第13話 お仕事開始
王都から大八車もどきの移動。
概ね、2時間程度離れた湖のほとりの町の外れが現場だった。
「現場」は、東京で主に現場をやっているものにとっては、とてつもなく広く感じる・・・。というか、どこまでが敷地かの、明確なポイントなんか、どこにもない。
「おい!いすみよ!敷地広いぜおい!斜線も建ぺいも、容積も気にしなくていい!こりゃ、建て放題だ!!」
最近の東京の住宅事情では、敷地面積が20坪(66㎡)を越える現場なんて、めったにお目にかかれないから、広く、境界線なんかない敷地に田尾がはしゃぐ。
いすみも恥ずかしながら心が踊る。
「メテオスさん、ここはなんの建物を建てているんですか?」
「お役人の小屋兼倉庫・・・。というより、中継所だな。ほかの町から届く物資を、一旦、ここで臨検して、手数料をいただく・・・。って用途ってとこだな。」
建物の大きさは、4間(7.28m)×5.5間(10.01m)で、建築面積は22坪ほど(72㎡)×2階建て位のボリュームだ。
建物の外形に合わせたらしい糸が、地面に張られているが、
見たところ、そういった基準を計測する測定器の類いは見当たらず、2辺が3段程度積まれている、例のレンガもどきは、以前に街で見た建物のように、表面が凸凹で見た目が悪い。
「なんだよ、この時間に来たのにこれだけしか出来てないのかよ。これじゃアタシの仕事が無いじゃないか!」
現状の進み具合を見て、メテオスが不満を漏らす。
我々の世界で基礎工事を行う場合、「根切り」と呼ばれる溝を幅60センチぐらい、深さ40センチ程度掘って、砂利や捨てコンクリートと呼ばれる薄いコンクリートをベース面にして、基礎を作るが、ここでは基礎らしきレンガもどきは、地面に置かれたままだ。
このまま積み上げていったら、間もなく倒壊する。
「いすみよ。要領がわかったな。」
現場のおおよその状態を把握して、田尾が言う。
「ああ、例の強化魔法を使えばいいから、根切りもしなくていいし、いいかげんな積みかたでもいい。多分、メテオスさんは、ある程度レンガもどきを積んだところで、施工用の強化魔法で材料を固めるって段取りなんだろう。
だから、ある程度現場が進まないと仕事にならないから、ゆっくりと現場到着したんだろうな。」
「まあ、俺たちも始めようか。」
ざっと現場をみわたして、要領をつかんだいすみたちは、レンガもどきを積む作業を開始する。
どうやら、監督もいないようで、それぞれが好き勝手に、形状もまちまちのレンガを積んでいる。
作業員のほとんどは、筋骨隆々のドワーフ達で、彼らはとにかくよく動く。ただ、あくまで動く。だけなので、仕事の要領や効率が悪い。
積み損なって崩したり、余計な量の資材を持ってきてしまったり。
少数ながら人間も居たが、彼らは無駄話や、タバコらしきものを吸う休憩が多く、あまり真面目に働いているようには見えない。
無秩序に動き回るだけのドワーフと、やる気のない人間達で、現場はちっとも進まない。
「あー!もう、いつになったら、あたしの仕事ができるのさ!」
メテオスも切れぎみだ。
ようやく、4辺すべてに3段ほどレンガが積まれると、メテオスは建物の真ん中に入り、黒い石を中心に置いて、なにかを唱え始めた。
すると、無秩序に積まれていたレンガが整列し、無茶苦茶な積まれ方のレンガ群が、整然とした高さになった壁が形成された。
「こりゃ驚いた。あれだけいい加減に積んだのが、それなりになってるぜ。確かにこれができるんだったら、構造計算もいらないし、職人のスキルを上げようって気にもならなくなるわな。」
あとで、メテオスに聞いたところ、彼女の仕事は、建物のボリュームに応じた正式な出力のゲイアサプライヤーが来るまで、魔力で躯体を仮に固定することであるらしい。
あの黒い石は、使い捨ての作業専用ゲイアサプライヤ―で、基本的に現場作業中の期間しか、保たないもののようだ。
さらに、1個あたりの魔法力の耐用回数が決まっているので、低い段数しか積まない段階でこまめに使ってしまうと、完成するまで、何個も使わないといけなくなる。
だから、ある程度の高さを積み上げた段数ごとに、使わなければいけないようだ。
工事中にあまりにたくさんの回数、仮固定魔法を使ってしまうと、
できるだけ、強化魔法を使わず、たくさんの段数を積み上げることは、彼女の利益に直結するため、今回のように、3段程度で
「この世界の施工のポイントは、なるべく少ない回数の仮固定魔法で、躯体を完成させ、サプライヤの消費をとにかく抑える・・・。というのが、まずは第1ってとこだな。」
現場の状況と、メテオスの話しから、いすみはこの世界の建築現場の状況を分析していく。
その日の作業が終わると、現場から少し離れた町へ徒歩で移動した。
町には、井戸を中心とした広場があり、その一角に張られた天幕に作業員が並んでいる。
ここで、給金を各自、
いすみ達も「紹介状」を見せて、今日の給金を受け取る。
予想通り、給金は他の人間の人足に比べると2割ほど安い。
差額が例の商会の懐へ流れていっているようだ。
王都に今日帰れない距離ではないが、メテオスの「あたしが宿を手配するから、現場終わるまでこの町にいようよ!」という熱烈な要望に、宿だけは紹介してもらって、宿代は自分達で負担・・・。ということで、話をつけた。
宿代を払うと、たいした金額は手元に残らないが、儲けるのが目的ではないので問題ない。
給金を受け取った作業員達は、町へ繰り出していく。
その日の給金をその日のうちに使ってしまう者も多いらしい。
「宵越しのカネは持たないか。まるで、江戸の職人だね。いすみよ、俺たちも町に繰り出すか?」
二人とも普段から、あまり派手に遊ぶことはないが、現場初日だし、調査も兼ねて町に繰り出すのも悪くないぞ。と田尾は言う。
「それもいいが、ちょっと買っておきたいものがあるんだ。先に帰っててくれ。」
と言い残し、いすみは町へ出て行った。
いすみと一緒に町へ繰り出せると思っていたメテオスは、心底残念そうである。
「なあ、タオ。イスミって1人身かい?」
「ええ、独り身ですよ。」
よし!とこぶしを握り締めるメテオスを眺め、
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