第58話 王都のツインベッロ大会-1
露天が並ぶ、休日の大通り。傭兵くずれの一団が暴れまわっていた。
屋台を壊し、商品を奪い、現金も次々と奪っていく。
傭兵は身体強化魔法と、回復魔法に特化したものが多く、駆けつけた王都の衛兵たちでは歯が立たない。
他の衛星都市と同様、剣を抜いたら、血の惨劇になってしまうため、剣を使った鎮圧ができないため、肉体の膂力と魔法力に劣る衛兵たちはどうすることもできない。
必死に抑え込んだり、殴りかかったりするが、まったく歯がたたない。
そんな状況を見ていた町人の一人が叫ぶ。
「あの人たちを!マイナミ自警団を呼んでくれ!!」
「そうか!あの人達なら!」
そう叫ぶや否や、騒ぎを聞きつけたマイナミ自警団が到着した。
隊長代理のレグリンが指示を出す。
「マイキーと3人は、あの赤い鎧の一団を制圧しろ!あとは俺に続け!」
隊員達は自分たちよりもはるかに大きく、魔法力の強力な猛者たちを、次々に<カンセツワザ>で葬って行く。
この世界では関節や骨が還付無きまで壊されたとしても、治癒魔法で時間をかけて治療すれば、完全に回復するため、彼らは情け容赦がない。
あちこちで関節や骨の砕ける音と悲鳴が響き、脚や腕がありえない方向にねじまがった荒くれ者たちの大きな体が横たわっていった。
「レグリン、下がってろ。あいつは俺がやる。」
一際身体が大きく、隊員たちでは手に負えない傭兵集団の親玉が出てきたところで、長谷部が到着した。
「百人殺しのハセベだ!」
「マイナミ自警団最強の男だ!」
最強の男の登場に、民衆は歓声をあげる。
「ひゃ、百人殺しのハセベだと。噂には聞いていたが、意外に・・・。」
傭兵の親玉は、長谷部の勇名にひるみつつも、噂に聞いていたよりも、小さく、細身の長谷部をあなどったようで、そのまま突進してきた。
魔法力で強化した肉体で、一気にカタを付けるつもりだ。
長谷部は突進してくる相手から、軽く身を交わし、バックを取る!
両手で腹をフック。そのまま上に持ち上げるように、一気にブリッジ状態に後方へ相手を反り投げる!
「どおおおせええい!」
名手、カールゴッチが180KGを超えるといわれた巨人。モンスターロシモフをも倒したといわれる。<ゴッチ式ジャーマンスープレックス>だ!
長谷部の素早く、初めてかけられる技に、彼の頭部への肉体強化魔法の展開は間に合わない!
巨体のアタマが地面にたたきつけられ、砂煙が巻き上がる・・・!
数秒間、ブリッジの状態で静止していた長谷部が身を離すと、マットのない地面に受け身なしで叩きつけられた相手は、ゆっくりと地面に倒れ伏した。
「よし!一気に制圧!」
すさまじい必殺技で親玉が倒されたのを目の当たりにした傭兵たちは、おとなしく、<マイナミ自警団>に降参した。
「
「
「じゃあ、衛兵さんたち。あとは宜しく。」
おとなしくなったならず者たちを、衛兵に引渡し、<マイナミ自警団>は、さっそうと立ち去って行く。
「マイナミ自警団最強!」
「レグリン副隊長!ウチのムスメを嫁に!」
「ハセベ!おれも弟子にしてくれ!」
マイナミ商会社屋に新設された、詰め所へ帰っていく彼らに、町の人達から声援が送られる。
もともと、マイナミ商会の警備のために結成された、「マイナミ自警団」だが、ガンボの町のツインベッロ大会での長谷部の勇名と、見たことのない「カンセツワザ」に魅了された若者たちも加入し、今や、数十人の大所帯になっていた。
レグリンもマイナミ自警団に所属し、長谷部に続く、NO2の副団長職に就いている。
王都にも衛兵部隊が存在しているが、彼らもガンボの町の衛兵と同様、治安維持を行うが、彼らはあくまで<王様の軍隊>という位置付なので、法的には警察権を持たない組織だ。
なので、ここでも結局、彼らの腕っぷしを恐れて、治安維持がなされているわけだから、より強い相手が出てきてしまうと対抗できないし、剣を抜いて威嚇してしまったら、あとは殺し合いしかなくなってしまう。
そんな局面で、彼らに<協力>しているのが、マイナミ自警団なのだが、最近は今回のように、ほとんどの騒ぎを彼らが鎮圧してしまうので、王都の衛兵のメンツはつぶれっぱなしだ。
「まったく役立たずだな。お前らは。」
「王様に雇われて、いい気になってるんじゃねーよ。」
「もう、町の治安維持はマイナミ自警団に任せて、お前らは舞踏会の警備専門にでもなったらどうだ?」
・・・とさんざん非難と嘲笑を浴びながら、後始末をする日々に、王都衛兵隊の不満は募っていく。
◇◇◇
「隊長!なんとかならないんですか?マイナミ自警団の連中の最近の跳梁は目に余りますよ!」
