11.た、助けて…
「この先どうする」
「うーん…とりあえず、着替えと休める場所だね。
「それなら、うちに行くか」
「あ、うん。お願いします」
バックミラー越しに、おっかなびっくりといった風に向けられる
鏡越しに巽と目が合って、軽く肩をすくめられた。俺は知らないぞと、その瞳が言う。
「
「お前は?」
同じ声のはずなのだが、何故こうも、響きが違うのだろう。ただ一声で
そこにいるのは、神でなかったとしても、人ならぬものに違いないと思わせる存在だった。
「長良幸の友人。あなたは、幸ではないの?」
「ああ…そうか…カズキと、言ったか」
「え」
何故名前を、と思ったが、とりあえず
「持っているものを貸せ。それをつければ、
「え?」
わかるようなわからないような言葉に戸惑っていると、「幸」の方から腕時計を取り、
途端に、威圧的な空気が消え、髪の色が黒くなる。閉じられた瞼の下の虹彩も、人のそれに戻っていることだろう。
「あ。あぶな…っ」
ぐらりと、力の抜けた幸の体が
抱きしめるような形のまま、揺れる車内で、押し倒されているような抱きかかえているような状態のまま、ろくに身動きが取れない。
下手をしたら、シートの下に落ち込んで、余計に身動きが取れなくなりそうだ。
「た、助けて…」
「無理だ。着くまで大人しくしてろ」
「そんなぁ」
我ながら情けない声を上げながら、低温の幸の体が、徐々に人並みに体温を取り戻していくのが判り、それには安心した。しかし、このままの体勢はつらい。
「幸が起きたら何とかなるのに」
「おい。本当に、それでいのか?」
「え? 何が?」
「今の状況でそっちの少年が目を覚ましたら、お前、抱き合ってる状態だぞ」
ああそうかと、言われて気付く。それはまずいかもしれない。驚いた拍子に、やはり、シート下に落ちそうだ。
水無瀬家に着くまでに、苦労して幸の体を動かし、膝に乗せる。到着したころには、その体勢で落ち着いていた。
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