第71話 言い訳

ことの顛末を聞いたいすみはアウレータを経由して、王に謁見を求めた。


「本来であれば、お前もやつらと同じなのだから、謁見したことは極秘にな。」


アウレータの工房で、いすみと桜井は王と謁見した。


「このたびは、大変申し訳ございません。」


桜井は王に頭を下げ、謝罪する。


王は手をあげ、桜井を制し、


「まあ、会ってみてわかったが、卿の国も一枚岩ではないようだな。それに、ミンシュシュギとやらは、王である六代よりも力を持っていて、国民の支持をうけているのか?」


だから、あれだけの無礼な態度に出られるのであろう。という王に、概ねその通り。と桜井は伝える。


「今回は彼らに会って頂きましたが、私どもの国の<窓口>はあくまでも、六代政権です。こんな事態の後に、こんなことは言えないのですが、そうご理解いただけると助かります。」


桜井は王に伝える。


「最初にイスミ達に会っていなければ、戦争モノだったがな。まあ、理解した。ただ、あの者たちを、そのまま釈放するわけにはいかん。本来なら、死罪相当の罪であるしな。」


「・・・。」


「とりあえず、あの者たちは、死罪にしたことにするから、それでよかろう。人目に付かないように、卿らの国へ返すがよい。そして、もう、二度とこの国に来ないように計らえ。」


「ありがとうございます。」


いすみが頭を下げる。


「ただし、これが最後だぞ。次にこのようなことがあった場合は、いくら卿らとはいえ、容赦はせん。」


王の言葉を聞いて、今まで、自分たちが優位に行ってきた交渉や工作が、すべて水泡に帰したことを、いすみは感じた。


◇◇◇


名をあげようとした、と、メディア一同が、王に無礼を働き、拘束されたという話しを、津路木は、某国のエージェント経由で聞くことになった。

桜井は、立川の病院に彼らを搬入した際に、今回の顛末を、津路木に伝えるよう、言っておいたのだが、彼らは、最低限の措置を受けると、報告を津路木にすることなく、それぞれの地元へ帰ってしまった。


顛末を津路木が聞いたのは、ことが起きてから、二週間が経ってからだった。

彼は波川の地元である愛媛県の某市へ飛んだ。

彼の事務所を訪ねると、所員はばつが悪そうに、津路木から目をそらし、波川の居場所をなかなか言おうとしない。

なんとか、彼が市内の彼の支援団体の有力者の経営する病院にいることを聞き出すと、すぐに、その病院へ向かう。

病院でも、応対した職員は、波川 はここにはいない。と最初はとぼけていたが、津路木の支援団体である某組合の名前を出したところで、ようやく、彼の病室を教えた。


「つ、津路木さん・・・。どうしてここが・・・。」


病室へ入って来た津路木を見て、包帯まみれの 波川は黙りこむ。


「どうしてじゃない!いったい何をやったんだ!」


概ねの流れは思い当たるので、津路木は何があったのか?ではなく、何をやったのか?と聞く。


「六代政権を、王様になんとかしてもらおうと思って・・・・」


以前、皇室の園遊会に招かれた時、に、なんの効力もない嘆願書を手渡した前科のある波川は「偉い人がいれば、その人がなんとかしてくれる。という」いつもの考えで、今回も、そのような行動をとったであろうことは、想像がついた。

彼らは、権力を持っているにも関わらず、しかるべき場で議論をすることなく、代案を出すこともなく、デモや市民活動家の集会に参加を繰り返すことが、自分たちの職務と思い込んでおり、実務的な活動をすることはほぼない。


だから、がいるならば、それに頼る。と言う幼児的発想に至ったのであろう。

ただ、このような単純なメンタルの持ち主は扱い易いので、議席をキープするために、自分にも責任の一環があることはわかっているのだが。


ぶつぶつと言い訳をを繰り返す 波川 に対して、


「ああ、もういい!どのくらいで退院できるんだ!あちらの王に謝罪に行くぞ!」


ちっとも前向きな回答を得られないことに苛立ち、津路木は、波川を叱責する。


「ええ!?勘弁してくださいよ。もう、に行くのはごめんです。、あいつら暴力を振るってくるんですよ。」


自分のやったことを棚にあげて、言い訳を繰り返す波川に、


「王に無礼を働いたんだから、取り押さえられるのはあたりまえだろうが!なにがなにもしていないだ!舞波いすみが動かなければ、お前たちはそのまま死刑になるところだったんだぞ!あそこは!暴れれば捕まるし、暴言を吐けば罰も受けるんだ!そんなこともわからないのか!」


津路木の恫喝にすっかりおびえてしまった 波川は、


「・・・、さらに行くのは嫌ですよ。六代政権を攻めるネタは、もっと他のことにしましょうよ。」


津路木は、他の議員のところも回るが、概ね、 波川と同じような反応だった。

さらに、彼らの状況を聞いた他の議員も、自分はそんな目にあうのはごめんだ。と一斉に異世界について、言及するのを避け始めた。


異世界案件は、六代政権を攻めるネタにならない。と悟ったメディアも、一斉にトーンダウンし、異世界についての世論の関心も、瞬く間に覚めていった。

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