第47話 トライ&エラー

「やっぱりだめだねえ、これでも魔法力が伝わってない。」


例の吹き抜け部分に新たに検討した魔法式を書き、強度の確認のため吹き抜けの上の廊下に乗ってみたぺぺは、前回ほどではないが、きしむ梁に落胆して1階にいる一同に伝える。


「理屈ではこれでいいはずなんだけどねえ・・・。」


A4サイズほどの用紙に書きこまれた<魔法構造図マヒア・ロギモス>と<魔法計算式マヒア・カルクス>の書面を見ながらメテオスがため息をつく。


「なあ、いすみ。ゲイアサプライヤ増やしちゃだめか?3個?いや、2個でいい。」


メテオスがいすみに懇願する。


「だめです。ゲイアサプライヤの収納場所は設計段階で決まっています。収納するためのスペースを作ったらその分、居室部分にいびつな個所が出ます。その辺を安易にやってしまったら、初期の意匠が崩れます。」


「そうは言っても、このままだとあそこの強度が出ないから、使いもんにならない建物になっちまうよ!」


以前、あかりが言ったとおり、いすみは頑として意匠の変更を拒む。

メテオスもさんざん検討した上での今日の打ち合わせだっただけに、いすみの頑固さにキレ気味だ。


「とにかく、最初の設計時点でメテオスさんは、このレイアウトでGOを出しました。構造サイドの責任者として、みなさん魔法士には、その形態を維持する責任があります。」


淡々といすみは、持論を展開する。


「なあ、いすみ君、そう言ってもさ、彼女らも一生懸命検討してくれた結果なんだし、収納箇所の意匠については、私がもう少し検討してみるから・・・。」


安西が両者の間に割って入る。


「だめです。安西先生もせっかく意匠をまとめたんですから、は受け入れないでください。」


今までであれば、思いつきで変更を繰り返す安西だったが、華江にすっかり教育されてしまった彼は、今や現場をスムーズに動かすための調整役になってしまった。


「安易とは聞きづてならないね。こっちも簡単にこの場に来たわけじゃないんだよ!魔法式の検討にどれだけ手間がかかったことか!」


今度はぺぺがいすみに反論する。

そもそも、ぺぺは建材の供給だけが仕事であり、魔法式や構造の検討などは管轄外なのだが、新たな構造の建物の建設の魅力と、旧知のメテオスの仕事を手伝ってやりたいという思いの、いわば、ボランティア活動なので、総親分のいすみにも遠慮せずに意見ができる。


双方譲らず、黙り込んだまま、現場に重苦しい空気が漂う。


「じゃあさ、繋げりゃいいんじゃない?」


それまで黙っていたあかりが、議論に割り込んだ。

全員が彼女の発言の意味が分からず、困惑する。


「要するにさ、今の魔法力の伝え方って、ゲイアサプライヤっていうルーターを使ったWi-Fiなわけじゃない?壁の形状とか、レイアウトで魔法力が伝わらないんだったらさ、LANにすればいいんじゃない?」


「なるほど。」


「??」


WIFIとか有線LANとか、訳のわからない異世界組に対して、いすみと安西はあかりの意図を読み取った。

ようするに、計算上は余剰があるくらいゲイアサプライヤからの供給魔法力があり、それが伝えたいところにWIFIではつながらないのであれば。有線でつないでしまえばいい。

若干、乱暴ではあるが有効な手段だ。

ケーブルであれば構造材のすきまに納めることができるので、意匠上も問題はない。


こういった意図をぺぺに伝えると、さっそく、魔法力を伝達させるのに、もっとも効率のよい物質。〈銀〉で形成されたケーブルを造作した。

銀魔法線シルバーリーニエ>と名づけられた、いわば<魔法の電線>は、構造上、必要な部分にピンポイントに魔法力を供給することが出来、吹き抜けのほかにもいくつかあった、魔法力の不足している構造部分の問題は一気に解決した。

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