第8話 現地調査
「うーん。なんというか、2人とも似合っているんだけど、似合ってるニュアンスが違うわね。」
現地調査をするにあたって、目立たないように、現地の服装に着替えた田尾といすみを見て、あかりは苦笑い混じりの称賛を漏らす。
そう、二人とも、現地の服がすごく似合うのだ。
ただ、似合い方が絶望的に違う。
安西のような白いシャツに、ベストの、この世界の一般的な服装のいすみは、スラリとした体型と、端正な顔立ちから舞台俳優のような出で立ちだ。
拠点の建物へ行った時も、事務所にいた女性職員は、いすみが現れると、ほう・・・。と言ったっきりうっとりと黙り込んでしまった。
対して、田尾は、その体型と愛らしい?顔立ちから、この世界によくいる、背の低い、体格の良いドワーフみたいで、もとからこの世界の住人だといっても、いすみとは別の意味で信じてしまいそうだ。
「まあ、でもいいんじゃないですか?現地調査には問題ない風体だと思いますよ。」
いすみのたたずまいに華江もうっとりしつつ、言う。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「現地調査をしてみたい?」
政府側の担当者、元は国土交通省官僚の、高橋ゆきおは、いすみの申し出に不満がらみの不服の声をあげた。
「そうです。こちらの仕事の進め方とか、お金のレートとかを、実際に調べてみたいんです。」
いすみが答える。
「そんなことやらなくても、こちらで作った調査資料はお渡ししましたよね。建材のレートも、人工の手配も、こちらにお任せいただいて、あなたたちはこちらのオーダー通りのものを建てていただくだけで良いんですよ」
彼らが作った資料は確かにあった。
例の商会に依頼して資料をそろえ、こちら側の世界の統計専門の会社にまとめさせたらしく、パンや野菜といった商品の値段や、荷馬車の手配賃、建物の賃料、木材の値段、人足の金額も細かに書かれ、体系だててまとめられてはいた。
ただ、その取りまとめ方は、取りまとめるという目的のために取りまとめた。ものであって、この資料を使って、業務を行う。という前提で作られているわけではないので、とにかく見ずらく、必要な情報は得ることが出来そうもない。
役人の作った資料のお手本のようなこの資料をベースに、百戦錬磨のこちらの商人とわたりあえるかといえば、甚だ疑問だ。
例のゲイアサプライヤーをとんでもない価格で売り付けられたり、不当に高い賃料で建物を借りているといった原因の一環が、この資料からも伺える。
彼らは建築行政の専門家であって、交渉と統計、情報収集の専門家ではないのだ。
なぜ、外務省ではなく、国土交通省管轄下の組織が、この事業を仕切っているのかは、「異世界と日本がつながっている」という事実は、現状の日本の「政府」では持て余してしまうのだ。
なんといっても、こちら側の世界にとっては未開の地。
人的資源はもちろん、物理的な「領土」を得ることもできる。
交易を行えば、その利益も莫大だし、山や森や緑や海があるということは、レアメタルや石油をはじめとした、資源が発見される可能性もある。
「異世界」につながっているだけで、その国には、莫大な利益がもたらされる。
ただし、外国と戦うことを封じられた・・・経済的にも政治的にも軍事的にも・・・。な日本という国が、このような莫大な利益を生み出す領域を持っていることが発覚した途端、決してそれを独占することを許されない。自国の利益のために使うことのできない立場のこの国は、<友好国>と、この利益の配分をどうするか。話し合いをしなければならない。
その際、近隣の<敵視している国々>がどのような名目で、日本に対峙するか。場合によっては、直接的な行動に出るかもしれないが、現状の日本では、それに実力で対応することも、現実的には出来ない。
また、日本国内でも、日本という国は得をしてはいけない。という思想に凝り固まっている一派は存在するので、時期によっては、体のいい反政府攻撃のネタにされる可能性もある。
ということで、いつかはばれるだろうが、当面、政府としては、捨て置く。ことにしたのだ。
異世界の外交チャンネルとは日本政府は交渉してない。
異世界と<日本政府>は関わっていない。
このスタンスを貫くことにしたのだ。
ただ、そうはいっても、<ばれた>ときの準備はしておかなければならない。
そこで、あくまで<ばれる>までの間は<民間の>団体が、偶然、異世界と関わりを持ってしまい、<なんとなく仲良く交流しています。>というスタンスで、接触をはかりつつ、ばれたときは、「わあ!そんなことがあったのかああ!知らなかったあああ!」で逃げ切ろう。というのが、現状の日本政府の方針だ。
だから、外務省のような外交の専門機関は使えず、相当、苦しいが、あくまで、偶然出会った異世界という土地で、建物を建てて、なんとなく交流をしている。ということにしたかったのだが、その<建物を建てる>という最初の段階で躓いてしまい、現在に至る・・・。ということになっている。
官僚という存在は、自分の専門分野ではすさまじく優秀な人達だが、専門外になるとからっきしなうえ、<自己の置かれているポジションを正当化するのがとてつもなく上手な人達>なので、現状を把握して、その問題点を解決して前に進む。ということが苦手な傾向がある。
だから、なかなか事態は前に進まないし、現状が決定的なNG状態になっても、<改善するため>の具体的な行動はとらない。というか、取ることができない。
派遣されている民間団体(実際は、国土交通省を「退職」したという名目で天下った官僚のみなさん)の職員は、建物を建てたり、都市計画をする法案や行政の専門家であって、交渉や、案件を具体的に進めていくプロではない。
そこで、そんな現状を打開するために呼ばれたのが、座長である安西の推薦で喚ばれた、いすみたち。というわけだ。
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