12.キミのことが大好きなんだよ

「で、どーするよ?」

「……何?」

「それ外してたら、少年は意識ないんだろ? それなら、答えは俺たちが伝えないとだろう? 外さないとしたら、何か対策を立てる必要もあるしな。どうするんだ?」

「…タカラは。本当に、無事なんだろうな」

「だから言っただろう? 連絡がない以上、無事だけど連絡の取れない状態かこれを折ることもできない状態になってるかだって。悪いが、俺にはそれ以上は判らない」


 無責任と言えば無責任な言いようだが、タツミがあまりに堂々としていて、責めることも考え付かないかのように見える。

 サチって押しが弱いからなあと、和希カズキはこっそり溜息をついた。


 巽が持つのは、乳白色をした燐寸マッチ棒ほどのものだ。中央部分に浅く溝があり、折りやすくなっている。

 これが巽の友人が新開発にたずさわったという代物しろもので、とりあえず現段階では、ついとなる物に変化があれば、もう片方も変化するというものだ。

 巽はそれを、折る回数を決めて通信機に代用したのだ。


「ぐだぐだ考えたって、なるようにしかならんさ」

「だからってタツ兄はいい加減すぎ」


 巽がけた二本目のウイスキーボトルを奪い取り、和希は、まだ半分中身のあるティーカップにそそいだ。

 もはや、紅茶のにおいはほとんど打ち消されてしまっている。


「そりゃタツ兄は、その人たちを信頼してるからいいだろうけど、幸は全く知らないんだよ。不安にもなるってものだ」

「そう言うカズは、心配してないみたいだけど?」

「してないってことはない。相手が大掛かりで鬱陶しそうなのは判ってるし。でもボクは、タツ兄のつてならまあ大丈夫かなと、うっかり思い込んでしまうくらいの素地はあるんだよ。立ち位置が違う」

「それなら、カズの信頼してる俺の信用してるやつらがかくまってるから大丈夫だってことにしておけ、幸少年」

「詐欺師みたいな口調になってるよ、タツ兄」


 そいつはひどいと、巽は破顔した。そうして笑うと、いくらか幼く見える。表情や口ぶりに騙されるが、本当のところ、巽は童顔なのだ。

 唐突に、幸が盛大に息を吐いた。何事かと、和希が思わず注視する。


「お前たちを見てると、馬鹿らしくなってくる」

「…褒め言葉ではなさそうだなあ、それって」


 あまりにも生真面目きまじめなかおで言われ、和希は、反応に困った。巽を見ると、何食わぬかおで酒を飲んでいる。


「もう少し、考えさせてくれ。とりあえず、あいつらが来たら――これは外すから」


 浅葱は、幸が自分で外すのはこくだと言った。

 浅葱の覚醒をうながすことは、つまりは「長良ナガラ幸」の消失を招きかねないのだから、当然だろう。

 かたくなに聞こえる幸の決断に、だから和希は、強いと思っていいのか、自棄やけと取れるのか、判断に迷った。

 ただどちらにしても、自分の言葉ではくつがえせそうにもないなと、漠然と淋しく思った。

 だが、そこで諦めるつもりもない。


「幸、覚えておいて。ボクは、キミのことが大好きなんだよ」

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