第4章 「工務店」
第65話 解体詠唱
ぺぺの商会の裏庭に、王宮から撤去されたゲイアサプライヤが山積みにされていた。
その前に立ったペペが呪文詠唱を行うと、〈山のように〉積まれていたゲイアサプライヤの山は、いっきに崩れ落ち、黒い砂利のように形状を換えた。
「なんかもったいないですね。」
ぺぺの後ろで、一連の作業を見ていたあかりがペペに話しかける。
「しょうがないさ。このゲイアサプライヤの解体術式は、レ・ブン商会の連中に知られちまってる。他の場所のゲイアサプライヤの交換も急がないと危ないよ。」
いすみ達の工法が軌道に乗った今、レ・ブン商会と、王宮サイドの対立は決定的となった。
ゲイアサプライヤにはぺぺが今、やってみたように、効力を無効にしてしまうキーワード・・・。解体詠唱が設定してある。
これは、ゲイアサプライアを供給した商会が設定するものなので、この世界で建てられている建物は、供給した商会に実質、生殺与奪を握られてしまうことになる。
今はおとなしくしているレ・ブン商会だが、このままにしておくと、「自分たちの言うことを聞かないと、王宮に設置してあるゲイアサプライヤをすべて無効にするぞ。」という脅しがかからないとも限らない。
そのため、アウレータが設計主幹となり、ぺぺの商会が供給する、小規模ゲイアサプライヤへの交換工事が急ピッチで進められている。
とはいえ、強力なゲイアサプライヤに支えられていた構造を、小規模ゲイアサプライヤに換装するためには、構造レベルから見直す必要があり、安全が確認されてから換装をおこなうので、意匠も含めた作業をおこなうのは容易ではない。
しかし、マイナミ商会で修行を積んだアウレータは、シェーデルと田尾のサポートもあり、見事に作業を進行させている。
そして、取り外したゲイアサプライヤを、再利用されないように、こうして処分をしているのだ。
「といっても、なかなか難しいですね。ゲイアサプライヤの解除詠唱は、それぞれ違うから、解読するだけでもひと仕事ですし、作用の方向を見極めてから、取り外しをしないといけないから、作業も一苦労ですね。」
あかりが撤去してきたゲイアサプライヤのリストを眺めながら、ペペに言う。
「まあ、しょうがないさ。効力が届かないところには、<
「まあ、あいつもいるしさ。」
◇◇◇
「8から12通りまでの解析終わりました。その柱を仮組してから撤去して大丈夫です。
」
怜奈の解析が完了したところで、シェーデルを中心としたドワーフたちが交換用のゲイアサプライヤを、怜奈の指示した場所に入れていく。
概ねの取り付け状況を確認したところで、蒼い作業着を着たアウレータが、柱に支えられた梁の状況を見渡して、強度が十分に確保されているのを確認する。
「もういいわね。ゲイアサプライヤを外して!」
彼女の指示で、ゲイアサプライヤが撤去され、衛兵の護衛付きで、ぺぺの工房へ運ばれていく。
「大したものね。あなたはイスミのところでも、
作業を終え、アウレータは、怜奈に声をかけた。
「いえ、舞波工務店では、普通に設計をしたり、カントクをしてました。だから、
舞波工務店に勤める前、怜奈が勤めていたのは、構造事務所だった。
前職とはあまり接点のなかった今の工務店業務ではあるが、華江の指導で、なんとか日々の業務をこなしている。
「で、王女サマ・・・。」
「な、何よ・・・。」
いきなり、声色の変わった怜奈に、アウレータは怯えて、後退りしていく。
「構造については、専務や田尾さんからも教わっていないようですから、アタシがご教授さしあげますよ・・・。」
「よろしければ、王女様のお部屋でじっくり、ねっとりと・・・。」
じりじりとアウレータを怜奈が壁際に追い詰めていく。
「怜奈ちゃん!もう、こっちの作業はいいから、領事館の方に戻りなさい!」
華江の叱責で、ピンチを脱したアウレータは、彼女の後ろに避難する。
「ええ?まだ、いいじゃないですか。王女にあんなことやこんなことを教えてさしあげたいのにい!」
「ダメよ!さっさとあっちの現場に戻りなさい!」
渋々と、本来の仕事である、領事館の建設現場に怜奈は戻っていった。
「助かったわ。ハナエ。」
怜奈の嗜好の標的は、アウレータだけでなく、メテオスやアウグストにも向かっている。
アルテ・ギルドでアウグストと仕事をした際に、彼女が仮眠をとっていた寝所に潜り込み、それに気づいたアウグストに縛り上げられ、仮眠室の前に、半笑いを浮かべて転がされていた事件は、アウグストと彼女の手下の2人が、身体中の関節を破壊されて、倒れていた事件と共に、アルテ・ギルドの珍事のひとつに加わってしまっている。
◇◇◇
いすみたちが、こちらの世界でも、言葉が通じる・・。というよりは、我々の言語で会話していても、相手に通じるのは、〈やって来た世界〉で使っていた能力をこちらの世界にでも活動できるように・・・。といった〈その世界の神の加護〉のお陰らしい。
メテオスいわく、舞波工務店の一同にも、それぞれの特性に応じた加護が、言葉以外にも発動しているらしいが、現時点では見受けられない。
そんななか、怜奈が、こちらの世界に来てから発動した加護は、
ゲイアサプライヤの魔法式や、魔法力の〈流れ〉が見えるということだった。
怜奈がこの世界に来たのは、小林と領事館の建設作業を行うためであったが、この加護の能力のお蔭で、アウレータや、ぺぺの手伝いも最近は行っている。
領事館の仕事と、平行しているため、けっこうな忙しさだが「アウレータ王女とお仕事できるので平気です♪」とのことで、両方の業務を続けている。
◇◇◇
舞波工務店指揮による、領事館の建設が順調に進んでいるある日、
「六代政権は、異世界に欠陥建物を建てている。」
会員制の、あるブログの記事に、そんな一文が書き込まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます