスミの通りに、カリュクスの原木を加工する際、田尾やドワーフに何度もダメ出しをされたことをロランは思い出し、微笑をうかべる。
「さあて!さっさと片付けて、ケンチクの仕事を始めるとするか!」
そう叫ぶと、勇者ロランは魔獣の群れに、再び身を投じた。
◇◇◇
「仕方ありませんね。あまりやりたくはなかったんですが、しょうがないですね。」
そう呟くと、ミモザ・アースは傍らの一人の魔法士に指示を出した。
朱色のローブをまとった魔法士はうなずくと、無防備に軍勢の先頭に立つ。
「?」
武装していない魔法士が、いきなり戦線の真ん中に現れたことで、衛兵の一同は戸惑い、暫し、戦いがやむ。
それが合図のように、魔法士は顔を伏せ、何事か呟く。
「まずい!呪文詠唱だ!全員そこから離れろ!」
衛兵隊長が叫ぶが、すでに遅く、床がいきなり崩れ、先頭にいた衛兵達は崩壊した床とともに姿を消した。
魔法士が再び呪文詠唱を行うと、さらに大きな面積の床が崩れ、王宮の門や梁といった構造材も倒壊していく。
「やむをえん。王宮の外へ待避!」
衛兵が待避していったことで、レ・ブン商会の軍勢は次々と王宮内に侵入していった。
◇◇◇
「城を離れろと言うのか!」
「お父様。いまは耐えてください。それに、リョウジカンは、構造に魔法力を使っていませんから安全です・・・。」
「王が城を離れるなど・・・。」
城を離れる提案をしたアウレータを叱責しようとした王だったが、肩を震わせながら、言葉を絞り出している王女に王は気づく。
自分が作ってきた王宮が、壊されていくのを見るのが、なにより辛いのは彼女だ。
「そうだったな。一番辛いのはお前だな。悪かった・・・。」
「レイオット王、お早く!」
田尾の案内で、王族一同は裏手の門より王宮を逃れ、領事館に向かう。
「・・・見てなさい!絶対にこのままじゃ済まさないんだから!」
アウレータは涙をぬぐい、倒壊しつつある王宮を見つめる。
「アタシの仕事をぶっ壊した報いは絶対に受けてもらうんだから!」
ミモザ・アースが呪文詠唱を行う都度、次々に崩壊していく王宮を、涙で霞む視界にとらえながら、アウレータも王のあとを追う。
◇◇◇
「俺たちが作った王宮が!」
マイナミ自警団と親しくなったことをきっかけに、衛兵隊のなかには、王宮の建設に関わっていたものも多く、自分たちの仕事の成果が崩れていくのに、戸惑いを隠せない。
「さて!衛兵隊のみなさん!王は王宮を離れたようです!あなた達がこれ以上、抵抗を続けるのは無意味です!」
衛兵達の戸惑いを見てとった、ミモザ・アースは、指揮車の上から、抵抗を続ける衛兵達に語り始める。
「これ以上、王宮が崩壊していくのを見たくないでしょう!」
「ああ!あそこは、王女と一緒に俺が作った渡り廊下だ・・・。」
叫ぶ衛兵の一人の目の前で、華麗な意匠の渡り廊下が倒壊していく。
衛兵の一人が怒りと悲しみを込めた慟哭を洩らす。
「・・・わかった。投降する。」
安西を師とあおぐ、衛兵隊の隊長も、自分の仕事の成果が壊されていく辛さはよくわかっている。
衛兵隊は剣の魔法力を無効にする呪文詠唱を行い、〈ナマクラ〉となったそれを足元に放り投げる。
武装解除した無抵抗な彼らに、意気揚々と傭兵達が襲いかかり、魔法力で施錠する手錠と足菅をかけていく。
◇◇◇
「あそこまでやることはないでしょう?!」
ミモザ・アースに屈したとはいえ、自分の作った仕事の成果が次々に破壊されていくことは、怜奈にとっても耐え難い状況だ。
「やむを得ないでしょう。さっさと王宮を明け渡し、こちらに与すればいいものを、いつまでも出てこない、彼らが悪いのですよ。」
「そうは言っても!」
ミモザ・アースの言に怜奈は抗議する。
「それに、あのように、王宮が崩れているのは、あなたの解体詠唱のお陰なのですよ。後ろめたいことはありません。堂々としていればいいんです。」
ミモザ・アースはそう、言いながら、腰に手を廻してくるが、彼女に感じる、いつものような気持ちの高ぶりを怜奈は感じることができなくなっていた。
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