「そうは言っても、彼らの戦闘力の高さは認めざるを得んし、協力がなければ、治安維持活動に支障が出る・・・。」
隊長はじめ、衛兵の幹部の歯切れも悪い。
あくまで、王都は王が領主であり、治安維持活動についての権限は、自分達にあるはずなので、彼らに〈手を出すな〉。と排除勧告をすることもできるのだが、今回のような事態が起こったとき、衛兵だけでは手に余るのも事実なので、そんな強硬策もとれない。
これまでは、暴れるに任せるしかなかった他国からのならずものや、傭兵上がりの連中が騒ぎを起こすことも、マイナミ自警団が結成されてからはほとんど発生しなくなった。
王都衛兵隊は、彼らの活躍の〈後始末専門機関〉のような民衆の扱いに、特に若い衛兵の不満は募るばかりだ。
◇◇◇
そんな不満を抱えながら、毎日を過ごす、若い衛兵の一団が、大通りの居酒屋「ロランチェ」に赴く。
ここは料理もうまいし、給仕の女性店員が若く、器量のよい娘たちばかりなので、若い衛兵に人気の店だ。
その店の一角に一際にぎやかな一団がいた。
「おい、あいつら、マイナミ自警団の連中だ。」
給仕の娘たちは、<マイナミ自警団>の男たちの周りに集まり、彼らのたくましい胸板に、自らの豊かな胸を擦り付けんばかりのサービスを行っている。
いすみたちと、ドワーフ達の<新築事業>も好調のため、その配下のマイナミ自警団の団員達は気前もいい。
若い娘たちに人気があるのも当然だ。
対して、いくら、王直轄の衛兵とはいえ、若い王都の衛兵の懐具合は決して豊かとはいえず、こっちに来るのは男の店員ばかりだ。
「おい!お前ら!俺たちも客だぞ!そっちにばかり行かないで、こっちにも来たらどうだ?」
「あら?最近落ち目の王様の衛兵さんたちじゃないの?」
「そんなに、目くじらたてなくても、こっちのお兄さんと次の休みに出かける約束したら、行ったげるから待ってなさいよ。」
「一杯か二杯のエールで、なんであたいたちがあんたたちの相手しなきゃいけないのお?」
「やっぱりオトコは強くなきゃねえ。」
無礼千万の娘たちの口ぶりに、普段から、マイナミ自警団にいい感情を持っていない、王都の若い衛兵達の不満は爆発した。
「おい!てめえら!新参者のくせに、でけえツラしてるんじゃねえぞ!」
マイナミ自警団の一団を怒鳴りつけた。
いすみや長谷部には、自分たちはあくまで新参だから、控えめにしているように。もめごとはおこさないように。という訓示をされており、その一環としての、治安維持活動の協力ではあるが、それが衛兵たちとのもめごとの火種になってしまっている。
さらに、酒が入っていて、娘たちと一緒にいい気分になっていた彼らの応対はまずかった。
「なにぃ?町のチンピラどものケンカひとつおさめられない衛兵さんたちが何言ってやがる。お前たちは、王宮のパーティーの警備でもやって、飲み残しのワインでも飲んでりゃいいんだよ!」
「・・・・!」
あっという間に大乱闘に発展した。
◇◇◇
「さて、話しを聞く限りでは、ケンカ両成敗ってところだが・・・。」
長谷部とともに、めちゃくちゃになった居酒屋へ謝罪と騒動の後始末にやってきた安西が言った。
「確かに。最初に挑発したのは、お前らのようだしな。」
と、衛兵の隊長。
「お前らもだ!ハセベ隊長も、イスミ専務も言っているだろう!あくまで俺たちは新参で、<協力させてもらう立場>なんだから、おとなしくしろと!」
レグリンもうなだれる若い隊員たちに怒声を浴びせる。
「・・・・けっ。衛星都市の田舎衛兵崩れが偉そうに。」
若い衛兵が、ぼそっと呟く。
王都の衛兵は、貴族の三男や、二男で、比較的育ちがいいものが多く、決して身分が高くない者で構成されるマイナミ自警団と同等に説教されることは、不満なようだった。
「・・・なんだと?」
彼の独り言を聞いたレグリンが、怒りの目を向ける。
「いえいえ、名声高いマイナミ自警団さんに、失礼なこと言ってしまいましたね。こいつは失礼しました。なんといっても、あんたたちと違って、アタシたちは、育ちが悪いもんで、よけいな口が出ちゃうんんですよね。」
「もういっぺん行ってみろ!このやろう!」
レグリンが襲いかかり、若い衛兵も巻き込んで、あっという間に殴り合いに発展する。
二人の怒りにまかせた乱闘は、なかなか止めることができず、さらに大騒ぎになった。
「おい!こうなったら、はっきりと決着をつけようじゃないか!」殴られた衛兵の彼が叫ぶ。
「おう!望むところだ!ギタギタにしてやるから、覚悟しとけ!」
ということで、王都の衛兵VSマイナミ商会のツィンベッロ大会が開かれることになった。
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