第69話 来訪者達
意気揚々と扉を潜り抜け、団長の波川としのりを先頭にした、〈野党議員異世界視察団〉一同は、異世界へ足を踏み入れた。
あとに続くのは、野党と仲のいい、大手メディアの一団だ。
一社一人と言う条件をつけたにも関わらず、カメラやら音声やらの人員を追加で勝手に増員し、野党議員を含め〈視察団〉は、約50人もの規模になってしまっていた。
それを管理、引率するのは田尾だ。
「波川さん。届け出以外の異世界への機器の持ち込みは控えてください。と先日の説明会でもお話ししましたよね。」
扉を抜け、王都の街中に入ったとたん、届け出ていないスマホで撮影を始めた波川に、田尾が注意する。
「固いこと言うなよ。それともなにかい?撮られたら困るものでもあるのかい?」
波川の挑発するようなモノ言いにも、動ずることなく、田尾は続ける。
「異世界には、我々の世界の物品の持ち込みは、最低限にするよう、総理からも指示を受けております。こちらの指示に従ってもらえませんか?」
「六代の命令だあ!?じゃあ、ますます怪しいじゃないか!あんた達がここでやってる悪事をしっかり暴いてやるぜ!」
田尾に啖呵を切って、「マイナミ自警団」に護衛されつつ、まずはオリエンテーションが行われるマイナミ商会社屋に一団は向かっていった。
田尾と波川のやり取りを見て、後続のメディアも一斉にカメラやらレコーダーを出して、撮影やレポートを始めた。
「田尾さん、言ってやったらいいんじゃないですか?撮影なんかしても無駄だって。」
華江の言うように、この世界では、スマホやデジカメのような電子機器は、〈使える〉が、我々の世界では活用できない。
スマホをはじめとした電子機器で撮影した画像や動画は、〈異世界〉では再生して見ることができるが、我々の世界に戻ってから再生しようとしても、ノイズしか写っていなかったり、我々の世界の風景が写っていたりで、日本に戻ってから活用することができない。
パソコンも同様で、いすみ達も、最初の頃は太陽光パネルを使って、充電したノートパソコンでcadを使った図面を書こうとしていたが、異世界にプリンンターを持ち込んで、出力しても、認識できない文字や図形に変質していたりするので、使い物にならなかった。
そんなわけで、舞波工務店スタッフ一同は、昔使っていた平行定規やらドラフターやらを自宅や実家から引っ張り出して来て、手書きで図面を書いている。
「まあ、いいさ。教えてやる義理もないしな。」
カメラやレコーダーが、なしくずし的に使えるようになったので、野党御用達メディア一同は、異世界の街でも、日本でいつもやっているように、一般人に無遠慮にカメラを向け、マイクを突き付け〈六代政権の存在が如何にこの世界に迷惑をかけているか〉という、〈素材〉を集めるのに熱心だが、住人からは、ほぼ好意的なコメントしか帰ってこないので、事前に彼らが作ったシナリオ通りの素材を得ることが出来ず、困っているようだ。
さらに、言葉が通じるのは、彼らにも〈加護〉の効力が働いているからだけなので、デジタル形式の機材で録音した素材は、我々の世界では、結局使い物にならないのだが。
◇◇◇
「なんだい?こりゃ?」
マイナミ商会社屋で、雑務を行っていた田尾の前に、いくつもの束の紙片が置かれた。
「ニホンコクへの請求書です。」
紙束を持ってきた、アウグストが田尾に答える。
「あまりにも数が多いので、とりあえず、私
アウグストが、銀縁眼鏡を光らせて、それぞれの請求書を読み上げ始めた。
「メディアによる、〈ルーチェ〉の飲食代、30人分、〈ヤトウギイン〉による、「視察のため」の荷馬の車や、荷物運搬費が50人工分、衣料品店の請求、その他、王都の民芸品の請求が・・・。」
「ああ!もういい!わかったわかった!
・・・それで、この、〈ドアと壁の修理代〉というのは?」
「〈シュザイジン〉に追いかけられた住人が、自宅に駆け込んだところ、追っかけてきた〈シュザイジン〉が、腹いせでドアと壁を蹴っ飛ばして壊したので、その請求だそうです。」
「回復魔法のお布施ってのは?」
「〈ジエイタイ出身のハセベと付き合っているのは、彼に暴力を振るわれているとか、なにか弱味を握られてるんだろう?ジエイタイ出身者の悪逆非道を証言してくれないか?〉とメテオスにシュザイを申し込んだ彼らを、アカリが一緒にボコボコにしたので、その治療費だそうです。」
お布施に請求ってなんか違うだろう?というツッコミは、ひとまず置いておいて、持ち込んだ機材は使えず、王都でのマイナミ商会の評判も概ね、〈好評である〉ため、彼らが手に入れる予定だった素材が、取得できないことで、メディアや議員の視察団のストレスは、たまる一方のようで、その腹いせを無銭飲食や、この世界の通貨を持っていないにも関わらず、マイナミ商会へのツケで、異世界の〈お土産〉を買う者(結局、日本への入り口で没収されるのだが・・・。)もおり、王都での彼らの評判はすこぶる悪い。
田尾や桜井が、随時注意をするものの、その都度、
「記者の取材活動の権利の侵害だ!」
「自由なジャーナリスト活動に圧力をかけるのか!民主主義の否定だぞ!」
「国会議員に意見をする権利は、貴様らにはない!」
と大局的な反論をされたあげく、
「我々は異世界で、取材活動に圧力をかけられた!許すまじ六代政権!!」などという記事が、日本のネットニュースや、週刊紙を賑わすものだから、マイナミ商会サイドはなにも言えなくなってしまうため、彼らの〈活動〉はどんどん暴走を続けている。
「こないだは〈六代政権を倒すため、がんばります〉なんて活動を、ラジオ体操の広場でやろうとして、アウレータ王女にとっちめられてましたからね。なんで、他の国の政権打倒運動をこの国でやるんですかね?」
13歳の少女に〈とっちめられる〉いい歳した大人の集団を思い浮かべて、苦笑いする田尾だが、事態はかなり深刻だ。
最初は〈イスミ達の国の人だから〉と、丁寧に対応していた王都の人々だが、今はもう、彼らの〈シュザイ〉は受けないし、彼らが入ろうとすると、閉めてしまう店もあるほどだ。
それを〈私たちは異世界で差別を受けた!差別大国トランテスタ王国!〉なんて記事にするものだから、もう、どうしようもない。
「なんとかしてください。」
アウグストの切実な〈要求〉に、田尾は困り果てた。
◇◇◇
そんな日々を送る、異世界にやって来た野党議員と、メディアの一同だが、彼らの思うような取材活動ができない事態に、取材陣の本社や、野党議員のメインスポンサーである、某国も苛立ちを募らせている。
再三の要請に、彼らも焦り出していた。
「こうなったら、この国の王様に六代政権を何とかしてもらうしかない!」
それぞれが、一国を代表する組織に属しているにも関わらず、〈偉い人がいれば、その人に何とかしてもらう〉というピント外れで幼児的な思考しか持たない彼らは、マイナミ商会に〈自分たちだけが、王と王族とコンタクトをとっているのは、不公平だ!自分たちも王様に会わせろ!〉という要請を、マイナミ商会及び、六代政権の異世界窓口に行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます