第11話 人足

3人を乗せた、一輪の大八車もどきは街を出た。


「メテオスさん。すいません。我々はこの街に来たばかりで、いまひとつ事情がつかめないんですが、どこへ向っているんでしょうか?」


しばらく走ったところで、いすみが聞いてみた。


「あんたたち、西の方から来たんかい。

じゃあ、<現場>は初めてか。あたしたち、魔法士はある程度現場のカッコがついてから行くから、若干遅めに出てくけど、あんたらみたいに魔法が使えないのは、朝イチで現場にいくのさ。

今日は初めてみたいだからいいけど、明日からはちゃんと自分たちで現場に行くクルマに乗るんだよ。」


「いすみよ。どーも状況が呑み込めないんだけど?」


「俺もわからないけど、どうやら、俺たちは、人工にんくとして現場に向かってるみたいだな・・・。まあ、あの商人にさらに一杯食わされたってとこだろうな。」


「なに?おれたち人足にんそくなの?」


「たぶん、俺たちを現場で働かせて、そのうちの何割かのマージンをレ・ブン商会自分たちが受け取るようなことが、あの<紹介状>に書いてあったんだろうな。」


「あの野郎!やっぱり!」


「まあ、紹介状を書く手間賃+俺たちの人工の何割かを吸い上げる契約かなんかになってるんだろう。さすがに、ここまでやるってことは、これがあいつらレ・ブン商会と俺たちの最後の商売なんだろうな。もう、二度とあいつらは、顔を見せないだろうよ。」


「メテオスさん。すいません。この紹介状ですが、私たちの作業期間って何日ぐらいって書いてありますでしょうか?」


いすみがメテオスに声をかける。


この国に来て間もないので、字が読めないので頼みます。といすみがメテオスに聞く。

改めていすみの容貌を見たメテオスは顔を赤らめつつ。


「・・・ええと今日を含めて、1カ月・・・。」


「「1か月!」」


「でも、メシはつくみたいだよ。」


「飯場に1ヶ月かよ!このトシでいまさら現場でバイトとか冗談だろ?」


「とりあえず、わずかながらでも給金出るからいいだろ。それに、これで労働に対する対価が把握できると思えば、いいんじゃないか?身をもって体験できそうだ。

この世界の仕事の流れも把握できそうだし、そう悪い状況じゃないさ。」


「長谷部さんも申し訳ないですが、お付き合いください。ちなみに建築現場の経験ってありますか?」


「建物を建てたことはないですが、施設科の訓練は受けてますから。陣地構築で鍛えた自衛隊仕込みの土木技術を見せてやりますよ!自衛官は土木作業の専門家でもあるんですから。あ、そうそう、俺、ユンボも使えますからね。」


この世界にユンボはねえだろうなあ、と思いながら、田尾が口を開く。


「しょうがねえなあ。久しぶりにいすみと現場やるのも悪くねえか。せいぜいこっちのうまい飯食って楽しむか。」


彼等の妙な会話に違和感を覚えつつ、いすみの横顔をチラチラ眺めるメテオスだった。

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