第80話 動乱3
夕刻の、式典が終わるタイミングでロランの言ったとおり、王都の外からの襲撃が始まった。
王都の周辺にたいまつと魔法灯のあかりがきらめき、大群が押し寄せてくるのが見えた。
すでに王都の門は開け放たれ、軍勢がなだれ込んでくるのも時間の問題のようだった。
「王宮へ逃げるんだ!早くしろ!」
マイナミ自警団の誘導で、街の人々は王宮へ逃げ込んでいく。
「おい!お前らも早く王宮へ。」
マイナミ自警団の若者が王都の衛兵に促す。
「残念だがね。アンタたちと違って、俺たちは軍人なんだ。民衆に剣を振りかざすわけにはいかないが、こういうときには剣を抜くのさ。」
マイナミ自警団に蔑まれ、屈辱にまみれていたときでさえ、決して剣を抜かなかった衛兵達は、次々に輝く剣を抜き放ち、呪文詠唱によって協力な武器に変換していく。
「お前ら・・・。」
「素手じゃ、お前たちと互角だが、剣を抜けばお前たちなんか相手じゃない。」
「そうだ、剣を使えないお前たちなんか役立たずだ。さっさと王宮に行ってくれ。」
衛兵たちの頼もしい言葉に、長谷部はマイナミ自警団の面々に指示を出す。
「ここは彼らに任せよう。俺たちは、自分のできることをするんだ。」
長谷部の言葉にマイナミ自警団の一同は「応!」と答える。
長谷部は衛兵の隊長に声をかける。
「生き残って下さいよ。隊長。また、大会で、まみえなきゃいけないんですからね。」
「ああ、わかってるさ。
二人はがっちり握手をかわす。
「おい!レグリン!お前も来い・・・?!」
レグリンの姿を見て、長谷部は驚く。
艶消しの銀色の甲冑と、厚手の皮のプロテクターを身に着けたレグリンは、自警団から、衛兵にジョブチェンジしていた。
「
レグリンは、鎧の顎ひもをしめつつ、立ち上がる。
「おれは衛兵ですから、剣をふるって、敵と戦う技量があります。」
そういうと、剣を抜き、呪文詠唱で剣に命を吹き込む。
もう、町のチンピラに袋叩きにされていた、気弱な青年の姿はなく、1人前の逞しい衛兵がそこにいた。
「・・・レグリン。」
「イスミ専務も言ってましたよね。それぞれが、それぞれでできることをきちんとやれば、現場は上手くいくって。おれは剣が使えて、町を荒らす敵を撃退することができる。それをやってきますよ。」
「・・・わかった。死ぬなよ、レグリン。」
「わかってます。まだ、バックドロップ教わってませんからね。帰ってきたら、今度こそ教えてくださいよ。」
レグリンはそう言い残し、城門へ向った。
◇◇◇
「おい!なにをしている!そっちではない!こっちだ!」
傭兵たちは門の脇に立つ、津路木を無視して、一直線に王宮に向かう。
「領事館はこっちだと言っているだろう!」
軍勢の中に、ミモザ・アースの姿を見かけ、津路木は叫ぶ。
「ミモザさん!領事館はこっちだ!はやく、民主主義の敵、六代を捕縛してくれ!」
ミモザアースはあきれてため息をつき、
「あなたはホントにバカですね。なんで、私たちが、あなたたちの国の政争に関わらなければいけないんですか?」
「ええ?でも、あなたは、私たちの思想に感激したと言っていたではありませんか?協力してくれるとおっしゃったではないですか?」
ミモザ・アースの言葉に、津路木は驚き、彼女を問いただす。
「報酬をもらえるわけでもないし、なんのメリットもない。それなのに、なんで、私達があなたの望み通りに動かなければいけないんですか?」
「・・・だから、六代政権を倒す・・・。」
「もっと大きな陰謀を持っていて、私たちをハメる計画かと思っていましたが、城門がすんなり開いてたことと、あなたのそのお顔を見て、確信しました。」
「あなたはただの大ばかですね。」
ミモザ・アースは改めて、津路木に言う。
「城門は開いていました。私たちの要求は通りました。
さて、これで、私達があなたの要求を聞かなかった場合、あなたたちは私にどんな報復をすると言うんですか?」
〈誠意を持って、対応すれば、相手は無条件に自分との約束を守ってくれる。〉
そんなことを考え、さらに実行に移すことができるのは、我々の世界でも、日本の
彼らは最初の失敗者である、高橋の行動をまったくフィードバックしていなかった。
「ひとつ、教えてあげます。
あなたたちの国はホントいい国です。
そのバカさ加減も許してもらえるし、そんな行動をしても、なんの懲罰をうけることもない。すばらしい度量と奥行きのある国ですよ。」
馬上から降りることなく、津路木を見下して、ミモザ・アースは続ける。
「覚えておいた方がいいですよ。
そんな国はこの世界。そうですね、他の世界にもありはしません。
せいぜい、自分の国から出ないようにして、戯言をほざいて、好き勝手に暴れて、それを許される安穏な一生を終えなさい。
とりあえず、城門を開けてくれたことには、感謝しておきます。」
一通り、津路木に教訓を与えると、呆然と立ち尽くす彼に、ミモザ・アースは剣をつきつける。
「本来ならば、報酬をあげる道理なんか、ないんですがね。ひとつだけあげましょう。」
剣を突きつけられ、震える津路木に、彼女は言い放つ。
「殺さないであげることが、あなたへの報酬です。」
「さっさと失せな!」
ミモザアースが、剣を振りかざすと、領事館の方へ、津路木は逃げて行った。
◇◇◇
他国へ攻め込んだ軍勢がやることは、町にダメージを与えつつ、王配下の軍をつぶし、王宮を破壊することだ。
「よし!この一帯の解体から始めるぞ!さっさとゲイアサプライヤをはずせ!」
この世界の建物には、ゲイアサプライヤが仕込まれているのが普通だ。
供給の方法や扱いには、国の差異があるが、基本的には変わらない。
だから、その家のゲイアサプライヤさえ、外してしまえば、その建物は倒壊する・・・だが。
「おかしら!おかしいです!このへんの建物には、ゲイアサプライヤが見当たりません。」
先発していた、家屋破壊担当の魔法士の一人が戻ってきて、傭兵の頭目に報告する。
「小さいのはついてますが、ひとつ外したぐらいじゃ、ちょっと壁が崩れるぐらいで、解体できません!」
逆に、ゲイアサプライヤが外せなければ、魔法力で保持された家屋は、そう簡単に解体することはできない。
ロランの忠告を聞き、王宮へ続く家屋に、マイナミ商会が行った、小規模ゲイアサプライヤへの入れ替えが、町の防衛に役立っていた。
「ええい!では、火を放て!燃やしてしまえばいいではないか!?」
「それが、外回りには、火よけの術式が書いてある家が多くて、それに作用しているゲイアサプライヤを外さないと、火が付きません・・・。」
ゲイアサプライヤの組みえが間に合わなかった家屋には〈雨避け〉魔法をぺぺやメテオスが〈火よけ〉魔法に書き換える措置を行っているため、こちらも効果がない。
「では、一気に王宮を攻め落とすぞ!」
町に危害を加えることをあきらめた、傭兵達が、王宮への道を突き進んでいく。
「そうは行くか!」
「でええい!」
式典への出席で、城門周辺と王宮回りが手薄だった警備体制だったが、傭兵達が町の破壊に手間取っているタイムラグを利用して、衛兵たちが戻ってきた。
正面から双方の戦力がぶつかり、一気に乱戦になっていった。
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