第70話 野党議員、王と謁見。
度重なる要求で、いすみのとりなしによって、波川をはじめとした野党議員と、メディアの一同は、王に謁見した。
「はじめましてレイオット王。私はニホンコクの国会議員、波川としのりと申します。」
波川の言を、お付きのものが王に伝える。
いすみ達が異例なだけで、本来、王は民衆と直接言葉を交わすことはしない。
外国の者であっても、同格でなければ、口をきくどころか、基本的には外交官しか対応しないのが基本だ。
こうして、会うことすら、本来であれば、異例だ。
「今日はマイナミイスミのとりなしによって卿と面会を許したが、何用か?」
お付きの者が波川に語りかける。
その対応に、波川はむっとしながらも
「この国において、我が国の者が大変なご迷惑をおかけしていると心得ますので、謝罪と賠償の交渉に伺った次第でございます」
お付きのものは波川の言に、驚きの表情を見せ、それを聞いた王も戸惑いの表情を見せる。
外交の基本として、相手国に対して、優位なポジションを取るのが常識で、それぞれが「欲しい」ものを定義しておいてから、それぞれ、譲渡範囲を探っていくのが基本だ。
それは、どこの国でも、どこの世界でも代わりはない。
その常識を覆して、しかも、外交交渉では絶対にやってはいけない「謝罪」を初対面で行い、なんのことかわからないが、「賠償」まで行うという。
波川の言葉に、王は戸惑い、問う。
「賠償というのは、いったい何に対して賠償を行うというのだ?また、何を我らに差し出すというのだ?」
狼狽える王に、自分が優位に立ったと確信した波川は、たたみかける。
「はい。お望みであれば、あなたたちの欲している我が国の建築技術のすべてを。それに、マイナミ商会の今までの利益すべて。なんなら、我々の国からの援助も行います」
あまりに常識はずれの波川の言葉に、王は、あきれとも驚きともつかない表情を浮かべ、
「卿は気が狂っているのか?なんの落ち度もないのに、それだけのものをさしだすなど。」
「いえ、先遣隊の連中はあなたたちに迷惑をかけたはずです。彼らの頭目。六代というのは、とんでもない男です。思い返してみてください。あなたたちにとんでもない災厄をもたらしているでしょう?何人死にました?どれだけのものを壊されました?六代は、そういった行為をわが国で企んでいる極悪人なのです。この国でも、同様のことを行っているのに間違いないのです!」
波川の演説は熱を帯び、だんだん目が据わってきた。
いつもなら、ここで、マスコミがあとで使うための素材を集中的に採集するはずだが、今、そのメディアの一同は、別室に控えている。
にも関わらず、彼はいつものように、演説を続ける。
「そもそも、六代がいるから、我が国は戦争に突き進んでいるんです。これをご覧ください」
と、後ろに控えていた、みん考党の議員数人が、六代の疑惑や悪事について、日本語で書かれたボードを掲げる。
「どうですか?こんな連中が、あなたたちに非道な行為をしていないはずがない。王様!徹底的な謝罪と賠償を行わせてください!!」
波川が叫ぶと、衛兵の制止を振り切って、隣の間に控えていたメディアの一団がなだれこんできた。
「六代政権に正義の鉄槌を!」「六代は 疑惑の説明責任をはたせ!」「METOO!」と、すべて、日本語で書かれたプラカードを掲げ、王に詰め寄る。
王はため息をつき、お付きのものに伝える。
「・・・そやつらを捕縛せよ。」
一斉に衛兵が彼らを取り押さえにかかる。
「くそおお!レイオット王め!お前らも六代の仲間か!」
「民主主義の敵め!」
「わたしを誰だと思っている!◯◯新聞の社員だぞ!」
混乱のなか、捕縛を逃れようと、議員の一人が衛兵に殴り掛かり、さらに衛兵を突き飛ばした。
残念ながら、ここは国会ではない。
取材対象に無礼を働いてもスルーされる日本ではない。
どんなに暴れようが、暴言をはこうが、相手に無礼を働こうが、許されるところではない。
当然、その行為に対しての<代価>を支払わねばならない。
彼らは、自分たちが常に庇護されている特権の場に長くいすぎたため、それがわからない。
王への不敬と暴言、衛兵への反逆、暴力行為。それを、絶対不可侵の王の前で行ってしまった以上、ただでは済まない。
「こいつらを拘束せよ!」
衛兵隊隊長の命令が下ると、衛兵たちは、野党議員の腕を容赦なくねじり上げる。「ごん!」と腕が折れるいやな音が響く。
「うわああああ!」
王の護衛用の棍棒が、プラカードを掲げていたメディアを追い回し、殴り付ける。
衛兵に謝罪を試みる者もいるが、もう遅い。
さらに、自然治癒能力を越えた、再生不可能なけがをしても「治癒魔法」で完全に治癒するこの世界の衛兵に、遠慮はない。
腕をへし折り、関節をつぶし、視覚や聴覚が影響する器官への致命的な攻撃をすることにもためらいはない。
衛兵に殴りつけられ、蹴られ、ぼろ布のような状態にされ、王の間から引きずられて連れ出される。
連れ出され、勾留される間にも、衛兵に殴られ、骨折した足や、腕に、なんの配慮もなく、ごつい鉄管がかけられる。
「もうやめてくれ・・・。」と彼らが弱弱しく叫んでも、衛兵は容赦しない。
死罪相当の罪を犯した者に、彼らは同情する必要がない。
そのまま、廊下を追い立てられ、歩くことが出来なくなったものは、骨折した腕や足をつかまれ、あまりの痛みと苦痛に、悲鳴をあげるが、そんなことは気にせず、衛兵は、情け容赦なく引きずっていく。
地下牢に放り込まれ、立つこともできない状態で、なんの処置も受けることなく、苦痛のなか、一夜を過ごすことになった。
ここでようやく、彼らはここは日本ではないということに気がつく。
日本という国が、世界が。自分たちをいかに庇護してくれていたかを理解し、ここは異世界なのだ。と身体中の痛みをもって、理解することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます