第66話 国会中継
大泉学園町の舞波工務店では、社員一同が、国営放送の国会中継を見ていた。
「欠陥建物ったって、異世界の建物に建築基準法もなにもないでしょうに。」
あかりが、傍らの田尾に言う。
「まあな。それに、そもそも、業者を決めたのだって、野党の連中だしな。こないだ、地震の復興がらみので摘発されたセミゼネコンだって、政権とってた頃のみん考党お抱えの業者だしな。」
田尾があかりに答える。
「そもそも、発端のブログの記事も、欠陥建物が云々っていう一文だけしか書かれてないんだろ?捨てアカウントで書き込まれたようなもんなのに、なんで、野党さんはそれを見つけることができたんかねえ?」
問題になっているブログの記事を、実際に閲覧してみた田尾がいう。
「始まるみたいだ。」
前の議題が終了し、本題に移ることを一緒にテレビを見ていた社長が2人に告げる。
テレビにはお馴染みの波川としのりが映り、いつものように、六代政権の〈悪逆非道〉な振る舞いを指摘し、答弁に立った六代総理大臣を攻め立てる。
「ソーリ!あなたは市街化調整地域に、用途地域を定めることが可能かどうかご存じですか? 」
波川が事前の質問として届けていない、いつもの〈とんち合戦〉を六代に仕掛ける。
六代がいつものように、苦笑いを浮かべ、答弁に立つ。
「ええ、都市計画法13条1項七号及び十四号により、市街化調整区域には原則として用途地域は設けることはできませんが、地区計画は市街化区域における市街化の状況を勘案して、地区計画の区域の周辺における市街化を促進することがない等、当該都市計画区域における計画的な市街化を図る上で支障がないように定める・・・。こととしています。」
国会議員になる前には、実家の建設会社の実務を行っており、一級建築士の資格も持つ六代には、この程度の問題では、やり込めることはできない。
SNSの国会中継では、
「出たよ、国会の一休さん。」
「あっさり答えられてうろたえてんじゃねーよ。」
「六ちゃんとあんたじゃ役者が違うんだよ。」
等々のあきれたようなレスが次々に立つ。
「じゃ、じゃあ、近隣住居地域と準住居地域にまたがる敷地に、建設できる最高の延床面積は何%ですか?1分以内にお答え下さい!」
暗算を始めたらしい六代が、黙りこむと
「おい!早く答えろよ!」
「考え込むふりしてんじゃねーぞ!」
「わかんないって早く言えよおらあ!」
野党席から下品きわまりないヤジが飛ぶ。
「ほら!こんなかんたんな質問にも答えらえれない総理が指揮を取っている案件なんですから、ろくでもない建物になるに決まってますよねえ!」
発言を促す議長の合図を待つことなく、波川は畳み掛ける。
「インターネットに載っていたこんなことが異世界で起こっているんですよ!私たちは、異世界への視察をすることを承認いただきたい!」
〈とんち合戦〉でマウントを取ったと確信したらしい波川は、ようやく本題に入った。
「野党の皆様、主要メディアの皆様には、あちらの情勢が落ち着いたところで、視察にいらしていただく予定をすでに組んでおります。詳細決定次第、お知らせしますので、しばしお待ち願いたい。」
六代がさらに苦笑いしながら、言い終わる前に、
「ふざけるな!その準備の間に時間稼ぎをするつもりなんだろう!」
「お前のいうことなんか信用できるかあ!」
「すぐにでも、俺たちを異世界へつれていけえ!」
再び、ヤジが飛ぶ。
「つきましては、我々が異世界に行く前から、異世界の国家。トランテスタ王国とコンタクトをっている民間企業の方に、あちらの情勢と、今後の流れについて、話してもらおうと思います。」
六代が席にもどると、機敏さの中にも洗練された動作の人物が現れる。
白いワイシャツに、細身に仕立てられたアイビーのスーツ。
招致人の憲章を胸につけた彼が登壇すると、国会内の雰囲気が一変した。
「お時間をいただき、ありがとうございます。舞波工務店専務の舞波いすみと申します。」
◇◇◇
「しっかし、ホント、憎らしいくらいイケメンだわね。このオトコ。」
「こうやって画面越しで見ても惚れ惚れしますよねえ。スーツ姿、初めて見ますけど、素敵です♪」
あかりと華江が、画面に映るいすみの感想をそれぞれ熱く語る。
SNS上も、登壇したいすみの姿に、一斉にざわつき始める。
「なんだ、この強烈なイケメンは!?」
「画面越しにオーラが出てるぞ。」
「ヤバイヤバイ!イケメンすぐる!」
