第33話 建設市場

躯体の木材である、<カリュクス>は調達できたが、基礎と、内外壁に使用する、<アマルガム>と、小規模出力のゲイアサプライヤーは、しかるべきところから仕入れる必要があった。

メテオスに連れられ、いすみと田尾は、王都の建材屋に向かっていた。


「アルテ・ギルドからは、マイナミ商会が、建材を仕入れることに関して、話がついているはずだから、大丈夫だとは思うけど、は大事だからね。」


ということで、メテオスが同行してくれることになった。


建築に関しては、魔法でなんとかなってしまうことが主流のこの世界ではあるが、アマルガムをはじめ、建材や、アマルガムの蒸着材等、建築に必要な物資は多々あるので、建材屋もきちんと商売をしている。

建材屋は、王都の外れ。というか、外縁ぎりぎりのところにあった。

王都の外から入ってくる建材を、すぐに流通のための整理にもちこむための当然の配置だ。


「大おばさん、久しぶりだねえ!」


建材屋の事務所に入るなり、一番手前で、帳簿のような紙面に目を通していた、大柄な女性にメテオスは声をかける。


「おや?珍しいのが来たよ。どっかの新参商会と大仕事をするって噂を聞いたから、もう、こんなちんけな建材屋には来ないと思ったよ。」


「んなことないよお!あたしは、ここ以外で建材買ったことないのは、大おばさんも知ってるだろう?イスミ、イルナシオ商会の親分の、<ペペ大おばさん>だ。アタシが駆け出しのころから、世話ンなってる。」


<大おばさん>は、いすみをじっくり観察したあと、右手をさしだす。


「まあ、いい男だねえ。メテオスが夢中になるのもわかるよ。ペペ・ドナルティだ。」


「マイナミイスミです。」


握った手のひらは、つややかではあるが、分厚い。

この人も、<仕事をしてきた>手をしている。


◇◇◇


<ペペ大おばさん>は、年のころは、50代くらいか。

いかにもたたきあげの物言いといい、腰の座りかたといい、貫禄を感じさせる女性だ。

気の強いメテオスが、一目おくのも納得だ。


資材があわただしく積み込まれていく荷物の集積場を見下ろせる、一段上がった、仮設のデッキに置かれたテーブルに移動して、人数分の茶が振る舞われた。

ガンボの町でも飲んだことのある、鼻をつく刺激臭の茶だ。

最初はきついが、労働の合間に飲むと、刺激臭が身体の疲れをとってくれるような気がする。


「あんたらのことは、エドガルドから聞いてるよ。あのレ・ブン商会にタテ突いたんだって?」


「いや、タテ突いたということは、決してないのですが、我々の仕事のやり方と差違があるのと、我々の仲間に危害を加えたこと。そして・・・。」


いすみは、一呼吸おいて、改めて、に対峙する。


が、あったので、それに対したまでです。」


いすみの言葉に、彼女は腕を組んでうなずく。

王都で、5本の指に入る大商会に対して、<約束>を武器に立ち向かおうという、この男に、ペペ大おばさんは、好感を持ったようだ。


「そうだね。商売をするうえで、一番大事なのは約束だ。あんたらは他の国の人らしいけど、それは、どこの国でも変わらない。だましあい、すかしあいは必要かもしれないけど、<約束>を反故ほごにしたら、そのときから商売じゃなくなる。あとはケンカになるしかない。」


「あの商会の今の親分は、ありゃだめだ。そこを、ちっともわかってない。」


エドガルドが言っていたことと、同様のことを、ペペも言う。

レ・ブン商会の悪評は、あちこちで広まっているようだ。

これは、高橋達が対処できるような相手ではなかったし、そんな連中がファーストコンタクトの相手だったとは、不運というほかはない。


「あんたらの新しい建築のやり方は、色々聞いてるから期待してるよ。必要なものは、きっちり用意するからね。」


ひととおりの話をきいたところで、この世界の建材について、あらためてレクチャーを受けるべく、メテオスに連れられて、いすみ達は、イルナシオ商会の倉庫へ向かった。




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