第14話 水平とカネを出そう。

「ええい!レベルもカネ直角も出てないのに、やってられるか!」


田尾が切れた。

常に正確な数値、基準を出しつつ、毎日の作業を行っている田尾やいすみにとっては、このいい加減な状態での作業はすさまじいストレスになっていた。


翌日もひたすらレンガもどき積みの作業だが、相変わらず、人間は働かないわ、ドワーフ達は積んでは崩すで、好き勝手に積み上げていくから、効率が悪いことこの上ない。

とにかく、この世界では、多少のいい加減な作業をしても、魔法という神通力があるので「だめだったら、やりなおせばいいだろう。」というのが、一事が万事の行動基本方針なので、こんなやり方が定着しているようだ。


「田尾、長谷部さん、ちょっと手を貸して下さい。」


朝の1回目の休憩時間に、いすみは30CM角くらいで、1CM厚ぐらいの板と、銅で出来たパイプ。直方体のを持ってきた。

近くの森に転がっていた1mぐらいの高さの切り株を3人で、建設中の躯体の中央に据える。


の下端から3/4の高さで、印を付け、ますの内枠に正確に同じ高さで線を引いておく。

切り株の上に、レンガもどきを4つ置いて、板を載せ、水を入れたますを載せる。

ますの中の水が、すべてますの中の線に合わさるように、板の下に木片や石を入れて、調整していく。

線と水が合わされば、ますは水平ということになるので、ますを置いている板も水平ということになる。


建設中の躯体の4隅に、棒を立て、板の上に、まっすぐな銅管を置き、銅管から、棒を覗く。


銅管の上端でも、下端でもいいが、基準となる点を、棒の脇にいるもう一人に指示して、釘等で傷を付けさせ、それを4本繰り返す。

その傷に糸を張る。それが、次に積んでいくべき材の水平な高さになる。

一段積めたら、等間隔で、その上に次の印をつけ、そこに糸を張りなおし、また、積んでいく。

これを繰り返せば、概ねではあるが、高さの基準ができ、無駄な動きは減っていくはずだ。

昨日、いすみが町で調達してきたもので作った、簡易水平器だ。


基準を定めると、勤勉なドワーフの作業効率は抜群に上がった。

あっという間に、糸までレンガもどきを積み、早く早く次を!と催促をする。


次に、酒屋というか、飲料を売っている店でもらってきた、幅10CMぐらいの板を用意。


「田尾、レザーマン出してくれ。」


交渉だけのつもりで来たので、専用の工具類は持ってくることはできなかったのだが、開くとプライヤ状の工具になり、その他、ハサミやドライバーがついている「レザーマン」と呼ばれるマルチ工具と、5Mのスケール(メジャー)は、現場監督の嗜みとして、2人は常に身に着けている。


「レザーマンツール」は様々な種類があり、用途ごとにタイプがたくさんある。

いすみが持っているのは「ウェーブ」と呼ばれるタイプで、プライヤー機能のほか、ハサミや缶切りなどが、備えられている一般的なものだ。

いすみは、専用の作業は、専用の工具でおこなえばいい。という考えなので、あくまで、非常用として、オールラウンドなこのタイプを持っている。


いすみに言われ、田尾も自分のレザーマンを取り出し、いすみに渡す。

田尾のものは「サイドキック」と呼ばれるタイプで、

田尾は、細かい作業はいちいち車に工具を取りに行くのが面倒なので、多少の切った張ったをする場合は、身に着けているこのツールで済ませるため、鉄鋼やすりや、大型ののこぎりがついているこのタイプを好んで持っている。


長さ1.8Mぐらいに、板を切りそろえ、それぞれ統一した基準点から、90CM、1.2M、1.5Mの地点に、印を付け、90CMの印の板と1.2Mの印の板を、根元で釘で固定する。

3枚の板、それぞれ、基準点をまたぐように、糸を張っておく。

1.5Mの板を、90CM、1.2Mの板に長辺となるように、すべての目印と糸が交差するようにあわせ、合ったポイントで、3点を釘で固定すると、大きな三角定規のような、直角を出すツール。<大矩オオガネ>をつくることができる。


これを使えばX、Y、Z方向ともに、直角、水平を出すことができ、先ほどの糸で、基準の高さが決まったところで、大矩にあてつつ、レンガもどきを積んでいけば、崩れることなく、垂直に積んでいくことができる。






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