ざわつく記者席から、一斉に浴びせられるフラッシュの光に動ずることなく、軽くマイクの位置を調整すると、いすみは話し始めた
「私どもが、建設している日本国の領事館ですが、〈異世界〉での建築ということで、日本国の建築基準法に適合しない部分も確かにございます。ですが、強度や構造については、こちらの世界と同様の作業をおこなっておりますので、当社としましては、問題があるという認識はございません・・・。」
◇◇◇
「だから!舞波いすみへの取材は一切お断りします!異世界がらみの案件については、外務省の窓口へお願いします!」
苛立たしげに、華江が電話を叩きつける。
「ねえ、また、メール来たわよ。なになに?舞波いすみ専務におはよう○○で、コメンテーターをやってくれませんか?だってさ。
あ、こっちは、東京ガールズフェスティバル?のゲストになってくれないか?ですって?ウチの専務はタレントじゃないっつーの。」
あかりがもう、何十通目かわからない、テレビ局や、タレント事務所からのオファーを読み上げる。
いすみが国会に登場したその日から、
#舞波いすみイケメン
#何者だ舞波いすみ
#舞波いすみと異世界に住みたい
#舞波いすみヤバイ
といったハッシュタグが乱立し、翌日のワイドショーは、いすみ一色になった。
肝心の「異世界の欠陥建物問題」は、ほんのさわりしか触れられず、波川が六代総理に仕掛けた、とんち合戦はバッサリカットされ、いすみの堂々とした答弁と、そのイケメンぶりばかりが放送されていた
「六代さんとは関係ないんだろうけどさ、与党のなんとかって派閥の親分さんから、来年の参院選に出てくれってオファーまで来たぜ。」
アポなしで押し掛けてきた、テレビ局を追い返してきた田尾も加わる。
「華ちゃんも!そろそろいいかげんにして!レコーダーの容量、もうなくなるよ!」
放送されている、いすみの勇姿を自動録画で録画し続けていた華江だが、あまりにも取り上げられる番組が多く、外部ディスクの容量もあとわずかになっていた。
「そうですねえ。あとで、新しいディスク買ってきて、専務専用にしようっと♪」
あきれ返るあかりを見ながら、対応の手伝いをするために、舞波工務店を訪れている桜井が話す。
「みなさんには、申し訳ございませんが、騒動が収まるまで、もう少しご辛抱下さい。
彼らが求めている間は、相手をして、ソースを与え続けていないと、いきなり敵に廻るのが彼らですので・・・。」
メディアへの対応には、最新の注意を払っていないといけないのは、舞波工務店一同も理解している。
特に、一度持ち上げたあと、還付なきまで叩き潰すのが、彼らのやりかたであることを、
憎い相手であったとはいえ、社会的に抹殺されるほど、叩き潰された人物を知っているし、自分達もそうされかけた、舞波工務店一同はよくわかっている。
面倒だが、今は相手をし続けるしかない。
「まあ、ここまで、斜め上の騒動になるとは思っていませんでしたが。」
理論整然とした受け答えや、回転の早い頭脳。そして、なにより、〈異世界〉を〈人足レベル〉から知っているいすみ以上の人選はないという、六代の提案による要請で、答弁に立つことを了承したいすみだが、想定とは違う方向の騒ぎが巻き起こってしまった。
この騒動が〈たまたま、誰かがネットに書いたこと〉を偶然野党の誰かが見つけたことに対しての、目眩ましにはなったものの、六代は、日々の記者の〈ぶらさがり〉取材時にも、いすみのことばかり聞かれるので、辟易してしまっている。
「〈異世界〉と関わっているなんていう、国家の一大事の事案なんだからさ、もう少し取材する大事なことがあると思うんだけどな」。
田尾がため息をつく。
「国家の一大事より、一人のイケメンを追っかける方が重要なんてね。どうなってるのかしらね?この国のメディアは。」
あかりも同意する。
「ところで専務は?国会のあと、こっちの世界にいないみたいだけど?」
「現場のことで、あっちに・・・。」
ここしばらく、あっちの世界で起きている懸念事案のヒアリングに、いすみは異世界に行っている。
「ああ、怜奈ちゃんのことね・・・。」
いすみが、称えられていることで、テンションを上げていた舞波工務店の一同だったが、異世界の現場で起きている、懸念事項があった。
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