第45話 災厄をもたらすオトコ
作業を終えたあかりとメテオスの2人は、メテオスの魔法士工房兼自宅に戻ってきた。
年齢的にも同じくらいであるし、気性が似通っている2人であるので、こちらの世界にいる間はなんとなく、あかりはメテオスの自宅に泊まることが多くなっていた。
魔法灯の明かりを点け、ひとごこちついたところでメテオスがあかりの背中に声をかけた。
「アカリ、聞きたいことがあるんだけどさ。」
「なあに?」
ローブを脱いでハンガーに掛けつつ、あかりがメテオスに答える。
「ハナエはイスミのなんなんだい?」
2人の間の取り決めでもあるのか2人のことはこちらの世界の人達には公式には伝わっていない。
華江は我々の世界でも日々、そういった線引きをきっちり行っていたため、あえて2人の仲を公にしてはいない。
あかりはいすみが異世界の現調から帰ってきたとき「いすみさんは疲れているんだから、カレーを置いて、会わずに帰ってきた。」という華江の話しを聞いて、「あんた、いい子過ぎ!3カ月もあたしをほっといて、寂しかった!!って叫んで泣きなさいよ!専務に抱きついて、ひっぱたきなさいよ!!」と怒ったこともあった。
3カ月、心配と寂しさで身を切られる思いだっただろうに。
彼女があまりにも<物わかりがよく、いい子過ぎる>のは問題だ。と常々思っていた。
一度、いすみに改めて説教してやろうかとも思ったが、いすみや周りのことを考えて、自分の気持ちを押し隠して立ち回っている華江の気持ちを考えるとなかなか難しい。
だが、もう少しワガママであってもいいだろう。自分を出してもいいだろう。と常々不満を持っていた。
「そうよ。華江は専務・・・。いすみの婚約者よ」
「・・・やっぱりな。あの男は余計なこと一切話さないから、はっきりしないんだよな。」
「まあね。ああいう男をわたしたちの国では<イケメン>って言ってね、<イケメン>っていうのは、あっちこっちのオンナに<災厄>を振りまく存在って言われて恐れられているのよ。わかる?」
「・・・よくわかるよ。ああいう男は本当に迷惑なんだよな。」
メテオスもそれなりに、自分の腕と才覚だけで稼ぐ立場の魔法士としても、女性としても、それなりの修羅場を含む人生を歩んできたから、華江といすみの関係を聞いても特別うろたえることはない。ただ・・・・。
「アタシもイスミには惚れてんだよな。でもアカリはハナエの味方なんだろ?」
「そう簡単には言えないわね。もちろん、華ちゃんは、あたしの大事な後輩だけど、あなたはあたしの師匠だし、すごく素敵だし。」
「まあな。でも、あのハナエもいいやつなんだよなあ。周りへの気遣いもできるし、現場での動きもいい。こないだ、アンザイを怒鳴り付けたみたいに、行動にもいちいち筋が通ってる。アタシたちの国のオンナにはなかなかいないタイプだ。イスミが惚れるのもわかるよ。」
安西を怒鳴りつけた時の華江の態度をメテオスは思い出す。
「で、どうするのよ?」
工房の作業テーブルに2人分の発泡酒のような飲み物を持ってきたあかりが、椅子に深々と腰掛け、肘をテーブルに着き、顎を載せて、ちょっと意地悪な口調と目つきでメテオスに対峙する。
あかりの運んできたカップから飲み物を一口飲んで、メテオスは話し出す。
「今までもライバルのオンナからオトコを奪い取るようなことをやってこなかったとは言わないけど、ハナエにはそんなことはできそうもないな・・・。」
あかりと視線を合わせ、メテオスは答える。
「まあ、しばらくは様子見かな。男と女の関係なんかどこでどう転ぶかわからないし、流れに任せるようだね・・・。まあ、いつものアタシの流儀じゃないけどね。」
あかりもカップをとりあげ、カップ半分ほど入れた発泡酒を飲み干す。
「へええ。あんたはいいやつだね。」
「イイオンナじゃないのかよ?!」
「そうね。いいヤツだよ」
と、メテオスに笑顔で答えながら、胸の内では、またこれだよ。とあかりは思っていた。
このパターンで山のような数の想い人を量産してきたのが<舞波いすみ>という男なのだ。
冗談めかしてメテオスには言ったが自分自身もそうであったようにこのままだと、
ここはわたしが<これ以上、被害者が出ないように、食い止めなければ!>と強く思うあかりだった
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