第72話 孤軍奮闘

「で、君はいったいどうしたいと言うのだね?」


麻布の某国大使館に、「ことの顛末の報告」にやってきた津路木は、某国大使に責められていた。


「ええ、ですから、異世界に行くという人材がもう、我々サイドにはいないので、この件からは手を引こうかと。」


みん考党議員と、同行メディアの一団が、異世界で行った行為によって、しごくまっとうに、という情報は、他の野党議員にも伝わっており、〈そこまでのリスクを推してまで〉異世界に行こうという野党議員はいなかった。


メディアも同様で、〈日本〉という地域でしか活動したことのない彼らに、にリスクをおかしてまで取材に行こうと言う者はいなかった。


日頃、六代政権批判を繰り返している、野党議員らとを持っている、自称戦場帰りのジャーナリスト達にも依頼をしてはみるが、彼らも「行かないとは言わないが、行くのであれば、身の安全の保証か、自分専用の護衛をつけてほしい。」等、言うばかりで、あやふやな態度をとり続けている。

結果、異世界からの報道は、六代政権から発信される内容を、そのまま報道するに至っているので、世論は某国の望む方向には進んでいない。


「君たちはなんのために議員になったのかね?誰によって議員でいられるのかね?そんなことを言える立場なのかね?」


就任前は、特殊機関のエージェントだったという経歴の某国大使の恫喝に、津路木は、冷や汗が止まらない。


◇◇◇


新たなプランがあるわけではなく、津路木は異世界に再びやってきた。

具体的な行動指針があるわけではないが、「やる気」を見せないと、某国大使はなにをしてくるかわからない。

さらに、ここであれば、某国の手は届かない。

皮肉にも、この異世界が彼にとっての安全地帯になってしまっている。


「どうしたものか。」


途方にくれ、それでも、行く場所はマイナミ商会社屋しかないので、足を向ける。

波川をはじめとする、自分達の無礼千万な立ち振舞いがあっても、異世界の町で買い物や食堂に入って食事をすることのできない彼らに、マイナミ商会は、食事を用意し、宿泊先を手配し、を渡し、彼らの「活動」が行えるように支援してくれていた。


地元に強い地盤を持つ、3代目議員として、常に誰かに世話をさせることが当たり前な人生を送ってきた、波川のようなメンタルを持つものは、そんな状況でも気にせず、食事が不味い。あれがない、これがない。と気ままに振る舞っていたが、親が議員でもなく、普通の人生を送ってきた津路木には、そんな態度をとることが出来ない。


なにもしていないのに、世話をしてもらう、ごく潰し生活に引け目を感じている。


また、そんなマイナミ商会や、六代政権に、検討違いの怒りもわいてくる。

やることもないので、所在なげに、町をうろつく日々を送るしかなかった。


そんな彼に、声をかけてきた者がいた。


「お初にお目にかかります。私はレ・ブン商会という商会のミモザ・ アースと申します」


◇◇◇


「それは本当ですか?」


「はい、私どもは、マイナミ商会がこの王都にやってきてから大変な痛手を負っております。

あなたたちが、この王都にいらしてからの動向を拝見させていただいておりましたし、今、お話しを伺う限りでは、あなた達も私たちと利害関係は一致しているようですね。」


津路木に声をかけてきた、ミモザ・アースと名乗った人物の言葉に津路木はうなずく。


「私たち、レ・ブン商会は、ゲイアサプライヤを王都でもっとも多く、供給する商会でした。それによって、当商会はこの王都で最も大きな商会でした。」

「ですが、マイナミ商会が設立され、我々の供給するゲイアサプライヤなしでも、建築作業が可能になったことで、今の私どもの商会と王とは、を失いつつあり、商会自体も存続の危機にあります。そして、王都には無秩序に建物が建てられ、この国の建設行政も、危機的な状況になっています。

なんとしてでも、今の王と、マイナミ商会の関係を立ち切り、私どもが支援していた、健全な建築行政を取り戻さないといけません。」


ミモザ・アースはさらに続ける。


「あなたたちも、マイナミ商会を支援する六代政権とは対立関係にあるようですね。ということは、敵は共通であるということです。」


「確かに・・・!ですが・・・。」


津路木は自信なさげにこたえる。


「私には、王都やマイナミ商会を壊滅に追い込むような力もありませんし、ご存知かも知れませんが、私の仲間たちも、王に捕縛され、もう、こちらの世界に来ることはできません・・・。」


津路木は、自らの立場の惨めさを噛み締めるように答える。


「それは大丈夫です。実は、あなた達の、あちらの世界での支援者と、私ども。レ・ブン商会は、マイナミ商会リョウジカンの建設作業員の一人を通じて、すでにコンタクトをとっています。」


ミモザ・アースの言葉に、驚愕しつつも、津路木は、狂喜する。


「そ、それは本当ですか?!」


「本当です。さらに私どもは、現在の王を打倒し、新たな政治体制を設立することも目的としています。」


「お、王政に変わる新たな体制というと、民主主義国家のことですね?!」


「 ? まあ、そのミンシュシュギ国家というのは、どういったものか、私にはわかりかねますが、新たな政治体制がなったところで、あなたには、政治的に重要なポジションについていただき、トランテスタ王国と日本の代表窓口としての地位を占めていただくことも可能でしょう。」


ミモザ・アースの言葉に、津路木は喜びを抑えられない。


「そうすれば、こちらの世界から、六代政権を揺さぶることもできるし、某国への面目も立つ。さらに、その地位を使って、我党が政権奪取するのも、夢ではないな!」


ミモザ・アースの説明に、津路木は、様々な思案を巡らす。


「ついては、さっそく、あなたお願いしたいことがあります・・・。」

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