第79話 動乱2
完成した領事館前の広場には、マイナミ商会の一同が揃い、長谷部を先頭にした正装したマイナミ自警団の一同が六代の後方に控える。
その堂々とした姿に、町の娘たちの声援が上がる。
さらに、トランテスタ王国の正装に身を固めたいすみと安西が現れると、老いも若きも女性の黄色い歓声があがる。
それに手を振り、〈特別に親しい〉女性数人を観衆のなかに見つけ、安西は〈特別な〉視線を送る。
視線を受けた婦人は卒倒しかねない表情だ。
「舞波さんはもちろんですが、安西先生のこちらの世界での人気はすごいですね。まるでアイドルのコンサートだ。」
女性の歓声に手を振る安西にあきれたように、桜井が傍らに立つ田尾に言う。
「そうなんですよ。この世界では年食ってる方がモテるみたいですしね
安西先生はいすみと違って、愛想もいいですから。」
と言う田尾はスーツ姿だ。
いすみたちも本来はスーツで出席予定だったが〈こちらの世界の正装をしたいすみの姿が見たい〉というアウレータの強い要望で、この姿となった。〈じゃあ、私も〉と安西もこの姿だ。
◇◇◇
衛兵の長い列に続き、レイオット王を始めとした、王都に住まう王族一同が到着する。
王の衛兵隊も、マイナミ自警団との切磋琢磨の結果〈お育ちのよい良家のお坊っちゃま〉集団を脱し、逞しい衛兵隊に成長していた。
その堂々とした振る舞い、足運びは、マイナミ自警団に劣っていない。
レイオット王が王族専用車から降り、迎える六代とがっちりと握手を交わす。
「お初にお目にかかります。レイオット王。日本国総理大臣、六代かなめです。」
「レイオット ・フォーク・トランテスタ である。このリョウジカンが両国の友情と発展の橋頭堡になることを強く望む。 」
・・・
「あれ?アウレータ王女がいないよ?」
居並ぶ王宮の要人、王族の列に、ニホンコクとの関わりが深く、領事館の建設についても尽力していた彼女の姿がないのをメテオスが指摘する。
「あら?ほんとだ。どこにいるんだろう?」
マイナミ商会一同の列のなかで、あかりも目を凝らす。
・・・
「やっぱり!お父様達が危ない!」
衛兵たちと共に、見張り櫓で王都の塀の外を見つめていたアウレータは、もう、肉眼で見えるほどに近づいてきた砂ぼこりを見て、叫んでいた。
◇◇◇
領事館の落成式は滞りなく終わり、レイオット王は領事館を立ち去ろうとしていた。
「マイナミイスミとマイナミ商会には、本当に世話になった。これからもよろしく頼む。」
「ありがとうございます。こちらも新たな技術を学ぶことも出来、大変有意義な時間だったと、舞波いすみから聞いております。」
「我が娘、アウレータは貴国に訪問したい旨、申しているのでな。その時はよろしく頼む。」
「はい、レイオット王。おまかせください。王女の我が国へのご来訪は双方にとって、とてもよい結果をもたらすでしょう。」
2人は再び握手を交わす・・・。
「お父様!イスミ!」
式典が滞りなく、終了しようとしたところへ、蒼いドレスで正装したアウレータが数人の衛兵に伴われ、飛びこんできた。
「何事か?アウレータ。まだ、式典は終わっていないぞ。」
「それどころじゃないのよ!軍勢よ!傭兵の集団が王都の門を越えて、王宮に向かってるわ!そのあとには魔獣の群れもいっぱい!」
「イスミよ。卿の言った通りであったな。」
王は六代の後方に控える、いすみへ語りかける。
「はい。ロランさんのおっしゃった通りですね。」
「ええ?!イスミもお父様も軍勢が来るのを知ってたの?」
相当急いだのか、ドレスはあちこち破れ、顔には土ホコリがこびりついている。
いすみは身を屈め、それを拭いてやりながら、
「はい。勇者ロランさんに、傭兵達の動きがおかしいことを聞いていました。」
いすみに顔を拭かれ、一瞬、ボーっとしてしまったアウレータだったが、あわてて正気を取り戻し、
「ええ!?どこの軍勢なのよ?目的はなに?」
「どこの軍勢かはわからないんですが、目的はトランテスタ王の失脚と王族の追放。そしてバックにいるのは・・・。」
「レ・ブン商会ね・・・。」
いすみはうなずき、
「ですが、このタイミングで来るのは早すぎます。例の準備もまだ完璧ではありませんし・・・。」
いすみのところへ集まってきたマイナミ商会一同に、いすみは視線を巡らす。
「とにかく避難が先です。長谷部さん、レグリンさん。衛兵のみなさんと協力して、町の皆さんを王宮へ避難させてください。アウレータ王女も早く。」
いすみの指示にうなずいた長谷部とレグリンは式典会場を離れる。
「日本国の関係者は領事館へ避難してください。華江さん。ここを頼みます。」
人前でいすみに初めて名前を呼ばれた華江は、驚いていすみの顔を見る。
「せ、専務?いや、いすみさん?」
「いいですか。この局面でみなさんを的確に避難させることができ、安全を確保することを仕切れるのはあなたしかいません。」
「で、でも、あたしなんか・・・。」
「もう一度言います。この局面を乗り切るために。この現場を仕切ることができるのはあなたしかいません!自信を持ってください!」
いすみは改めて、彼女を見据えて続ける。
「あなたが今までやってきたことに間違いはないんです!」
いつも沈着冷静ないすみが、普段は見せることのない、熱い表情に華江はうろたえつつも腹を決める。
「・・・わかりました。いすみさん。やってみます。」
「ありがとう。頼みます。」
「・・・・・!?」
「ああああアアアア!?」
「えー!?」
「おいおい・・・。」
驚くアウレータ。
唖然とするあかり。
苦笑いする田尾。
「!!?」
いすみは華江から唇を離し、長谷部と王宮へ向かっていった。
「この局面でああいうことするかねえ?あの男は?」
「イスミが!イスミがキスしたあ!ハナエにキスしたああ!!!ずるいいい!」
突然のいすみの行動に、メテオスがあきれ、アウレータが騒ぐ。
我にかえった華江は姿勢を正し、一同へ振りかえり、指示を出す。
「・・・さあ!モタモタしていられません。あかりさんたちも総理も領事館へ。シェーデルさん、ドワーフのみなさんと協力して、そこのアマルガムありったけ持って、領事館の中へ。小林くん、田尾さん。窓とドアの前にアマルガム積んで!メテオスさん、あかりさん。積み上げたアマルガムに呪文詠唱を。魔法力のバリケードを築くんです!」
正気を取り戻した華江が、次々に指示を飛ばす。
「やっぱり、華ちゃんはこうでなきゃね。」
あかりとメテオスが、顔を見合わせて、うなずく。
シェーデルも嬉しそうに華江の指示に従う。
「ハナエがあ!イスミにキスされたああ!ずるいい!あたしもしてほしいいい!」
「ハイハイ。王女様。王宮へ行きますよ。」
一人、抗議の声をあげるアウレータも、衛兵数人に引きずられ、王と共に王宮へ向かっていった。
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