第34話 異世界の建材

事務所の裏口から外に出ると、アマルガムが大量に積まれていた。

この世界のメインの建材は、やはりこのアマルガムであるようだ。


「ガンボでも言っていたけど、アマルガムにもいくつか種類があるんだよな?」


田尾が、ガンボの町でメテオスに聞いた、アマルガムの種類について復習をはじめた。


「そうだね。種類・・・。というよりも、魔法の種類の刻印の違いだね。」


メテオスは、アマルガムが積まれている山を廻り、数個のアマルガムを持ってきて、いすみと田尾に見せる。

最初にメテオスがさしだしたアマルガムには、魔法式の刻印が入っている。


「こんな風に、刻印が入っているのが一番多いだろう?この刻印が、略式の魔法式になっていて、縦方向への魔法の指向性だったり、横方向の魔法の指向性を示すもので、一番多く使うものだから、事前に刻印を打っておいて出荷する。」


メテオスが示した、アマルガムが積まれた資材置き場の片隅にある作業小屋では、のような魔法機器を使って、アマルガムに刻印を打っている職人たちがいる。


「各部位への必要個数の拾いだしも、魔法士の役目だけど、ガンボの町の建物ぐらいだったら、ゲイアサプライヤーをそれなりの出力のものを使えれば、、あまり、気を使って拾いだしをする魔法士は、最近はそんなにいないね。」


「ただ、ゲイアサプライヤばっかりに頼って建ててると、よけいな場所ばかりに強度が集中することがあったり、広い建物だと、強度がいきわたらなくて、いきなり床が抜けたりもすることがあったりする。その辺は魔法士の腕とモラルの問題だけど、適当に積んで、出力のデカいゲイアサプライヤまかせで終わらせてしまう、魔法士のはよくないね。」


この世界でも、建築士のモラル的なものとか、技量不足による、欠陥建物問題が起きてるんだ。といすみも田尾も思う。


「そんな風に、<ゲイアサプライヤでいいんだから、何でもいいから、アマルガム持ってくりゃいいんだよ!>っていう客、魔法士が多くなってきてるんだけど、ぺぺ大おばさんのところは、こんな風に、いろんな種類の刻印を打ったアマルガムを選別して、常時出荷できるように、在庫をしている。ワルイ商店だと、適当に刻印を打って、しているところも多くなってきたがね。」


「最近では、アマルガムのができない魔法士も増えてきたから、ぺぺ大おばさんが建物の図面から、アマルガムの種類を拾い出して、出荷数を出してやる。なんてこともやってるみたいだけど、それじゃ、魔法士はただの魔法供給屋になっちまう。」


「ぺぺ大おばさんも、前は魔法士だったから、そんな傾向とか、住む人のことを心配して、そんな手伝いをやってるんだろうけど、あんまり、そんなことをやってると、魔法士の質が落ちるから、あたしはやめろ。って言ってるんだけどね。」


ここも、おれらの世界と一緒だな…。と2人は思う。


自称<建築家>のが、美しい平面図とパースだけを持ってきて、<これで見積もりをしてくれ。>と依頼される。

見積もりもなにも、構造の検討も、住設のおさまりの検討もされておらず、ひどい場合だと、建築法規をまったく無視したつくりになっていたりする。

しょうがないので、いすみたちが、<センセイ>の意図をなるべく反映した形で、図面を修正し、法規をクリアし、実施図面をつくって、見積もりを作って、施主さんと打合せも行って、建ててやる。

すると、それに味をしめた<センセイ>は、その後は、パースと、書きなぐったフリーハンドの図面のみを渡し、<あとは、施主さんと相談して決めてくれ>と依頼してくるようになった。

<センセイ>は、完工引渡しまで、一度も顔を見せなかったにも関わらず、設計料を満額、施主さんから受領した・・・。なんていうケースが頻発していた時期もあった。


<なんでもかんでも建築家にさえ頼めばいい!>という異様な<建築家ブーム>の熱気が落ち着いた現在は、そんな乱暴な依頼をしてくる<センセイ>もほとんどいなくなったが、(まったくいないわけではないが・・・。)この世界でも、今がそんな過渡期なのかな?とも思う。


「あとは、このなにも書いていない刻印のアマルガムは、複雑な納まりとか、特別な強度を持たせたい部位に使うときに使う。こないだ、タオに見せたように、それぞれに必要な魔法式をアタシらが書いて設置する。どの部位に、どんな術式を書くか判断、選別するのも、魔法士の仕事だし、把握してなきゃいけない技量と知識だね。

あかりにも、そのへんをきっちりと仕込ませてもらうよ。」


刻印の書かれているアマルガムが、<既製品>の建材で、書かれていないものが、<オーダー>の建材という位置づけのようだ。

ボルトや建築金物を使わない工法ではあるが、魔法の特性と、指向性を理解して、ベターな選択肢を適切に組み合わせていくことこそが、この世界の工法のキモであり、きっちりと仕事をしている魔法士や、建材店は、最初に、この世界で自分たちが感じたような、魔法頼りのいい加減な建築仕事をしているわけではないことを、いすみも田尾も理解した。








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