第3章 異世界工務店 領事館建設編

第52話 王と謁見-1

いすみは、先日完工したマイナミ商会社屋で図面を描いていた。


いよいよ着工する領事館の図面で、今回は魔法力やゲイアサプライヤは一切使用せずに建てる予定なので、我々の工法で構造図を作成する。

新築事業も好調なので、ドワーフ達の技量も格段に上がり、金物を多用しなくても、仕口だけで構造を組むことができそうだ。


また、資金的にも新築事業が好調なため、クライアント日本政府の負担も大幅に減り、ほぼプラスマイナスゼロで建てることができるようで、税金をもとにした資金もほとんど使用しないで済みそうだ。


そんなある日、マイナミ商会社屋にものものしく訪れた一団があった。


「おい!マイナミ・イスミはいるか!」


なにごとかといすみが席を立ち、設計スペースの吹き抜けの上から覗き込む。

マイナミ商会事務所に飛び込んできたのは、王都の衛兵達だ。

いすみは1階に降りて、衛兵に応対する。


「はい、私がマイナミ・イスミですが、なにかご用でしょうか?」


「聞きたいことがある。同行してもらおう。」


ガンボの町の衛兵と同様、王都の衛兵も、王様の直轄軍隊であるので、町の治安維持もおこなっている。

警察力も担っているはずなので、ただごとではない。


「ちょっと待てよ。こっちにはあんたらに連行されるような負い目はないぞ。」


<マイナミ自警団>として、マイナミ商会の警備も行っている長谷部が飛び込んできた衛兵といすみの間に立ちふさがる。


王都の<衛兵>として、治安維持を実質担っている王都の衛兵だが、法的に認められた警察組織ではないため、裁量に不満があれば逆らうこともできるし、交渉もできる。


この世界では、あくまで力のあるものが警察力なのであって、自分たちにそれ以上の力があれば、従う必要もない。

いたずらに争う考えはないが、自分たちの立場と、財産、地位を守るためには、アルテ・ギルドの庇護だけでは足りない。といういすみの考えのもと、「マイナミ自警団」は設立され、長谷部が団長として取り仕切っている。

最近では結構な大所帯になっているので、詰所を商会の裏手に増築中だ。

彼らは普段は現場作業員として働いていているので、運用上も、有事の際は駆けつけてこられるので都合がよい。


「そうだ。専務を連れて行きたいのなら、その理由を述べて、納得させてから連れて行くのが道理だろう。」


<副団長>のレグリンが元衛兵の立場から、王都の衛兵に抗議する。

さらに、詰所に居た、筋骨隆々の若者達が、衛兵の一団を取り囲む。


ガンボの町の長谷部の戦いと、<百人殺し>の噂が、衛星都市だけではなく、王都にも響き渡ったため、長谷部のもとで強くなりたい。という多数の若者がマイナミ自警団に多数入団している。

そんな血の気の多い若者たちだ。


対して、王都の衛兵は装備や物腰は上等なものだが、衛兵に必要な<うでっぷし>では、彼らにかなうとは思えない。


「・・・・王からの呼び出しだ!逆らうとタダでは済まんぞ!」


めいっぱいの虚勢を張って、使いの衛兵は叫ぶ。


「ほう、どうタダでは済まないか、やってもらおうか?」


衛兵を取り囲んでいる、レグリンをはじめとした、マイナミ自警団の面々の包囲が徐々に縮まっていき、王都の衛兵達はもう、顔面蒼白だ。


「やめてください。」


いすみの凛とした声に、マイナミ自警団の面々の動きが止まる。


「レグリンさん、みなさんを解散させてください。衛兵の方のお話しをまずは聞きましょう。」


「わかりました。解散!」


いすみの指示にレグリンは一同を解散させる。


いすみは衛兵たちのリーダーらしき一人を応接スペースへいざなった。

衛兵のリーダーは所在なさげに、いすみのあとに続く。

その後ろでは長谷部がしっかりにらみを利かせている。



◇◇◇



「俺もなぜ、王がお前を王宮に呼べばと言われたのか理由はわからん。俺たちには任務の命令が下るだけで、その目的までは知らされないのだ。」


現場レベルのリーダーへの指示など、その程度だろう。


「わかりました。ただ、さきほど、<王様>の呼び出しとおっしゃいましたね。」


「ああ、そうだ。詳しくは聞かされていないが、特に犯罪行為や咎めで呼び出しているのではないと思う。最初に手荒な真似をしたのは謝罪するので、なんとか同行してもらうことはできないか?」


彼としても、いすみを連れてこなければ、自分の任務を達成できないので困るのだろう。

町の小商会の幹部の一人くらい、衛兵の威厳をもってすれば、震えあがって従うだろう。と思っていたのが甘かった。

長谷部が薄笑いを浮かべて、大汗をかいて弁明する衛兵の男と目を合わせた。

彼は震えあがって視線をそらす。


「わかりました。同行しましょう。」


「ほ、本当か、それは助かる!」


もう、王の衛兵の威厳もなにもかもかなぐり捨てた彼が喜ぶ。


「ええ?専務、大丈夫ですか?王様とはいえ、別に従う必要なんかないんですよ?」


長谷部がいすみを心配して言う。


「大丈夫だと思います。それに王都で活動をしている限り、いつかは政府の関係者とお話をしなければいけないと思っていましたし、今後のクライアント日本政府の活動にも役に立つと思いますしね。」


以前、六代に頼まれた交渉のきっかけが向こうから来たのであれば、請けておくのもよいし、これだけ脅かしておけば、あちらも無茶な行動はとってくることはあるまい。といずみは考えた。


「わかりました。じゃあ、俺も一緒に行きます。」


「それは大丈夫です。それに、あなたはいろんな意味で有名人すぎますので、王宮に入る前にひと悶着になるかもしれません。そうなると、ややこしいことになりますから。」


長谷部の同行の言を断ると、いすみは衛兵たちと出て行った。


「・・・レグリン。すぐ動ける連中を10人。あと、お前もついて来い。」


「え、専務はついてくるなって・・・・。」


「聞こえなかったか?」


「了解しました。腕の立つものを10人、至急揃えます。」




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