第64話 領事館建設開始

方針が決まったところで、領事館の建設は開始された。

王とクライアント日本政府のお墨付きで、完全に「我々の世界」の工法で、作業は進んでいった。

から、〈異世界〉へ次々と建設資材が運びこまれていく。


レーザー機器を使って、建物の正確な配置がなされる。

基礎のを行い、基礎の底面に敷いた砂利をランマーでならしていく。

その上に、基準を出すための「捨てコンクリート」を打設する。


捨てコンクリートが固まったら、我々の世界で事前に加工しておいた鉄筋を、捨てコンクリートのスミ出しの上に決めていく。

決めた部分は、敷地内に設置した発電機プラントからの電気で次々に溶接されていく。


鉄製の型枠を組んでいき、アンカーボルトをミリ単位の正確さで設置していく。


あらかじめ、建てておいたコンクリートプラントから、計画通りに配合されたコンクリートが形成され、型枠に流し込まれる。


1週間ほど養生して、型枠を撤去し、これも、我々の世界で事前に「プレカット」しておいた門型フレームを組み立て、ドラフティングボルトと各金物で固定していく・・・。


「・・・あのさあ、イスミ。これが、アンタたちの世界のケンチクなの?」


領事館の躯体が上棟したところで、ここまでの工程を見ていたアウレータがいすみに疑問を投げかける。

で、領事館を建てるということで、今まで、マイナミ商会に教わり、身に着けてきた工法の究極型が見られる。と期待して、着工時から期待して、毎日、現場に見に来ていたのだが・・・。


「なんていうか・・・。」


呆れ顔のアウレータが続ける。


「これってさぁ、めんどくない?」


実際、その通りなのだ。


例えば、基礎工事ひとつとっても、この世界では、アマルガムを施工し、魔法力を供給する。という2工程だけで、鉄筋コンクリートよりも強固で、精度の高い基礎が完成するのに、わざわざ、根切り、砂利敷き、捨てコンクリート、鉄筋組み、型枠組み、コンクリート打設、型枠撤去、整地・・・。と7工程も行わなければならないのは、非効率この上ない。


こちらの工法にすっかりなじんだメインスタッフも、予想していたこととはいえ、その作業を見ると、徒労とも言える工程の多さに虚しさすら感じてしまう。


エドガルド、アウグストをはじめとする、アルテ・ギルドの面々も、「とてもこんなのは商売にならない。」と早々に興味を失って、現場に来なくなってしまった。


勉強熱心なシェーデルは、しばらくは頑張って現場に通っていたが、魔法を使わない非効率さにしびれをきらしてか、彼ももう、現場には来ない。


これらの事態はいすみの想定内だったので、アウレータの指摘にも、苦笑いするしかない。


今回の工事に関しては、完工後のセキュリティ上から、の人員は係わっていない。

さらに、施工作業はマイナミ商会の手の者ではなく、「舞波工務店」が某ゼネコンを「下請け」として発注し、作業員は立川の「例の森」に施工事務所を建て、立川の宿舎から「通い」で現場に来ている。

本来であれば、舞波工務店の〈手〉で施工をしたかったのだが、によって、彼らの旗振りによる、によって施工会社は決定され、作業は行われている。


もう、すでに〈異世界〉の存在は世間におおやけになってしまっているので、建築作業員たちは、最初は「異世界」に驚くが、現場と立川の往復に慣れてしまうと、宿泊も買い物も、立川の町でできてしまうため、なにも不自由な「異世界」に日常生活の糧を求めようとはしないため、建設作業員と異世界の住人の交流はほぼ行われていなかった。


◇◇◇


「結局、いすみが特別に優秀だったということで、いすみの祖国はそれほどの国ではないのかもしれんな。」


領事館の「ケンチク」工程が、思いのほか非効率で、時間もコストもかかることがわかったところで、王都の商会や為政者たちは、そう思い始めていた。

そもそも、いすみ以外の者を「一目おいて」いたのは、いすみの国の工法や人員が、イスミ以上に優秀なものがごろごろいる恐ろしい国。というがあったためで、彼らの目から見ると、魔法も使わず、〈ダラダラ〉と作業をしている(ように見える)彼らに、そんな知恵や才覚があるようにはとても見えない。


ただ、今、そう思っても、いすみやその一派を「おとりつぶし」にするには、マイナミ商会は強い力を持ってしまっているし、ギルドをはじめ「マイナミ自警団」の日頃の活躍と、庶民への住宅建設事業で、一般庶民の人気も高い彼らを不当に扱うようにしてしまえば、自分たちにはデメリットしかない。


それに、彼らが王都の経済の活性化の一環をになっているのも明らかだ。


・・・ということで、期待外れではあったが、まあ、いいか。と為政者。


・・いすみが、そのついでに、大きな取引を・・・。は無さそうだけど、住宅建設で利益があげられてるから、まあいいか。とアルテ・ギルド。


と、王都の話題を一身にさらった、ニホンコクいすみの母国の〈ケンチク〉の開始は、拍子抜けの結果になってしまったが、「いすみたちはすごいし、他のマイナミ商会の連中もいいやつだからいいんじゃね?」という感じで、領事館建設は王都の日常生活に馴染んでいった。

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