第44話  魔法構造計算

屋根造作も終わり、社屋建設は躯体工事にかかっていた。

次々と積み上げられていくアマルガムには、魔法士の呪文詠唱による、ゲイアサプライヤの作用によって、次々に命を吹き込まれていく・・・が。


「メテオスさん。やっぱりダメですね。強度が出てません。」


吹き抜けの部分。

構造上、心配だった部分の梁の下の壁面の上端部をシェーデルが押してみると、ゆらゆらと揺れてしまう。


「やっぱりだめかあ。梁の強度と上階の荷重を持たせるにはこの術式とカタチじゃだめか。やっぱり魔法力が足りないんだねえ。」


レ・ブン商会から供給される大型ゲイアサプライヤを使う場合は積みかたや魔法式の組み方なんかは気にしなくても、<適当に>積んでいくだけでも、それなりにがっちり組上がっていた。

今回のように小規模出力のサプライヤを使う場合は部位ごとに強度を保持させなければいけないので、場所によってがあちこちに出てきてしまう事案が起き始めていた。


「アカリ、やっぱりこの術式じゃダメだ。書き換えるから、悪いけど、この術式消してくれ。」


「はあい!」と返事があって、緑色のローブを羽織った<魔法士>あかりが<スクレッパー>のような先端に平たい刃物の付いた機器で、メテオスの指示のあった部分の魔法式を削って消していく。


「どうだい?色男の考えた方式は?」


現場の様子を見に来ていた、ペペ大おばさんが、悩むメテオスに声をかける。


「うーん。難しいねえ。まずは、梁下の魔法術式の検討かね?このままじゃ、人が乗るどころか、躯体の強度すら保てそうもない。」


決して複雑な形状の建物ではないし、小規模とはいえ、強度を保つために必要なゲイアサプライヤからの魔法供給量は計算上は十分であるにも関わらず、<魔法伝導率>の問題か、魔法術式を要所要所に適切に記載して、魔法力を増幅させてやらないと、強度が不足してしまう。


「サプライヤを増やすのはだめなのかい?」


ぺぺが問いかける。


「ダメなのよ。あのオトコは一見、軟弱そうな優男に見えるけど、一旦決めたら絶対に変更は認めないわよ。特に着工前の打ち合わせで決めたものに関しては絶対ダメよ。」


メテオスが首を振り、あかりが答える


舞波工務店の仕事でも<壁量を増やそう。>梁の<せい>を大きくしよう。と安易に申し出をした構造設計士が<事前の検討>でGOを出した責任上、。と、数回にわたる<ダメ出し>をされ、再検討を何度も要求するのを、あかりはよく見かけていた。

その構造設計士は、後半は半べそをかきながら、壁や柱の追加を嘆願する・・・。といったこともあった。


あかりの話を聞いたメテオスはぞっとして、


「ああ。じゃあ、もう少し余裕持たせて言っとけばよかったかねえ・・・?」


「あ、それもだめ。専務イスミは、そういうのはすぐに見抜くから。特に魔法式はわかんないけど、魔法量の流れかたとか強度については、安西先生とかなり厳密にやってたから、余計に数を増やしたら、その時点で見抜かれるわよ。」


大泉学園町の事務所で、既存の構造計算ソフトを応用して、して、計算していたという話をこちらの世界風にアレンジして、メテオスに話す。


これは決して、いすみが意地悪をしてるわけではなく<意匠サイド>の者が、簡単に<構造サイド>の要求に答えてしまうと、建物の意匠がどんどん崩れていってしまうのだ。

ある程度で妥協することは必要だが、安易に<構造サイド>の言うことに従ってしまうと、壁だらけ、柱だらけの建物になってしまう。

だから、<意匠>と<構造>の間に立つポジションの者は、双方をよく理解した上で<変更は認めないよ。>というスタンスを原則的にとらなくてはいけない。


意匠サイドも同様で、安西の思い付きの変更を次々と行っていたのでは、せっかくメテオスの検討した<構造案>もパアになってしまう。

華江が安西の変更を安易に認めないのは、こういった理由もある。


特に、今回はサプライヤを安易に増やしてしまうと、ゲイアサプライヤの収納庫ばかり多くなってしまう。

安西の設計では、サプライヤの収納庫も、設計意匠に反映されているので、安易に増やすと、それを崩しかねない。


「しょうがない。アタシも手伝うから、術式の検討をもう一回やろうか。理屈では、これで構造が成立するはずなんだけどねえ。」


ぺぺの言う通り、アマルガムに記載している<魔法術式>は、理論上は、ゲイアサプライヤの魔法量を適切に伝えてくれるはずだが、アマルガムの積みかたや、形状によって、ロスが出てしまうようだ。


そのせいで、今回、アマルガムに記載されている<術式>は、ぺぺのところで、一般販売しているような<縦><横>といった簡単な作用がするものではなく、かなり複雑なものが書かれているものが多い。

いわば、ほとんどがワンオフ特注のアマルガム。という様相を呈している。


「こんな複雑な術式の組み合わせも初めてで、大変だけど、これこそが魔法士の仕事だよ。いいんじゃないかい。」


建材屋を開業する前は、<魔法士>だったぺぺは、久しぶりの純粋な魔法士仕事に張り切っている。


「そうだね。アカリは術式の記録をしっかり記録して、イスミに伝えて、その<方法>計算ソフトに落とし込めるようにしておくれよ。」


メテオスがあかりに指示を出す。


「わかりました。」とあかりは答える。


今回の建築計画は、建てるだけが目的ではなく、現在受注している今後の仕事にフィードバックする必要があるのだ。

そのため小規模サプライヤの出力、アマルガムへの強度の分散、それに伴う「正解の術式の模索、決定。」をする必要がある。


若干、建築施工ペースは落ちるが、絶対必要な作業なので怠るわけにはいかない。


シェーデルに、術式を消した部分の仮補強を頼んで、は、ぺぺの建材店にしつらえた、工房へ向かった。


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