第29話 勇者ロラン

魔法を通す木材、カリュクスに関しては、王都の近くの森に、群生しているというので、まずは数本切り倒して、「門型フレーム」を1セット作ってみることにした。


「ここだよ。」


メテオスに連れられて、いすみ、田尾、安西。<アルテ>から、ギルドとの交渉の際、同席していたアウグスト達は、「森」の入り口に着いたが、アウグストを除いた3人は、その巨大な樹木にあっけにとられた。


「でけええーー!」


田尾のストレートな感想の通り、カリュクスの木は、高さが50Mほど、木の太さは・・・。人間が10人ほど手をつないで、ようやく幹回りを回れるか。というぐらいの太さだ。

アメリカの「セコイア国立公園」のセコイアの木ほどの高さ、デカさだ。

そんな木が見渡す限り・・・。というか、向こう側が見えないほどの範囲で生えている。

まるで、進○の巨○で、主人公たちが、飛び回って、巨人と戦っていた森のようだ。

足元に落ちている松ぼっくりみたいな実も、人間のアタマの4倍ぐらいの大きさで、気持ち悪い。


日本人からすると、木材は貴重な資源であるので、そんなお宝が、王都からこんな近くで活用されずに、放置されているというのは信じがたい。


「でかいわりには、魔法力の導通とか、接合の強度はアマルガムほど強くないから、加工の手間がかかる割には、使い勝手が悪いんで、誰も手をつけないのさ。」


メテオスがざっと説明する。


「こりゃ、使い放題だが、どうやって加工するのか・・・。」


カリュクスの木のあまりのスケールの大きさに、安西も言葉を失う。


カリュクスの木が、ここまで大きいのがわかっていて、一同を連れてきたわけだから、なにか方策があるんだろう?と、安西がいすみに聞く。


「それについては。」といすみ。


「いい方法があるんだよ。」と、いすみの言葉を引き継ぎ、メテオスが、で、アウグストを見る


◇◇◇


勇者<ロラン>は、王都を出発した。


彼は300年前に「魔王」を倒した勇者の末裔で、その身に受け継がれた、勇者の力で、時折、出現する魔物や異形のものの討伐を請け負っている。

今の世界は、平和になったとはいえ、人々を苦しめる災厄がまったくなくなった訳ではないため、勇者の名を受け継ぐものとしての生まれながらの使命と責務を、日々、担っている。


しかし、父親から<勇者>の名を受け継いで、数十年。魔物はもとより、スライムのような小モンスターですら、現れることは、最近はまれで、彼の本業である<討伐仕事>はほとんどなく、建設現場での日雇いのような労働が、主な生業となってしまっている。


そんなある日、久しぶりに、<討伐>の仕事依頼が舞い込んだ。

それも、王都の大ギルド<アルテ>からの依頼だ。


依頼内容は「王都のために、どうしても<倒して>ほしい相手がいる。」ということで、このカリュクスの森にやってきた。


巨木が立ち並ぶ森は、昼間でも薄暗い。

モンスターがどこに潜んでいるかもわからないので、師匠である、父から受け継いだ、聖剣<グラム>の束を握りしめ、周囲に警戒を怠らないように、進む。


と、人影が見えた。どうやら、敵は人間ぐらいの大きさのようだ。

間合いの外から、一気に跳躍して、一撃!


「あ、お待ちしておりました。勇者ロランさんですね。私は、マイナミ商会のマイナミイスミと申します。」


いきおい余って、前方回転転倒してしまった。

倒れこんだままのロランの前に立っている、端正な顔立ちの青年が、名前が書かれた紙片を渡してくる。


全身にくっついた落ち葉くずを払いながら、立ち上がって自己紹介する。


「・・・ああ、私がロランだ。それで、<どうしても倒してほしい>相手とは?」


◇◇◇


「ギガストラッシュ!」


閃光一閃!!

勇者の一振りで、太さ10Mはあろうかという、巨大なカリュクスの木は倒された。


おー!すごいもんだ。田尾と数人のドワーフから、やんやの歓声と拍手があがる。


倒れたカリュクスの木に、ドワーフ達がさっそくとりつき、田尾の指示のもと、<墨付け>を行っていく。


「ロランさん。次は、この墨の線にあわせて、裁断していただけないでしょうか?」


「ちょっと待て、マイナミ商会のイスミとやら。私は倒してほしい相手がいる。というから、来たのだが?」


「はい。ですから、<倒してほしい相手>はこれです。」


いすみの視線の先には、巨大なカリュクスの木。


「倒してほしいと言っても、魔物でも、モンスターでもないではないか?!」


「はい。ところで、ロランさん。報酬はこのくらいでいかがでしょうか?」


◇◇◇


「ギガダブルアタック!」


「ミレニアムシューぺリオン!!」


「ロランライジング!!!」



次々と繰り出される、勇者ロランの渾身のアタックで、木地は残っているものの、5M×5M。厚み10CMぐらいの板材が次々に形成されていく。


「舞波いすみにかかっちゃ、勇者様もただの建設機械か。それにしてもすさまじいもんだな。」


安西が、あきれていすみに言う。


「で、これをどう運ぶ?」


安西の質問に、


「じゃあ、メテオスさん。」


メテオスが持ってきたのは、例の一輪大八車8台が、4組。

それぞれ、赤黒い、牛と馬がまざったような、脚の太い、力の強そうな獣が、それぞれ4頭づつ、つながれている。


「強化魔法に、積載可能量の制限は、実用上は無いとのことです。ですから、この板も、十分載せられるはずです。8台の荷車で、加工所まで運びます。とりあえず。3回もピストンすれば、今回の工事分は足りるでしょう。」


勇者ロランの<聖剣>と、<聖なるアタック>で加工された板材は、王都に借りている、マイナミ商会の加工所へ、ドワーフたちによって、運ばれていった。


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