第67話 働き方

怜奈はどこ行った?俺の荷馬車も直してほしいんだけどな?


怜奈が、こちらの世界に来てから発動した加護、構造解析ストルータアナライジ能力ちからは、ゲイアサプライやの〈解除術式解析〉以外にも、役に立ち始めていた。


この異世界では、建築以外のもの。荷馬車や工業製品にも魔法力がつかわれているため、魔法力のバランスが崩れたり、車輪や、荷台等の実態部分がおかしくなった場合は、その部分に魔法力を、マイナミ商会が開発した、銀魔法線シルバーリーニエしてやれば、、修理をしなくても、使用可能になるため、現場の道具からはじまり、町の商人の荷馬車や道具。最近では、王宮の大きな門を開け閉めする機構や、魔法力で威力が向上されている、衛兵隊の剣や、戦車(動物に引かせる二輪のもの)といった兵器のようなものの魔法力メンテに引っ張り回されている。


だが、怜奈がこの世界に来たのは、あくまで領事館の建設のためなので・・・。


「もう、二週間も領事館の現場に来てない?」


異世界に戻り、マイナミ商会社屋で、いすみは小林からの報告を受けていた。


「はい。とりあえず、現場は進行してますが、北見さん、ちっとも現場に来ないんです。」


「まあ、職方のみなさんは、よく動いてくれてますし、工期や予算もクライアントが大きいですから、問題はないんですが・・・。」


告げ口するみたいで、心苦しいですが・・・。

と前置きしながら、舞波工務店の社員であるにも関わらず、異世界の仕事ばかりをやっていて、現場に来ない彼女について、小林はいすみに報告していた。


「わかった。彼女と話してみる。」


いすみはマイナミ商会の社屋を出ると、王宮の現場に向かった。

王宮の現場では、アウレータが、蒼い作業着で、 魔法構造図マヒア・ロギモス を見ながら、ドワーフ達に的確に指示を出していた。

口頭だけではなく、時には足場に登ったり、アマルガムを自分で積み重ねて、ドワーフ達とともに仕事をしている。


もう、すっかり1人前の現場者だ。


そんな彼女をしばらく眺めていたいすみに気がつき、


「あら?イスミ!どうしたの急に?」


いすみの姿を見つけて、アウレータがいすみのもとに駆け寄る。


〈仕事のできる現場監督は、足取りからして、違うものだ。〉

彼の師匠である、安西の言葉通り、その足取りも、初めて、彼女がマイナミ商会に来たときとは明らかに違う。


「いえ、あなたの見事な現場の仕切りに、つい見とれてしまいました。」


アウレータはいすみの称賛に、ポッと頬を染め、


「も、もう!きゅ、急にそんなこと言わないでよ!」


王宮の現場での彼女の評価は高いが、自分では、まだまだと彼女は思っている。

だが、師匠であり、思い人でもある彼に評価されると、少女の胸は熱くなる。


「で?どうしたの?今日は?」


アウレータは、作業着についたアマルガムの埃を払いながら、笑顔でいすみに答える。


「北見さんを見ませんでしたか?」


「キタミ?ああ、レイナね。彼女なら、今日はぺぺの工房にいるんじゃないの?昨日も遅くまで、こっちの現場にいたみたいだけど・・・。」


「どうかしましたか?」


「イスミ、あのね、彼女を怒らないでほしいの。タオから聞いたんだけど、あの子の本来の仕事は、リョウジカンの仕事なのはわかってるんだけど、あたしたちが引っ張り回してるせいで、あっちの仕事ができてないんでしょう?」


田尾から、事情を聞いていたらしい彼女は、怜奈を気遣う。


「大丈夫ですよ。怒ったりしません。ただ、彼女に本来の仕事をやってもらわないと、小林君や、他のウチのメンバーにも負担がかかります。

彼女の力が、こちらのお役に立てることは重々わかってますので、彼女も一緒に、改めて、働き方をおはなしさせて下さい。」


「お願いね。イスミ。」


「・・・それからね。」


「なんでしょうか?」


「この仕事が終わったら、イスミはあっちの国に帰っちゃうの?」


いすみが某国の第二後継者説は、違うことが判明してしまい、仕事でこの世界に来ていることをすでに知っているアウレータが問う。


「そうですね。私がこの国に来たのは、領事館建設が目的ですから。この仕事が終わったら、支社長の田尾は残るかもしれませんが、私たちは引き上げる予定です。」


ここしばらく、野党の追及がさらに厳しく、初期段階からいた、舞波工務店がこの世界にいるのを快く思わない野党議員の追及によって、領事館が完成して、外務省の職員が赴任したら、入れ替わりでいすみ達はひきあげることになった。

マイナミ商会も、それにともなって、日本国の傘下に入る予定で、メンバーも総入れ替えをする予定だ。


「そっか。寂しくなるわね・・・。」


いすみの言葉を聞いて、アウレータは寂しげに呟く。


「大丈夫ですよ。田尾は支社長として残りますし、私たちも時々、遊びに来ます。アウレータさんの建てる新しい王宮も見てみたいですしね。」


いすみの話しを聞いて、アウレータは、ちょっと考え込んで、


「・・・ねえ、イスミ。アタシも、イスミの国に行ってみることはできるかな?」


「そうですね。桜井さんに聞いてみますね。アウレータ王女に役立つ技術もきっとあるでしょうから。」


そういうことじゃなくて・・・。


いすみに聞こえないようにアウレータはつぶやき、目頭が熱くなるのを必死にこらえた。







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