11.俺が決めることじゃない

和希カズキ君」

「はい。あれ、ヤナギさんは?」

「帰した。何かあったら、また呼ぶとは言ってる」

「…ずっと不思議だったんだけど、水無瀬ミナセさんのあの無茶な要求も通る伝手つてって何なの」


 伝手というか、人員というか。

 突然呼び出され、一方的に用事を押し付けられても文句を言わず、かといって脅されている気配も、嫌々従っている様子もない。

 出会った当初のことはよくわからないが、少なくとも、タツミが高校生になった頃には、彼らとの付き合いがあったと思われる。

 布団のかたわらに正座する和希の横に胡坐あぐらをかき、そうだなと、記憶をたどるように目線を泳がせる。


「族の知り合いとか仲間とか、あとは地方極道の奴とか、そんなところだな」

「……何やってたの」

竜見タツミの家では、それなりに気を使ってたからな。無背ナセから出なかったから知らなくても不思議じゃないが、一応、有名だったんだぞ」


 一応どころじゃなさそうだ、と思いながら、口をつぐむ。しかし、成績が良くて不良となると、学校関係者は、さぞかし不服だったことだろう。


「それより、これからどうするつもりだ」


 どうやら考えないようにしていたらしいことを正面切って訊かれ、ようやく、そのことに気付かされる。

 いくらなんでも、和希の手には余る事態だ。かといって、放棄もできない。


杉岡スギオカさん、身柄の確保をお願いした人は、無事なんだよね?」

「多分な。はっきりと聞いたわけじゃないが。何しろ、あの地下だ。一方的とはいえ、通信手段がたもたれていたことをめてほしいくらいだ」 


 今回連絡に使った器具は、巽の大学の友人の試作品だったらしい。

 大掛かりな電波などを介することのない離れた場所での連絡手段を研究しているということだが、現段階では、せいぜいがon/offが判る程度、それも、実験以外での使用は今回が初とのことだ。

 いやそうじゃなくてと、わずかとはいえれた思考を戻す。

 巽は尋ねはしないが、これ以上巻き込むなら、知っているだけのことでも、全て打ち明けるべきだろう。そうでないなら、巽にも離れてもらった方がいい。


「…事情、聞きたい?」

「俺が決めることじゃない」


 判断を委ねようとしていた浅ましさをあっさりといなされてしまい、情けなさに溜息をついた。

 好きだが苦手という点において、巽は、祖母や節子セツコと同じ位置にある。つまりは、家族に対するそれだ。甘えてしまうとわかるだけに、苦手に思う部分がある。

 和希は、もう一つ溜息を落とすと、ここに至るまでの経緯を、かいつまんで話して聞かせた。

 話し声でサチを起こしてしまうことも考えられたが、むしろ、起きてもらったほうがいいからと、部屋を変えずにそのままで。


「つまり、梅雨蔡の由来は実話だったかもしれないってことか」


 話し終えての第一声がそれで、そういえばそうだと、気付かされてうなずく。


「もっとも、龍神伝説はたくさんあるから、幸が無背の龍神とは限らないわけだけど」

「俺も、そこまでは言ってない。しかし、神なんて呼ばれてたものが、金属なんぞで取り押さえられるってのも、つまらない話だな」

「でも、河童は鉄が苦手で、狐は人のつばが嫌いで、なんて伝承もあるし。封じ込めるものがあったとしても、おかしくはないんじゃないかな」

「妖怪と神を同列にして、たてまつる奴が聞いたら卒倒するぞ」

「元々同じようなものだって説もあるんだから、このくらい大丈夫だって」


 二人とも、ふざけているわけではなく、ただ脱線しているだけだ。


 そんな会話をしているうちに布団の上では幸が意識を取り戻していたのだが、話し込んでいた二人が気付くまでにしばらくかかり、和希が飲み物を探して立ち上がるまでには、更にもう少しかかった。

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